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『アウト・オブ・灰塵世界』【完結】  作者: 久瀬 風助@鬼叺 連
六歩目:戦獣奪還、開戦す
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85.対破壊特化型戦獣(5)





 此処に至るまでに、キナリは人である事を捨てた。だが捨てたのはキナリだけではなく、ウスズミも同じだった。


 此処に至るまでに、ウスズミはキナリが友人である認識を捨てた。人であるという前提を捨てた。国を捨て、自由を捨て、可能性を捨て、命すらも敵前に晒し続けた。


 此処に至るまでに、多くを捨ててきたのはウスズミだった。そしてまた彼はまた『足枷になる』として、新たに『もう一つ』を捨てた。


 捨てたのは何か?(キナリ)と同じくして人間性か、それとも冷静さか。


 ━━否。その何れもが不正確。彼が捨てたのは『かつての友』という、切り離し難かった()()だ。



 「……ッッ!」


 「ココから、反撃開始だ、シュレッド」


 

 成功とは水だ。心地の良いそれに足を取られれば、容易く溺死する。大きな力であればある程、慢心や油断に背後を取られるのが常だ。


 今のキナリに物理的な攻撃の殆んどが効かない。届いた所で彼には『修復』がある。……けれども、その『修復』には()()を要するとウスズミは推察した。


 危惧からか、それとも人であった事の名残か。キナリは背後から迫ったトクサの爪を反射的に避ける。瞬間的な移動によってウスズミとの距離が離れるが、()()()()()()()()()()()()キナリとの間合いを離さなかった。



 「(トクサの攻撃に対しての反応が、僕達に対してのモノとは明らかに違う…!)

 ━━ッ攻撃の主体(メイン)はトクサ、ラヴは僕の、僕はトクサのサポートに回る!」


 「ちょっと待ちな兄弟(ブロー)ォ!! なんだってあのガキまでいけ好かねぇ野郎と同じ芸当が出来んだ!?」



 ウスズミは攻撃の刹那、既に幾つかの()()()を経て、積み重ねていた。『修復』の時間を初めとしたそれらは今、着実に真実味を帯び初めている。



 「……今のキナリには、恐らく此方(アカツキ)戦獣兵器(ライジュウ)の保有する加速機構が組み込まれている。どういう理屈かは不明だ。


 トクサの持つ『自己改造』が他者の持つ人格以外…能力や機構すらも自らのモノに出来るのならば、トクサが『加速機構』を持つ機会は()()()()()()()()。あの速度に対抗出来るのはトクサだけだが……」



 脳裏に浮かんだ、かつての光景。『トモダチ』を喰らうトクサの姿。……しかし、彼女はそれよりも以前から『自己改造』を保有している。故に、彼女はライジュウの言葉を『理解』する事が出来ていたのだろう。


 確信があった。彼女は『速度』に対抗する事は出来る。……が



 「それではまだ一手、足りない。 ━━ラヴ、君の触腕は彼処まで僕を吹き飛ばせるか?」



 言うなれば現状は『アイコ』の状態。互いの手が拮抗し、押し通す事の出来ない状況下。次点で無数の手札を背後に忍ばせいてるのはキナリの方。……トクサは今、『アイコ』を勝ちへと引き寄せなければならなかった。


 戦う者の大半が、一個団体の力を持つ個人。『量』で戦うラヴにとって、彼の言葉も彼等のスペックも浮世離れしたモノだった。



 「……正気か!? ったくよォ!こんな個人技だらけの戦争なんざ初めてだぜッッ!!」



 悪態を吐きながらも象られた触腕は、ウスズミを掴み、投げ飛ばした。舌打ちもする、馬鹿げた言動と行動に呆れすらも見せる。……が、ウスズミをラヴは否定しなかった。


 一歩も退かない、キナリに対しても見せた眼差しはラヴにも注がれた。━━無下に出来る訳が無かった。



 「(稼働限界まで35%……予備電源(ストック)は問題無し…!!)」


 「━━━しつこいなァ」



 キナリに目掛けて、稲光に似た一閃が迫る。しかしキナリにとってそれは、『そんなモノ』と排斥するに容易かった。

 脅威にはならない。……されども、その表情には曇りが見えた。


 該当する言葉は恐らく見当たらない。『焦燥』、『嫌悪』、『困惑』、恐らくそれらの一端を寄せ集めて、宛がっただけの仮初めの感情(データ)を反映させているに過ぎない。 キナリの傍らには、それよりも脅威となる標的(ターゲット)が居たのだから。


 不快渦巻く末、キナリの取った選択。それは━━



 「お呼びじゃないんだよ、(ウスズミ)は」



 『此方へと近づく、面白くない邪魔者の排除』。━━気付きは再度、()()へと形を変える。





 「━━『僕に集中したな』ッ!!」


 「………!?」




 咄嗟に、俯瞰しようとする。




 「いったハズだ、反撃開始だって」



 しかし、一手。間違いなく『遅い』と認めざるを得ない結果が、既にこの空間を支配していた。


 キナリの背後、夜をバックに碧色の双眸が揺らめく。


 トクサの振り降ろした黒い両腕は、大地に淡く翡翠に光る交差を刻んだ。かと思えば地面ごと抉り裂いた輝きは、キナリを含めた瓦礫を力強く振動させる。


 先程、肺を貫かれた。━━それ以上に『致命的』だと思わせる『自己改造型蹂躙戦獣(プロトタイプ)』の戦闘能力が発揮された瞬間だった。



 「(……想像を遥かに超えている。これ以上は使わせたくないが…無理だろうな)……トクサ、こっちに」


 「うん、ウスズミ。ウスズミはこわくないか?」



 僅かに震える身体。人の身体構成をベースとしているから、それとも彼女自身が『恐れている』のか。━━既に収まった衝撃の跡を見つめるウスズミは確かに緊張していた。



 それでも、トクサが怖い訳が無い。

 ウスズミにとって彼女の存在は、決して変わらないモノなのだから。



 「━━勿論。君は空を夢見て、憧れる、僕の知ってるトクサだろう?」

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