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『アウト・オブ・灰塵世界』【完結】  作者: 久瀬 風助@鬼叺 連
六歩目:戦獣奪還、開戦す
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82.対破壊特化型戦獣(2)





 ずっと続く繁栄には確実な『未来』が待ち受けている。━━聞こえは良いが、それは単なる漠然とした事実に過ぎない。果てまで続く継続性よりも、彼女(ルリ)は未来に『幸せ』を求めていた。


 奪われ続けるのは幸せではない。『未来に繋がる』事を免罪符に素材として見られる事を、その所為で自らの親を消費される事を幸せとは呼ばない。



 己から奪うだけの国に、英雄(ヒーロー)は味方しない。



 「ッッッあああアアア!!!」

 


 キナリの身体が浮かぶ。止めどなく血潮が手を濡らす。か細く、白く、今にも折れかねない少女の四肢は、奇しくも秘めた怪力で目一杯に大きく、弧を振り抜いた。


 『壊れた歯車』、自らをそう呼称したキナリ。彼はルリから日常を奪った。友人を奪った。そして親を奪った『繁栄』の信奉者だ。


 向けるべき矛先を、貫くべき相手を彼女(ルリ)は此処に立つ前から決めていたのだ。



 「……ルリ、チカラモチだったのか」


 「トクサちゃんほどじゃないよ。

 ━━それよりもウスズミさん、リンドウさんを安全な場所へ」



 ……束の間の微笑みは即、反転する。握る槍の切っ先を振り払い、鋭さを伴う双眸でキナリを見た。


 倒れる彼は動いていない。だが、代償の果てに狂い果てる事を選んだ彼が、不意を突いた程度の一閃で止まる筈が無い。

 穿たれた右胸は朱に染まったが、()()()()()()だ。致命傷に値するその傷ですら、()()()()()という理由には足らない。



 「━━戦場である以上、安全な場所は無い。いずれにせよ何処かで、彼女の身体を火に晒すことになる」


 「……ですよね」



 正直な回答に彼女の視線が下がる。だが『待った』を掛けたのも、またウスズミだった。



 「そこでだ、ルリ。君に彼女の守りを任せたい。僕達は兵士だが、君は『英雄』なんだろう? 唯一、安全な場所があるとするなら…それは君の『後ろ側』だろう」



 トクサはこの戦争の対象(ターゲット)だ。降り掛かってくる火の粉の桁が違う。

 ラヴにとってリンドウは守る義理が無い。可能性ではあるものの、彼女達に戦友を殺されている為だ。

 無論、ウスズミにも迫り来る全てを防ぐ程の実力は無い。



 ━━故に彼はルリに託した。


 一度でも目の当たりにした規格(スペック)。一つの国が産み出した、『かくあるべし』という理想の果てに作り上げられた限界の先。もし異なる未来があったならば、トクサの変わりとなって『決定力』として君臨したであろう、破綻者(イレギュラー)の力。



 「……分かりました、リンドウさんは任せてください、班長」 



 ウスズミの指示、ルリはかつての第8班の光景を重ねて改めて、ウスズミを『班長』と呼ぶ。


 既に手放した筈の日常へ回帰。英雄は人としての表情を取り戻したように、柔らかく笑った。



 「ラヴとトクサ、そして僕は可能な限り彼奴(キナリ)を……っ!?」



 しかし、理不尽にも『悪意』は迫り来る。直感が鳴らした警鐘に向け、反射的に自らの得物を振り抜いたウスズミ。その一太刀は確実に、()()を両断した。



 弾丸ではない。かといって砲弾の様に人が作り上げた精緻な球体ではない。ままに砕かれ転がっていた『瓦礫』にしか見えない岩の塊。


 一直線に、其処に立つ者達に向けて()()()()。強化外骨格を装備していなければ、間違いなくウスズミは命を落としていただろう。



 「……ロマネスクもトんだ酔狂だな。愛国心の全くない者に()()を授けるなんて」



 距離が縮む。姿が明瞭になる。



 「……オイオイ、そんなのアリかよ」



 呆れの中、込み上げるのは乾いた笑いだった。いつしかワカバの告げた演繹の結果を、ラヴはやっと溜飲するに至った。人の域を超える、無理矢理人の形に抑え込まれた『主張』の塊。それが今のキナリ・シュレッドだ。


 彼等の視線の先にあるのは、一つの違和感。━━傷跡が、穴が、跡形もなく塞がれている。それだけではなく、血潮に染められた血液の色味すらも消し去られている。


 それは比喩表現に非ず、彼は現実に『何事』もなくそこに在った。

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