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『アウト・オブ・灰塵世界』【完結】  作者: 久瀬 風助@鬼叺 連
六歩目:戦獣奪還、開戦す
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81.対破壊特化型戦獣(1)




 身構える。理性的に、そして反射的に。防衛の体制を取る事が何よりも自然だと思わざるを得ない。


 強く睨む瞳の(そば)を一縷の汗が撫でる。同じく立っている筈の場所で、キナリは宛ら『玉座』に君臨しているかの余裕でウスズミを内側から見下している。



 「………ッ」


 「ん~……もしかして、警戒されてるかな? なぁに、僕はただ盗られたモノを『取り返しに来た』。ただそれだけなんだぜ? 警戒される謂れは無いと思うんだけど……」



 困ったように、呆れたように。頭髪にわざとらしく手を当て、キナリはウスズミの知る『(キナリ)』を自らに投影する。


 けれども、ウスズミにはそれが不思議と滑稽に見えたのも事実だった。座した玉座の上、見下す彼を見上げるかの如く口角を上げるウスズミ。



 「━━相変わらず口がよく回るじゃないか、キナリ。都合の良い講釈で人を煽動するのは楽しいか?」



 恐れる必要は無い。変質したのは事実、しかし臆する理由には足りない。彼女(トクサ)()()として扱う彼に屈してはならないと気概を奮わせるウスズミ。


 ━━対してキナリ。その視線は彼には向かなかった。外れた視線は周囲に転がる建物の瓦礫。労働力(スレーヴス)の残骸。……そして、リンドウ以外の『年長者』の骸に注がれていた。 ラヴを止められなかった、ラヴの逆鱗の餌食となった4人の無惨な姿が。残った一人(リンドウ)と共に重なる。




 一方で、リンドウは千切れた指を、縦に裂けた前腕を気にも止めず。震えて覚束ない足を前へ前へと進めていた。



 『やっときた』


 『これで救われる』



 抱いたモノは単純にして明快。覚束ないし確証も無い、ただ『キナリが来た』事に対しての『信仰』に近しい感情。ウスズミ達は止められなかった。トクサも確保出来なかった。けれども、『収穫』は確かにあった。


 何よりも、『生き延びた』のだ。


 ()()()()()()。きっと、称賛してくれる。━━偽りとなった人格の上に形成された、歪曲な喜び。ただそれを満たしたいが為に、掠れた息で『キナリ』の名前を呼ぶリンドウ。




 「まぁ、いいか」





 『━━━━━━え?』



 一滴の毒が、彼女に対しての褒美だったのかもしれない。……否、それが『褒美』であれば彼女は喜んで享受するだろう。


 しかし、()()()()()与えられない。キナリは()()()()()()()()()()()()()()、リンドウの存在を、価値を、容易く切り捨てる言葉を吐き捨てた。



 「……お前、見えないのか?」


 「所詮は『デザインベビー』、作り物だ。今ストックしてる情報ならアレ以上のモノは後で造れる。 ━━そんな事よりもウスズミ、随分物々しいブツを右腕に付けてるね?それはなんだい?」



 疑問の余地すらもなかった。ウスズミの抱いた困惑は、嫌悪へと変貌したが、キナリはそんな事知る由もない。もしくは()()()()()宣っているのかもしれない。


 デザインベビー。作り物としてのヒト。一つ一つと、彼女がキナリに拘る理由が、朧気ながら繋ぎ目を埋めていく。



 「…………リンドウ!!今からでも遅くない!!僕の手を!!」












 「━━━━━━━━━━━━━。」







 もう、遅かった。


 割れる。割れる。割れる。


 音を立てて、荒廃する。崩壊する。傀儡を繋いだ糸は切り取られ、そこに立っていた人の形は膝を崩して立てなくなる。


 最後の瞬間。彼女は、彼は。誰かにとっての誰かは。『光』を確かに目の当たりにした。目の当たりにしただけ、幸せは存在していたのかもしれない。しかし、そんな物は数ある形の内の一つに過ぎないのだろう。



 『貴方は(オレ)にとって、(ぼく)にとって。わたしにとって。たった一人の、一つの。大切な━━━』



 『(おとうさん)』だったのに




 割れる。割れる。割れる。


 音を立てて、荒廃する。崩壊する。風化して、砕け散る。今まで彼女に蓄積された情報(データ)が塵に溶けていく。黒濁した瞳は、曇天を映し出している。


 まるで、消え行く思い出を見送るかのように。取り返せない己の死を目の当たりにするように。


 彼女は今、『何者』でもなくなって。


 ━━()()()()()()()()()()



 「死んだ者の事なんて、どうでも良いだろう?ウスズミ」


 「━━ッッ!!!」



 刹那、覆い被さる悪辣。何処までもドス黒く、何処までもねじ曲がる快活な声は、耳によく触った。

 ウスズミはすかさず右手に携える刃を、感情の赴くままにキナリに振りかざす。



 ━━しかし、それだけではなかった。



 「………………おかしいなァ、君は()()()じゃ無かったのかい?」


 「酔狂に走った獣を討つ事も、私に与えられた権能の所以です」



 キナリはウスズミに集中していた。故にその攻撃を自らの権能で受け止める事は出来た。故に、その身体には傷一つ無くて然るべきだ。



 「いくら道を違えようとも、いくら悪の軍門に下ろうとも……善の本質は変わらないのが()()なんですよッ…!!」

 


 だが、違った。彼の右胸を穿つ、赤を帯びた黒い切っ先。靡く毎に煌めく青い宝玉の髪。


 キナリの背後。其処には英雄に違わぬルリの姿があったのだ。

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