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龍の襲来と市街地戦


「問題はその風龍がどこへ行ったかだけど。今頃は地平線の彼方か?」

「いや、まだ近くにいるはずだ。ハイエナを追い払うためにな」

「なら、ここにいるのは不味い」


 日下部と顔を見合わせ、すぐにバギーカーに乗り込み、街へととんぼ返りした。

 タイヤ痕をなぞるように雪原をかける最中、はるか上空で咆哮が轟いた。

 窓から身を乗り出して天を仰ぐと太陽を背にしたドラゴンが空を渡るのが見える。

 その行き先は間違いなく、氷漬けになった街だ。


「風龍だ。勝手に冷蔵庫を漁られて怒ってる。蔵木!」

「任せてください! 腕が鳴りますよー!」


 更に速度が上がり、押さえ付けられるような圧を感じるほどに加速する。

 すこしでもバランスを崩せば横転しかねない荒っぽい運転だが、空をいく風龍に見事に食らい付いていた。

 その代償として車体が上下に激しく揺れて舌を噛みそうになったが、この際それには目を瞑ろう。


「奴が城壁を越えた!」

「私たちもですよー!」


 風龍が街に侵入した直後、俺達も城壁を越えにかかる。

 車体がギリギリ通る程度しか幅がない凍てついた城門に向かって。


「おいおいおい、大丈夫なのか、減速とか」

「必要ありません、全速前進ですよー! おー!」


 あろうことか更に速度を上げ、制止しようとする番兵を振り切る。

 バギーカーは針に糸を通すかの如く、するりと城門を潜り抜けた。

 スクラップの一部にならなかったことに、心の底からほっとする。


「わお! これが遊園地のアトラクションならあと二度は乗るね」

「俺は二度と御免だ」


 魔鳥越しに見ている奴は気楽でいいな。

 隣の日下部でさえ胸を撫で下ろしているというのに。


「見えました! すぐそこですよー!」


 フロントガラス越しに前方を見ると、街中に降り立った風龍が映り込む。

 極限まで無駄を省いた流麗な造形美に複数の排気口を持つドラゴン。

 深緑の鱗を身に纏い、翡翠の瞳で獲物を捕られていた。

 風龍の能力で周囲の風が刃となって氷漬けの民家や道路を切り刻み、その最中で咆哮を上げている。

 進路上には逃げ惑う人々でいっぱいで、蔵木は器用に躱して風龍に近づいていく。


「不味いぞ、人が喰われる!」


 這崎が叫んだ通り、腰を抜かして動けなくなった民間人を喰おうと、風龍は大口を開けている。

 その鋭い牙で食らいつき、噛み砕くのに秒と掛からない。

 思わず斬龍のスキルを発動したが、それより早く日下部が動く。


「任せて」


 風龍が民間人に食らい付いたその瞬間、それを阻むように透明な壁が迫り上がった。

 それは盾のように、檻のように、民間人の四方を囲んで正方形となる。

 それに牙を突き立てた風龍は噛み砕けずにいた。


「到着です! あとは任せましたー!」

「任された!」


 バギーカーから飛び降り、腰に差した鞘から刀を引き抜く。


「私は民間人を」

「あぁ、頼んだ。日下部」


 何度も四角に噛み付いている風龍を見据え、刀身に魔力を纏わせた。

 その瞬間、斬龍の気配を感じたのか、奴の注意が民間人からこちらに移る。

 それと時を同じくして一閃を振るい、魔力を斬撃として解き放った。


「ギャアアァアアァアアアアアアアアッ!」


 咆哮と共に風の刃がいくつにも重なって魔力の斬撃と衝突する。

 こちらの一撃はそのすべてを断って風龍にまで届いたが、その硬い鱗に弾かれた。

 多少仰け反らせ、鱗にも傷を刻んだが、肉体的なダメージは皆無に等しい。

 けれど、これで注意は引けた。


「さぁ、来い。冷蔵庫を漁りに来たぞ」


 怒り狂ったように風龍は咆哮を放ち、深緑の鱗に包まれた巨体がこちらに突進する。

 それを見計らって蔵木がアクセルを踏み、その巨体と擦れ違う。

 斬龍の力に引き寄せられた風龍は、バギーカーなど気にも止めずに大口を開けてこちらに食らい付いてくる。


「とりあえず、ここまでは良し」


 その牙から逃れるために空中に霊符を浮かべ、それを足場に飛び上がった。

 巨体が真下を通過して突進を交わし、その無防備な背中に一撃を見舞おうと柄を握り締める。

 けれど、頭上に逃れた俺を追い掛けるように風の刃がいくつも放たれた。


「チッ」


 それは足場にした霊符を斬り裂いてこの身に迫り、その対処を余儀なくされる。

 風の刃を斬り払うことに手一杯で攻撃は叶わず、あえなく凍てついた道路に足をつく。


「厄介だな」


 距離を開けると風の刃を放たれてしまう。

 着地と同時に思考を巡らせ、即座に距離を詰めにかかる。

 振り返った風龍はこちらを見据えると、突風に乗せて大量の風の刃を放出した。


「ッ――」


 この街の気温は零度を下回る。

 平時ならただの突風でも、現環境では身を切るような痛みを伴う。

 風の刃を切り払えても、突風自体はどうにもならない。

 本当に肌が切れて出血するのではないかと感じるほどに冷たい風が頬を掠めていく。

 このままだと近づく前に凍えてしまう。


「しようがないッ」


 霊符を束ねて狐火を灯し、火球を一つ作り上げる。

 その火力は冷風によって一段と盛り、燃え盛るそれを風龍へと飛ばす。

 これでダメージを与えられればと期待したが、火球は風の刃に引き裂かれて掻き消えてしまった。


「硬度が足りないか、なら」


 再度、霊符を束ねて狐火を灯す。

 けれど、今度の形状は火の玉ではなく、火の槍だ。

 霊符を折り紙のように折って重ねて硬度を上げ、武器として造り上げる。

 それに狐火を灯して火槍とし、向かい風を貫くように投擲した。

 その貫通力は火球の比ではなく、真っ向から風の刃を弾いて風龍の元まで届く。

 このまま龍の鱗を貫くかに見えた火槍だが、それは叶わず虚空を突く。

 風龍は直前で羽ばたいて空中に逃れたからだ。


「読み通り!」


 斬龍のスキルは刀剣を造り出す能力。

 火槍が躱されると見越してすでに仕掛けておいた。

 逃げるであろう空中に無数の刀剣を配置し、一斉に落とす。

 刃の雨に打たれた風龍は翼膜に穴が空き、浮力を失って地面に叩き付けられた。


「このまま!」


 とどめを刺そうと道路を駆け、地に伏した風龍へと駆ける。

 その巨体が持ち上がるころにはすでに至近距離、首を刈るために刀を構えた。

 瞬間――


「ギャアァアァアァアアアアアアアア!」


 咆哮と共に周囲の空気が風龍に取り込まれ、凄まじい勢いで排気口から放出される。

 全方位に向けて剛風が解き放たれ、周囲にあるすべてを吹き飛ばす。

 凍てついた家屋が倒壊し、道路が捲り上がり、俺の体など為す術もなく宙に浮く。

 そのまま大きく吹き飛ばされて凍った地面の上を転がり、全身に鈍い痛みを感じながらなんとか立ち上がる。

 まるで空気の壁に弾き出されたような感覚がした。

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