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暖かい昼食と凍った湖


「特定が済んだよ。十中八九、水龍だそうだ」

「えぇ、わかった。その対策を練るわ」

「お、おう」

「なに?」

「いや、いま普通に会話が成立したなって」

「返事をしたんだから、当たり前」


 そう言って日下部は先に行ってしまう。


「日下部って無口なのか?」

「そうでもないぞ、女共とはよく話してる」

「ってことは、やっぱ嫌われてんのかな」

「どうだろうな。男が嫌いなだけかも知れないぞ――っと、来た来た」

「来た?」

「こっちの話。小糸に昼飯を買ってきてもらってたんだ」


 そう言えば、もうそんな時間か。

 一度、蔵木と合流して飯にしないとな。

 アレのせいで食欲はそんなにないけど。


「おまたせー。今日のランチはカレーライスよ」

「カレー……ライス?」

「そうよ、好きでしょ?」

「あ、あぁ、まぁ、そうなんだが……」


 這崎の顔が見れないのが残念極まりない。


「ローストしてやろうか?」

「やめろ! はぁ……今日は厄日だ」


 胸がすくような思いをしつつスコップを返却し、アレまみれのゴム手袋を破棄し、日下部に追いつく。


「なぁ」

「今度はなに?」

「いや、そのなんだ……俺たち、これからよく現場に出て、それからドラゴンと戦うだろ? いわば俺たちは相棒だ」

「相棒? まぁ、そうかもね」

「だから」


 日下部の前に回り込んで、言葉を続ける。


「だから、わだかまりは早いうちに解消して起きたいんだ」


 這崎には何もしない方がいいと言われたが。


「知らなかったとはいえ、初対面の時は不快な思いをさせた。悪かったよ」


 そう謝罪すると日下部はすこしの沈黙ののちに口を開いた。


「あなたは一つ、勘違いをしてるわ」

「へ?」

「すべては私の実力不足。部隊の要として適正があるのはあなたのほう。私はそれを理解しているし、納得もしている。悔しいと思う気持ちは当然あるけど」


 思わず眉間にしわが寄った。


「ちょっと待てよ、じゃあ……これって」

「あなたの独り相撲よ。あぁ、二人かもね」


 日下部は頭上で羽ばたいている魔鳥を一瞥し、俺を迂回するように通り過ぎた。


「マジか」


 どうやら不必要な気をもんでいたらしい。


「よう、どうだった?」


 話が終わったとみて、魔鳥が降りてくる。


「万事解決。ただちょっと間抜けだっただけだ。俺たち二人ともな」

「間抜け?」

「あぁ」


 止めていた足を動かし、待機していた蔵木と合流する。

 それから近くのすいている飲食店に入って昼食になった。

 もちろん、きちんと手を洗った。いつもよりも念入りに。


「その街の周辺に大きな湖が一つある。水龍がどっぷり肩までつかれるくらいの規模だ」

「じゃあ、今はそこに潜伏してるって訳か」


 メニューを眺めつつ、鳥籠に囚われた魔鳥に返事をする。


「すでに移動している可能性もあるから、湖にいなければ川を上ることになるな」

「このクソ寒い中でやりたいことじゃないな」

「熱いシャワーが恋しいか? あとクソって言うのは止めろ」

「はいはい。じゃあ、一旦街を出てその湖の様子を見にいくってことでいいか?」

「えぇ」


 向かい側の席に座る日下部が短く返事をし、視線をその隣へと向ける。

 蔵木の返事を待ったけど、とうの本人はメニューと睨めっこをしていて口をつぐんでいる。


「蔵木?」

「あ、はいー。湖ですね、わかりましたー」


 話はちゃんと聞いていたみたいだ。


「すみません、なにを食べようかと迷ってしまってー。カレーライスとハンバーグ、どっちが良いでしょうかー」

「ハンバーグ」


 三人同時に声が揃う。

 俺と這崎と日下部の息が合った初めての瞬間だった。


§


 氷を切り出した城門からバギーが抜け、道なき雪道を駆ける。

 飛沫のように雪を散らして目指すのは水龍がいると思しき湖だ。


「水龍は一生の大半を水中で過ごす。主食は主に魚や水生の魔物。水を操作する能力に長け、水中戦を挑むのは無謀だと言えるだろう。だからまず奴を陸に上げる方法を考えるべきだな」

「釣り糸でも垂らすか?」

「そりゃいい。鉄骨とワイヤーがいるな。あとデカい魚」

「試験の時みたいなゴーレムもな――っと?」


 雪道を掻き分けて進んでいたバギーが停止した。

 窓の外をみると、まだまだゲレンデが続いている。

 湖は見えない。


「どうしたんだ?」

「目的地につきましたー……というより、通り過ぎたといいますかー」

「つまり?」

「ここ、湖の上なんですよー」


 そう聞いてすぐにドアを開けて外に出る。

 車の前まで進んで視野を広く保って見ても、湖は見当たらない。

 足下の雪を足で蹴散らしてみると、その下には分厚い氷が敷かれていた。


「ホントに湖の上だ……なぁ、このバギーって何キロあるんだ?」

「そうですねー……一トンくらいはありますよー」

「わぁ、凄い。それで割れない氷のほうも」


 どれだけ分厚いんだ?


「大寒波が産んだ天然の道路だな」


 開いた窓から魔鳥が跳んでボンネットの上に止まる。


「このバギーが乗っても割れる気配もないところを見るにかなり分厚そうだ。街を凍らせて湖に戻るころにはすでに氷は張っていたはず。水龍は氷を破って水中に入ったはずだ」

「けど、そんな大穴が空いているようには見えないぞ」


 見渡す限り、平坦な光景が続いている。


「雪が積もっているから穴が消えたように見えるのか、もしくは――」

「あーあ、食後に嫌なものみちゃった。這崎くんが嫌な顔した理由もわかっちゃったわ。わかりたくなかったけど」


 魔鳥の声が這崎から小糸のものに切り替わる。


「あー……ドラゴンのアレに魚の骨と一緒に混ざっていた謎の骨だけど。魔鳥のものだったわ」

「目の前にいる、これ?」

「そうだけど種類が違うの。骨の形状が特徴的なものだったからすぐにわかったわ。これは山の頂上付近に生息する魔物のものよ。すくなくとも標高千メートル以上にしかいないわ」

「だとすると、水龍がその魔鳥を捕食するのは無理だ」


 再び音声が切り替わり、這崎になる。


「氷龍は魚を食わない、だが水龍も魔鳥を食う機会がない。とすると……」

「本命も対抗も外れなら、大穴だな」

「そうか、風龍だ」

「やっぱり、大穴だ」


 予想が当たった。


「風龍は風を操作する能力に長けている。竜巻を起こして海や川から魚を巻き上げることもできるし、魔鳥の生息域にも容易に侵入できる」

「寒波の被害も大きくできるか?」

「風を操作できるなら雲を動かして天候に影響を与えられる。空気の流れを調節して冷気を滞留させれば寒波の被害は例年の比較にならない。風龍の能力とここの気候が合わされば街一つを大きな冷蔵庫にできるはずだ」

「よし、これで正体が完全に割れたな」


 この街を氷漬けにしたのは風龍だ。

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