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龍の影と残された物


「すみません。この車ではこの先に進むのは無理です」


 凍りついた城壁を潜り抜けて、いざ街の中へ。

 そうなるはずだったが、寸前のところで足止めを食らってしまった。


「城門が凍りついてて、この車が通れるほどの幅がないんです」

「むーん、困りましたねー」


 番兵と対応する蔵木を眺めて一つ閃き、扉を開けて外に出る。


「うわ、さむっ」


 コートを着ていても隙間をすり抜けるような寒さに身が縮む。

 暖まるために足を動かし、凍りついた城門へと向かう。


「おやー、どこにいくんですかー?」

「城門は凍ってるんだろ?」

「えぇ、そうです」

「じゃあ、そいつを溶かしてくる」

「溶かすって、あ、ちょっと」


 慌てた様子で後から番兵が追い掛けてきて、追いつくころには氷の前にいた。


「たしかにこれじゃ通れないな」


 分厚い氷に城門が占拠されている。

 削り出して切り取った後があり、普通自動車がギリギリ通れるくらいの入り口はできているものの大型バギーカーは通れそうにない。


「どうして入り口をもっと大きくしなかったんだ?」

「家の扉が凍りついて外に出られない人達が大勢いるんです。労力や道具は救助に回して、こっちは最低限にしてあるんですよ。ほかの城門は完全に塞がってます」

「なるほど、じゃあしようがないか」


 狐龍のスキルを使い、自らの服装を戦闘服とコートから陰陽師のような服装に替える。

 寒さが応えるが、霊符を寄りだしてそれに狐火を灯した。

 発せられる熱が寒さを軽減してくれる、コートよりこっちのほうがいいかも。


「もしかして溶かす気ですか?」

「あぁ、なにか不味い?」

「いえ、ただ溶けた水が道路を凍らせてしまうので」

「あー……じゃあ、こっちにしよう」


 狐火はそのままに斬龍のスキルを使う。

 服装は和装となって肩に狐龍の狩衣を羽織り、刀を握った。

 舞い散る雪を断つように虚空を斬り裂き、刀身に纏わせた魔力を斬撃として飛ばす。

 それは氷をブロック状に斬り裂いて、道幅を拡張した。


「うわ、凄い……」

「これだけあればギリギリ通れるか」


 氷を大きく斬りすぎても運び出すのが大変だ。


「じゃあ、あとはよろしく」

「え? あぁ、はい! おい! ちょっと来てくれ!」


 周囲の番兵たちが集まりブロック状に切り出された氷を撤去していく。


「上手く行きましたかー?」

「あぁ、直に通れるようになるよ」

「おー、流石ですねー」

「それほどでも」


 座席に戻り、一息をつくとバギーカーが進み始める。

 ギリギリの道幅を通って城門を抜け、俺達はようやく街の中に辿り着いた。


§


「こう言っちゃなんだが、幻想的だな」


 窓から見える景色はすべて氷に覆われている。

 家も、道路も、街路樹の枝葉まで凍てついていた。

 それは見ようによってはガラス細工のようで、街の人には悪いが綺麗に映った。

 残酷な美しさって奴だ。


「では、私は燃料補給に行って参りますよー」

「あぁ、ガソリンが凍ってないといいけど」


 バギーから降りると蔵木は給油へと向かった。

 車から降りたのは俺と鳥籠から出た魔鳥。

 そして道中一言も発しなかった日下部である。


「……」


 二人だけになっても、会話は発生しない。


「あー……這崎、俺達はまずなにをすればいい?」


 助け船を這崎に求めた。


「そうだな。まず探すべきはドラゴンの痕跡だ。残された足跡、剥がれ落ちた鱗、それから排泄物。特定に繋がるものならなんでもだ。とりあえずカメラマンのところにいくといい」

「カメラマン? あぁ、あのシルエットの」


 吹雪の中に浮かぶドラゴンの影を撮影した人か。


「よし、じゃあ行くか」


 歩き出すと日下部も同時に足を動かす。

 よかった、この寒さで凍りついたかと思った。


「――えぇ、ここです。この場所で、この窓から撮影しました」


 カメラマンの自宅を訪ねて話を聞くことができた。

 自慢の一眼レフが唸りを上げたみたいだ。


「となると、足跡には期待できないか」


 ドラゴンがいたと思しき場所には、綺麗に雪が積もっている。

 足跡も雪に埋もれてなくなってしまったはずだ。


「だが、雪の下にはなにか残ってるかも知れない。掘り返してみてくれ」

「雪の下にカチカチのアレがあったりしない?」

「ケツから出てくるアレか? 当然、あり得る」


 視線を魔鳥から日下部に向けると、露骨に視線を逸らされた。


「わかったよ。すみませんが、スコップをお借りしても?」

「えぇ、雪掻き用のがそこに」

「どうも。あぁ、もしかしたら汚すかも知れませんが、ご容赦を」


 スコップを掴み、家の外へと向かう。

 そして真っ白な雪にスコップを刺し、掘り返していった。


「意外と重労働、だな」


 掬った雪はかなり重い。

 街の人たちはこれを毎日やっているというのだから大変だ。


「お?」


 何度目か数えてはいないが、スコップの先に硬いものが当たる。

 それが鱗かなにかであることを願いつつ掬い上げた。


「はぁ……這崎、出てきたぞ。カチカチのアレだ」


 スコップに嫌な重量感がある。


「でかしたぞ、天喰。だが、雪が邪魔だ。取り除くために軽く炙ってくれるか?」

「なに? 冗談だろ? カチカチのアレをローストするのか?」

「そうだ。一流シェフのようにな。さぁ、やるんだ」

「……あぁ、もう」


 狐龍のスキルで霊符を一枚造り、狐火を灯す。

 それをカチカチのアレに近づけ、表面を炙った。


「まさかドラゴンのアレを炙る日がくるとはな……酷い臭いだ」


 顔をしかめつつもアレから雪を取り除いた。


「ほら、終わったぞ。できたてほやほやって感じだ。うげぇ」

「吐くのはまだ速いぞ。カチカチがほやほやになったんだ。またカチカチに戻るまえに平らに慣らすんだ。なに、心配するな、雑嚢鞄に使い捨てのゴム手袋がある」

「……」

「天喰」

「……」

「やるんだ」

「……たぶん、今日ほど龍狩りになったことを後悔する日はないだろうな」


 しようなくゴム手袋をし、ほやほやのアレを平らにならした。


「ふむ、なるほど」


 ゴム手袋を慎重に裏返しにしながら右手から外している間に、這崎がアレの観察をする。


「なにかわかったか? わからなかったらお前を殺して死体を喰う」

「安心しろ、ちゃんとわかったことはある」


 魔鳥が地面から飛び立ち、肩に乗った。


「いいか? アレの中には大量の魚の骨があった」

「ドラゴンは魚好き」

「そう。そして氷龍は魚を食わない」

「本命は外れ、対抗の水龍が正体か」

「あぁ、たぶんそうだ。魚の骨に混じって別の物も見えるが、恐らく水生の魔物のものだろう。一応、小糸に特定を頼んでおく。」

「アレをローストして平らにした甲斐があったよ」


 スコップを近くに転がっている街路樹に叩き付け、再びカチカチに戻ったあれを弾き落とす。

 それから汚れた手袋を脱ぎ、狐火で消毒したスコップを抱えて日下部の元へと戻った。

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