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龍の災害と氷漬けの街


「――で、ここが俺達の城だ」


 フロアを移動して最後に辿り着いたのは男用の待機室だった。

 ソファーにテーブル、本棚にテレビ、ウォーターサーバー。

 女性陣がいた部屋と造り自体は似たようなものだった。


「昨日までは俺が独り占めしてたんだ。俺の城だった」

「じゃあ俺は侵略者かなにか?」

「そうだぞ、お陰で領地が半分になった」


 跳び乗るようにソファーに腰掛け、這崎は頭の後ろで手を組んだ。


「ちなみにここは俺の特等席だ。勝手に座ったら許さないぞ」

「あぁ、肝に銘じておく。人間関係のトラブルはこれ以上、勘弁」


 俺も適当なソファーに腰を下ろし、ようやく一息をついた。


「……なんか思ってたのと違うな」


 背もたれに身を預けてふと思う。


「違うってなにが?」

「龍狩りって、もっとこう。街の外に出て警備でもするもんかと」

「あぁ、そいつは俺達の仕事じゃない」

「じゃあ、俺達の仕事ってなに?」

龍害りゅうがいの対処さ。俺達は特別だからな」

「龍害?」


 そう聞き返したタイミングでノックの音がする。

 振り返ると開けっ放しのドアを蔵木がノックしていた。


「龍害発生ですよー」

「お、そうか、わかった。ほら、行くぞ」

「あぁ」


 要領を得ないまま誘導されるままに部屋を出る。


「龍害って言うのは文字通り、ドラゴンによる災害だ。比較対象は地震や噴火だ」

「それだけ被害が大きいってことか」

「そういうこと。それを解決するのが俺達龍狩りの仕事ってわけ」


 中央にある巨大なモニターの前に連れ出され、ほかのみんなも勢揃いしていた。

 誰もがソファーや椅子に腰掛ける中、藤堂隊長だけは遠巻きに眺めるように立っている。


「さーて、お仕事の時間よ」


 小糸がみんなの前に立ち、リモコンを操作して巨大モニターに光が宿る。

 映し出されるのは恐ろしくも美しいと感じてしまうの氷の景色だった。


「綺麗でしょう? アート作品じゃないのよ、街一つが丸ごと氷漬け」

「氷ってことは氷龍か」

「かも知れないわ。ただ」


 這崎の推測を受けて小糸は更にリモコンを操作する。

 映し出されるのは気象情報と当時の気温だった。


「見て、記録的な大寒波がこの街を襲ってるの。猛吹雪で数メートル先も見えなかったって」

「じゃあ、氷漬けになったのは自然現象?」

「とも言い切れない。これは街の人が撮った写真よ。吹雪のせいで輪郭がはっきりしないけど」


 次にモニターに映し出されたのは嵐の最中に立つ、巨大なシルエットだった。


「そこにドラゴンがいたってことは確実よ」


 無関係とするには無理がある。


「この街は毎年のように寒波に襲われる雪国だけど、今回みたいな被害は初めて。この写真もあることだし、なんらかのドラゴンが被害を大きくしたと思われるわ」

「それを突き止めるのも俺達の仕事だな」


 龍狩りはただドラゴンを討伐すればいいということでもないらしい。


「話は聞いたな。蔵木、日下部、天喰は現地に迎え、残りはここで三人の補助だ。以上、解散」


 藤堂隊長が最後を絞め、俺達は行動を開始する。

 龍狩りとしての初陣だ。


§


「俺達は龍狩りの中でも特別な部隊で、ただの龍害じゃあ出動しない」

「じゃあ、どんな龍害だと出動ってことになるんだ?」

「大雑把に言えば対象のドラゴンが正体不明だったり、通常の部隊では歯が立たないドラゴンだったりした場合だな。今回は前者ってことになる」

「なるほど、それはわかったけど、一つわからないことがある」

「なんだ? なんでも聞いてくれ」

「じゃあ聞くけど、いつからそんな風になっちまったんだ? 這崎」


 視界の中央にいるのは、鳥籠の中にいる派手な色をした一羽の鳥だった。

 体格が強靱で両脚の爪が凶悪、通常の鳥類ではなく、それは魔物だ。

 その魔物の鳥、魔鳥が這崎の声で喋っている。


「それは私がテイムした魔鳥よ。キミたちと私たちを繋ぐ連絡役ってわけ」


 音声が切り替わり、小糸の声になった。


「って、ことは小糸は調教師か」

「テイマーって呼んでほしいな?」

「どっちも同じだろ?」

「そっちのほうが可愛いじゃない」

「可愛い、ね……おっと」


 車体が大きく揺れて尻がシートがから一瞬浮く。


「すみませんー、大きめの石を踏んじゃいましたー」


 相変わらずのおっとり口調な蔵木は、運転席に座ってハンドルを握っている。

 それも大型バギーカーのものだ。

 本人の大人しくゆるりとした雰囲気とは違い、操る車はパワフルだった。


「それで街をカチカチにしたドラゴンの候補は絞れたのか?」

「あぁ、本命は変わらず氷龍だ」


 魔鳥の声が這崎に切り替わる。


「奴は基本的に永久凍土に引きこもっていているんだが、寒波に乗って街まで降りてきた可能性がある。氷龍の能力なら寒波を記録的なものにも出来るだろうしな」

「じゃあ、対抗は?」

「大量の水を操れる水龍だ。雪を霙に変えて街をびしょびしょにしたかも知れない。この場合、寒波自体はただの自然現象で、水龍がそれを利用して氷漬けにしたことになる」

「大穴」

「そうだな……風龍あたりだろう。風を操る能力を持っているからある程度だが天候を操れる。一応、候補には入れておくが前二つよりかは可能性は低い」


 生態研究者の言葉だ、信憑性は十分にある。


「氷漬けにした動機は……あー、こう言っちゃなんだけど保存食か?」

「だろうな。だが、この街にとって寒波は毎度のことだ。防寒対策がしっかりしていて、保存食になった人間はさほど多くない。幸いなことにな」

「災害だもんな、幸いか」


 通常の街だったなら、もっと大勢の被害が出ていた。

 それを考えると犠牲者が少なくて幸いだ。


「俺からも一ついいか?」

「あぁ、なんだ?」

「天喰、お前はドラゴンに育てられたんだろ? 同族のドラゴンを殺すことに抵抗はないのか?」


 抵抗か。


「ないさ。たしかに這崎の行った通りだが、俺から生みの親と育ての親を奪ったのもドラゴンなんだ。その時が来たら迷わない」

「そうか、聞けてよかったよ」

「あぁ」


 視線を鳥籠から逸らして窓の外へとやる。

 すると、ちらほらと地面に白が混じり始めているのが見えた。


「おー、見えてきましたよー」


 フロントガラスを覗くと、たしかに街を守る城壁が聳えている。

 凍りついて真っ白になっていて、まるで大きな氷壁のようだ。

 大寒波の凄まじさを改めて認識させられた。

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