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文化的な食事と龍狩り部隊


 暖かいシャワーを浴び、清潔な衣服を身に纏い、文化的な食事を取る。

 渓谷の底にいた時とは大違いの朝を迎えて、俺は宿屋を後にした。

 以前とは違い、真っ直ぐに線が書かれた色つきの地図を頼りに足を動かし、一つの大きなビルへと入る。

 エントランスでは多くの人が行き交い、それを突き破るように横断した。

 エレベーターに乗り込み、目的の階層で降りると目についたのは大きなモニターだ。


「広いフロアだな」


 モニターの前にはテーブルやソファーがあって居心地が良さそうだ。

 ポップコーンを片手に映画でも見られれば最高の気分が味わえる。


「おっ、現れたな。脅威の新人くん」


 声を掛けてきたのは二十代くらいの若い男だった。

 無造作の髪型に着崩した非戦闘員の制服からして、前線に出るようなタイプではなさそうだった。


「俺の名前は這崎秀紀はいざきしゅうきだ。ため口でいいぜ」

「あぁ、よろしく。俺は――」

「天喰空人だろ? 知ってるよ。チームじゃもう噂になってる」

「噂?」

「あぁ、歩きながら話そう」


 お互いに止めていた足を動かした。


「なぁ、試験用ゴーレムを真っ二つにしたって本当か?」

「あぁ、本当だよ。こいつで一刀両断」


 スキルを発動してナイフを一振り現出する。


「わぁ、こりゃ凄い。これは斬龍の刃だ」

「見てわかるのか?」

「あぁ、もちろん。俺はドラゴンの生態研究をしているんだ。いや、しかし、驚いたな。本当にドラゴンの力を使えるなんて」

「面接で話したことって筒抜けなのか?」


 ナイフを掻き消した。


「まぁ、大抵はそうだな。ドラゴンに育てられたとか、捕食のスキルのことも」

「ホントに? 人を喰ったことがあるってことも?」

「はっはー! ……マジ?」

「嘘だよ」


 足を止めた這崎を置いて先へと進む。


「冗談にしては紛らわしいな」


 小走りになって追いついてきた。

 それからフロアの一室に入る。


「みんな聞いてくれ。新人龍狩りの二人目が来たぞ」

「二人目?」


 這崎の声を聞いて振り向いたのが三人。

 女性陣のようで男はいない。

 そのうちの一人には見覚えがあった。


「あなたが天喰くんね? 噂は聞いてるわ。私は小糸奏子こいとそうこよ、よろしくね」

「どうも」


 明るいブロンドの髪が目立つ二十代前後の女性。

 身形や化粧に気を遣っているのが初対面でもわかるくらい容姿が整っている。

 彼女の握手に答えてこちらからも手を握る。


「それで私の隣に来たのが蔵木美紀くらきみきちゃん」

「よろしくお願いしますよー」


 緩いウェーブの掛かった挑発を腰の辺りまで伸ばした同い年くらいの少女。

 おっとりとした話し方は気が抜けそうになるけど、独自のスピードを持っているように見える。

 彼女とも握手を交わした。


「そして最後にあそこで遠巻きにあなたを見てるのが、日下部海利ちゃんよ」

「日下部? 聞いたことあるな。たしか……あー、そう。俺の一個前に名前を呼ばれてた」

「その通り、新人龍狩りの一人目」


 彼女を視界の中心に納めると見覚えのある顔が映る。

 背中ほどある髪にすらりとした線の細い体型、色白の肌。

 全体的に色素が薄く見える印象の彼女は、ただ黙ってこちらを見据えていた。


「やぁ、どうもはじめまして。新人同士、これからよろしく」


 彼女に近づいて右手を差し出した。

 それを受けた日下部は、すこし間を置いてから握手に応じてくれた。


「えぇ、よろしく」


 挨拶を終えて振り返ると、みんながなにか言いたげな雰囲気をしている。


「なにか?」

「いや、なんでも。それよりもう一人、合わせる人がいるんだ。来いよ」

「あぁ」


 なにか含みのある表情を作る小糸と蔵木の間を抜けて這崎と部屋を後にする。

 背中について歩いていると、這崎がにやついた表情をしていた。


「よう、お前もなかなかやるな」

「やるってなにが?」

「なにって、無意識だったのか?」

「だから、なにがだよ」

「いいか?」


 正面に回り込まれ、足が止まる。


「お前は試験でゴーレムを真っ二つにしてトップの成績を残した。そして日下部は二番だ。本当なら一番だったのに、お前のせいで二番になった」

「あぁー……なんとなくわかってきた」

「日下部は優秀な奴だ。試験を受ける前からここで話題になる程度にはな。でも、直前に話題をかっ攫われ、お前の補佐をする立場になっちまった。そして、さっきのアレだ」

「不味かったかな」

「かなり不味い。澄ました顔してるけど腹の底は煮えくりかえっているに違いない。煽ったようなもんだからな。だから度胸があるって」

「謝ったほうがいいか?」

「止めとけ。火に油だ。燃えるどころか爆発するぞ。このビルが吹っ飛ぶ」

「わかった。ほとぼりが冷めるまで口を閉じてる」

「あぁ、それが賢い。さぁ、行こう」


 止めていた足を動かして、また別の部屋へと向かう。

 中の内装はほかとは違って装飾が目立つオフィス。

 そこにある上等な机には、一人の男性が座っていた。


「藤堂隊長。新人を連れてきました」

「あぁ、すこし待ってくれ」


 試験の際に見かけた試験官、藤堂という人物は忙しなくペンを走らせている。

 演説台に立っていただけあって、ここでも高い地位にいるらしい。

 先ほどの失敗を繰り返さないように言葉選びには慎重にならないとな。


「よし、良いだろう」


 目が合う。


「俺の部隊へようこそ、天喰。よく来たな」


 立ち上がり、手を伸ばされたので握手を交わす。


「ここにいる連中はどれも俺が選んだ優秀な奴らだ」


 隣で這崎が得意気な顔をする。


「本当なら中心に日下部を据える予定だったが、急遽お前にすることにした。その他に類を見ない稀少なスキルに期待して、だ。俺を後悔させるな」

「期待を裏切らないように努力します」

「よろしい。じゃあ、もう行っていいぞ」

「では、失礼します。行くぞ、天喰」


 藤堂隊長は再び机上の書類に目を落とし、俺達はオフィスから退室した。


「あれがこの部隊のボスだ。ボスには敬意を払え。それで結果を出しさえすれば大抵のことは許される」

「例えば?」

「予算を多少オーバーしたり、規則をすこし破ったり、つまりそういうこと」

「なるほどね」


 ある程度は自由にさせてもらえるらしい。

 だが、それも結果を出している限りは、だ。

 精進していくとしよう。


「このままフロアを案内するよ。次は……資料室だな。つまらないところだからさらっと流すぞ」

「あぁ、助かる」


 そうして這崎に案内されてフロアにある施設を一つ一つ巡っていった。

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