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試験用ゴーレムと誉れある職業


 無事に目的地へと辿り着き、ほっと一息をついて試験会場へと入る。

 巨大なドーム状の建物の中で数十人の挑戦者たちが思い思いに待ち時間を過ごしていた。

 俺もその中に紛れ込むと、一人の男の声がドーム内に反響した。


「えー……みなさん、こんにちは。試験官の藤堂とうどうです」


 声の主を探して視線を動かすと、簡易的な演説台に立つ男を見つける。

 体格のいい人で身に纏う衣服は龍狩りの戦闘服だ。

 彼はこちらに視線を向けることなく原稿を見つめながら事務的に語っていく。


「これより試験を開始します。方法はいたってシンプル、私の後ろにあるこの……あー、準備は?」

「出来てます」

「よーし、じゃあ始めてくれ」


 指示を受けた何人かの龍狩りがドームの中央に魔力を流す。

 それによって大きな魔法陣が浮かび上がり、淡い光を放ってその効力を発揮した。

 光に紛れて現れるのは瓦礫を人型に繋ぎ合わせたようなゴーレムだ。

 見上げるほど大きく、直立不動のまま沈黙している。


「私の後ろにあるこのゴーレムに一度だけ攻撃をする、ただそれだけです。出来うる限り最高火力の一撃でお願いします。このゴーレムの硬度はドラゴンの鱗と同等で、これを砕くほどでなければ御話になりません。質問はなしで。それじゃあ、はじめて」

「では、順番に挑戦していただきます。まず貴方からどうぞ」


 演説台から藤堂という龍狩りが気怠そうに降りて姿を消す。

 残った龍狩りたちが誘導を開始し、ゴーレムが起動する。

 緩慢な動きで動き出したそれは防御の姿勢を取って固まり、攻撃を受ける準備を整えた。

 そうして龍狩りの試験が始まり、挑戦者たちは各々の方法でゴーレムに攻撃を与えていく。


「俺様が一番乗りだ!」


 拳で殴りつける者、得物で斬り掛かる者、魔法を放つ者、色んな人がいた。

 攻撃の威力によってゴーレムの損壊具合が変化し、大抵の場合は表面に亀裂が走るだけに終わる。

 たまに防御する腕を破壊する者がいて、その度に会場がどよめく。

 きっとその人たちは合格だろうと、俺でもわかる。

 そんな最中、とある人が放った一撃によってゴーレムが半壊した。


「うわっ、すげぇ」

「女だぜ? しかもまだ子供だ」

「しかも、将来が楽しみな美人と来てる。世の中不平等だな」


 周囲の人たちがいうように、彼女はすらりとした美人だった。

 ショートカットの髪を靡かせて、澄まし顔でゴーレムの前から立ち去る。

 あれは文句なしで合格だな。


「次の人、キミだよ。さぁ来て」

「おっと、俺か」


 誘導に従ってゴーレムの前へと向かう。


「可愛そうに。あれの後なんて」

「どんだけ頑張っても印象が薄くなるのは確実だな」

「まぁ、そう言ってやるなよ。交通事故みたいなもんだ、不運だったんだよ」


 半壊していたゴーレムは俺が正面に立つころにはほぼ修復されていた。

 拳を握り締め、腕を盾にするように防御の姿勢を取っている。


「では、はじめて」


 指示に従い、斬龍のスキルを発動した。

 右手に得物を握り締め、天を突くように掲げて魔力を込める。

 思い起こすのは、あの時のこと。

 弧龍に放ったあの一撃。

 刃を研ぎ澄ませ、そして、一刀を振り下ろす。

 その一撃は一枚絵を断つようにゴーレムを真っ二つに切断した。


「よし、完璧」


 刀を掻き消して誘導してくれた龍狩りを見ると、目を丸くしてゴーレムを見つめていた。

 口をあんぐりと開けて、信じられないものでも見ているような様子だ。

 周囲を見てみると他の人たちも似たような顔になっている。


「あの」

「あ、あぁ」


 俺と真っ二つになったゴーレムを交互に見て、ようやく彼らは我を取り戻す。


「もう戻って構わないよ、うん」

「そうですか、それじゃ」

「あぁ……」


 彼は修復されはじめたゴーレムにまた目を奪われた。

 その隣を通って元の位置に戻ると、妙に避けられ人目を引く。


「なにか?」

「いや、なんでも」


 誰もが俺から目を逸らし、試験は続いていった。

 そしてすべての人達がゴーレムへと攻撃し終え、再び演説台に藤堂という人が戻る。


「えー……みなさん、お疲れ様でした。これから合格者を読み上げますので、呼ばれた方はこの場に残ってください。それ以外の方は言うまでもなく不合格ですので、お帰りを。それではまず一人目から――」


 順番に名前が読み上げられ、合格者が一人ずつ増えていく。


「――日下部海利くさかべかいり、天喰空人、白樺大地しらかばだいち――」


 その中には俺の名前があり、ほっと一息をつく。


「――以上です。お帰りはあちらの出口からどうぞ」


 名を呼ばれなかった人たちは溜息をつきながらも返っていく。

 大勢の人の流れが収まると、会場に残ったのは十数人ほどだった。


「おめでとう。キミたちは選ばれし者たちだ。特に……」


 目が合う。


「いや、よそう。とにかく、キミたちはこの後の面接を経て龍狩りとなる。ドラゴンを殺し、人々を守る誉れある職業だ。キミたちが一体でも多く龍を狩ることを願う。以上だ」


 そうして演説台から藤堂さんは降りた。

 その後に面接が行われ、俺は正式な龍狩りとして登録される。

 功績を上げて有名になれば、あの少年に見つけてもらえるかも知れない。

 当分は名を上げることが目標だ。

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