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第8話 王選開始

いよいよ王選の開始が明日に迫った日。俺は最後になるかもしれない人たちに挨拶して回っていた。

まず、朝起きるなり、両親に

「今までありがとう。でも必ず帰ってきます。」

短く端的な言葉だったが、俺の気持ちを伝えるには十分だ。

母さんは嗚咽を漏らしながら泣き、父さんは俺が玄関を出るまで終始無言だった。

何も言わず送り出してくれた両親には本当に感謝している。もし泣きながら止められたら俺も行きにくかっただろう。

こんな良い両親のためにも俺は必ず帰って来なければならない。俺は心に深く覚悟の二文字を刻み、十年以上住んだ我が家を後にした。


次に俺は金爺のところに向かった。

店に入ると見た目の凶悪さに通報されそうになったが、どうにか俺であることを証明し、その場をしのいだ。

「金爺、この剣ありがとう。この店に来なければ俺は王選に出れたかどうかも怪しかった。本当に感謝してる。ありがとう。」

「これで最後みたいな挨拶すんなや。お前さんは王様になってワシの店を宣伝するという約束が残っとるじゃろうが。」

「はは、そうだね。約束は守るよ。」

「おう。必ず帰って来いよ…」

「俺が負けても金爺の剣のせいだからね。」

「人のせいにすんなや!」

俺はこの人には感謝してもしきれない、でも少しでも恩を返すのために王になってみせる。

俺は金爺の店を出た。


最後に俺は詩のもとへ向かった。

病院に入った途端、受付が全身ボロボロの俺を見て、緊急で手術を行うと言われたが、俺はダッシュで詩の病室まで走って逃げた。

幸いこんな見た目の俺が誰の病室に入るかなんて分かるはずもなく、詩の病室にいることはバレずに済んだ。

病室では詩が相も変わらず眠っている。

俺はベッドの隣の椅子に座ると、詩の細くなった左手を握った。

「俺が絶対、お前のことを助けてやるからな。」

もちろん返事はない。

あまり長居しても俺の気持ちが揺れるだけなので、俺は最後に一言だけ言って病室を出た。

「必ず戻ってくる。大好きだよ、詩…」


病院を出て、時計を確認すると午後二時、今から俺は王選の予選会場にむかうため、空港に行かなくてはならない。

他にも挨拶をしたい人は山ほどいるがもう時間はない。

俺は空港に向かった。


空港に着くと、王選の参加者だろうか?強そうな人たちが大勢集まっていた。中には俺よりも若そうな子供や女性までいる。

だがそんな事はどうでもいい、今からこいつらは全員敵なのだ。たとえ女でも、俺より若かろうとも場合によっては殺さねばならない。

俺は心を鬼にした。


少しして会場行きの飛行機が到着、俺は搭乗手続きを済ませ、飛行機に乗り込んだ。

道中、飛行機から俺の故郷が見えた。はっきりとは見えないが俺の家のあたりも見えた。あの公園も大きなクレーターがはっきりと見えた。

俺は帰りたいと心の底から思った。できることならあの日に帰りたい。詩と二人で楽しかったあの日常に…

でも時間を戻す術は存在しない。今は前だけ見て進むしかない。

奪われた時間を取り戻すため、詩ともう一度楽しい日々を送るため、俺は勝たなければならない。いや、必ず勝つ。


飛行機は翌日の午前十時ごろの会場近くの空港に着陸した。

到着すると、今から一時間後に一次試験を始めるとアナウンスがあった。

少しカフェなどで休憩する人もいたが、俺はまっすぐ会場に向かった。

俺はE会場になる。他にはアルファベット順にM会場まであるらしい。一体何人王選に立候補したんだ?


会場に着いた俺は目を疑った。とんでもなくデカい会場、収容人数は少なく見積もっても五万人を超えるだろう。

AからM会場まであるとすれば、単純計算で立候補者は六十五万人。

いきなり俺は倒れそうになった。

何はともあれ俺は会場に入った。中にはすでに何百人かの参加者が席に座り、各々勉強している。

おいおい、これは一次試験だぞ。と思いながら俺も席に座る。

この一次試験は簡単なものだと事前に聞いていたが、どうも様子がおかしい。俺より先に到着している参加者たちが張り切っているだけなのか?それとも問題が難しい?

俺は少し迷ったが、備えあれば憂いなしと思い、たまたまカバンに入れっぱなしだった参考書を読むことにした。

それから三十分ほどして、ほぼ全員の参加者がそろった。

会場には約五万の参加者がひしめき合っている。

現在時刻は午前十時五十分、一次試験開始まで残すところあと十分となった。

その時会場に設置されてあるおおきなスピーカーからアナウンスが流れた。

「開始十分前です。参加者は全員席に着いてください。」

俺は静かに目を瞑る。残り十分で始まる。まずはここを突破しなければ、本選はおろか予選にすら出場できない。

俺は深呼吸をした。脳裏に昨日俺を送り出してくれた両親の顔が映る。武器を作ってくれた金爺、最後に詩の眠っている姿。

俺はもう一度深呼吸をし目を開けた。

会場全体にもう一度アナウンスの声が響き渡る。

「開始です。不正行為が見つかった場合、即退場となります。」


開始の合図から一時間が経過し再度アナウンスがかかった。

「終了です。回答をやめ速やかに会場を後にしてください。」

俺のテストのできは……

そこそこだった。問題は思っていたよりもはるかに難しかったが、つい最近まで受験勉強に勤しんでいた俺にとってはそこまで難しくなかった。

とは言ってもここ二ヶ月ほど全く勉強なんてしていなかったので、少し自信がない。

だがもう終わったものは仕方ない、結果は明日わかる。今日はもう休もうと思い、近くのホテルに向かった。


翌日、午前十時、俺は昨日の結果を見るために、再び会場へ向かった。

会場に到着すると大量の人間が集まっていた。

結果は午前十時半に会場上にホログラムで映し出される。俺は祈るような気持ちで待った。

午前十時半、会場に結果発表のアナウンスが流れ、同時にホログラムが映し出される。

俺はホログラムの端から順に自分の名前を探す。

五万人の参加者の名前から俺の名前見つけるのは難しいと思っていたが、実際はそうではなかった。

なんと五万人もの参加者の中から一次試験を突破したのは約百人。後に聞いた話ではテストの難しさ故に合格したのは現役の学生がほとんどだったらしい。

その中に俺の名前は――――――――――

「あった……」

ホログラム上にしっかりと映し出される《NINE》の文字。

俺は五万分の百という狭き門を通過したのだ。

だが喜んではいられない。まだ王になるための切符を手にしただけにすぎない。

俺は自分の合格を確かめると足早に会場を後にして、事前に調べておいた近くの広い公園に向かった。

読んでいただきありがとうございます。

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