第7話 修行
武器を入手した翌日、俺はさっそく試し切りをするべくあの日の公園へ向かった。今回は迷わず辿り着け、道をしっかり覚えた。
公園に着いた俺は愛刀ことマインポエムを取り出し、周りに人がいないことを確認し、剣を構える。
俺の能力《剣技》は発動にいくつかの条件が存在する。
まず、大前提として剣が必要。これは言うまでもない。
次に特定の動作が必要である。簡単に言うと技を発動するために、構えや動きをすると、半自動的に体が動いてくれる。その動作はどんなものかと言うと…正直これは自分で探すしかない。それというのも俺の能力は前例が少ない、珍しいものらしく、情報が少ない。
昨日一晩ネットを漁ったが一つしか見つけられなかった。まぁ無いよりはマシだろう。
さっそく俺はその技を試すべく、ネットで見た通りに剣を構えてみた。
剣の刀身を右肩に乗せ、右足を引き、膝を曲げて姿勢を低くする。ゲームや漫画などではよく見る構えだ。
構えを完成させると、俺は生まれて初めての不思議な感覚に襲われた。
力が沸き立つような気分になり、剣を見ると刀身が薄っすら赤く光っている。その状態のまま右足を踏み出す。そうすると俺の右腕が自動的に動き、前方に軌跡を描きながら振り下ろされる。
初めて自分自身の能力を使った俺は、我ながら自分の凄さに感動し、その場に立ちつくしてしまう。
「す、すげぇ…」
思わず声を出してしまう。
その後も何度か同じ技を撃ってみた。やはり凄い、凄すぎる。俺にこんな力があったなんて…
テンションが上がり楽しくなってきた俺は技に名前を付けてみることにした。
前方に縦斬りを放つ技だったので。名前は【フォワード・スラッシュ】。やはり俺にはネーミングセンスが無かったことに気づかされる。
そのあと俺は別の技を探すべく色々なポーズをとってみたり、動きを入れてみたりしてみた。
その結果、実に三十個以上の技を発見した。中には斬撃ではなく剣の刀身を横に向け、打撃をくらわしたり、一撃ではなく連続で斬撃を放つものなどたくさんあった。
俺はその日一日を技の発見に費やし、夕方には家に帰った。
翌日俺はとてつもない筋肉痛になり、一日動けなかった。技を使うために筋肉を酷使したのが原因だろう。
このままではダメだと思い、その日から技の反復練習を行った。技を体に慣れさせるためだ。
俺が技の反復練習を始めてから二週間が経った。この二週間で気づいたことがいくつかある。
まず、技は一度発動しても無理にブレーキをかければ発動がキャンセルされるということ。
もう一つは、技は使えば使うほど威力が増すということだ。実際に【フォワード・スラッシュ】の使用回数が二十回を超えたあたりから、砂埃の量が増え、四十回を超えると近くにあった木を切断してしまった。他の技も使用回数に比例して威力が増している。俺はこれをゲームなどのちなんで《熟練度》と呼んでいる。
さらに使用回数に応じて技が派生していることもわかった。。【フォワード・スラッシュ】は初めは単発だったのに二連、三連と斬撃数の多い技を使えるようになってきた。
これらの特性を利用し、初め三十個ほどだった俺の技は百を優に超えていた。
俺は次の計画を立てていた。やはり能力が一つだけより、上限の三つまで使えたほうがいい。
俺は能力付与の機械を扱っている病院に行き、能力を付与してもらった。
世界には何億という能力がある。その中から二つ選ぶのには大変迷ったが、一つは詩と同じ《治癒》に決めた。これは戦いの最中に怪我を治せたら相手より優位に立てると考えたからだ。あとは単純に詩と同じ能力が欲しかったからという理由からだ。
もう一つは《火炎》だ。この能力は自分の体ならどこからでも炎を出すことができる。ただそれだけ。熟練度が上がれば、武器に炎を纏わせたり、手から火球を撃ったりできる。と思う。これは予想だ。
炎の色は使用者によって変わるらしい。俺は青色の炎だった。
あまりにも普通でありふれた能力だが、だからこそ強い。俺はそう考えこの能力を付与した。
能力が増えてからは今まで通り反復練習を繰り返していった。
《火炎》は《剣技》と同じように、何度も使うだけだが《治癒》は少し違う方法で熟練度を上げていった。その方法はというと
最初は体の適当な場所に切り傷をつけ《治癒》で治す。そこまではよかったのだが、ある時からピタリと熟練度が上がらなくなった。
俺は色々考えたが、最終的にもっと大きな怪我を治さないといけないと思い指を切り落とすことにした。もちろん最悪治せなくてもいいよう左手の小指を選んだ。
指を切り落とすなんて普通の十五歳にできることじゃない。でも俺は詩のために強くならなくてはいけない。
詩のために、その思いが俺に覚悟を決めさせた。
俺は剣を持ち上げ、思いきり振り下ろした。
見事に俺の小指は切り落とされ、地面に転がった。
「あああああああああああ」
生まれて初めて味わう痛みに俺はどうにかなりそうだった。
すぐに転がった小指を拾い上げ、切断面を合わせ、《治癒》を発動させる。
徐々に痛みが引いていき俺の指は何事もなかったかのように元に戻った。
そこから俺はおかしくなった。
何度も自分の指を切り落としては元に戻す。しまいには指だけでは飽き足らず手首、腕、足など切れるところは一通り切り落としていった。
首にも挑戦しようとしたが流石にそこまではおかしくなっていなかったらしい。
初めて指を切り落としてから二か月が経った。
三月を目前に控え、春が近づき暖かくなってきたころだった。
王選は四月なのでまだ一か月以上ある。
俺の体は全身傷まみれになり、何度も激痛を味わううちに髪は白く染まり、腕や足は切断面が痣になり消えなくなっていた。
見た目だけで言えば完全に悪者だ。
でもたとえ見た目が変り果てようとも詩を想う気持ちだけは変わらなかった。
「こんな見た目じゃ詩に怖がられちゃうかもな…」
この時俺の能力の熟練度はほとんど上限に達しており、俺が修行場所に選んだ詩との思い出の公園は俺の血で土が赤く染まり、高威力の技を撃ちまくったせいで大きなクレーターができていた。
もちろん詩と座ったベンチやほかの遊具には被害が及ばないようにした。
それでも俺は王選までの一か月弱の間修行の手を緩めることはなかった。
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