第6話 武器
俺は生まれてから一度も戦ったことなんてない。自分の能力さえ使ったことがない。だからまず俺は自分の能力を使うため、武器を買いに行くことにした。
俺の能力は《剣技》なので、剣を買わないといけない。
本当は離れて攻撃できる銃を使いたかったのだが持って生まれた能力を生かさないわけにはいかない。だが国が統一されてから戦争はおろか犯罪もほとんど起きない平和な世界で武器なんて一体どこで買えばいいんだ?とりあえず町にでてみることにした。
町を歩きながら武器屋らしき建物を探す。何時間も歩き回ってみたが武器屋なんて見つからない。
俺は武器屋を探すのを断念し、次なる作戦を考えるため、あの公園に向かうことにした。
公園へはあの日以来一度も行っていない。ちゃんとたどり着けるか不安になったが記憶を頼りに歩みを進める。
俺は迷子になった。住宅街を抜けようとしたら、どこかわからない場所に来てしまった。道が入り組んでいるので元来た道もわからなくなってしまった。もう前へ進むしかない。俺は再び歩き出した。
それから十分ほど歩いた時目の前に一つ建物が見えた。
壁一面に苔が生えており、黒い油?のようなものが流れている。
住宅街の奥地に立っているせいか日があっていないので薄暗くて気味が悪い。建物の苔の下に看板のようなものが隠れている。
俺は苔を払いのけ看板の文字を確認する。《WEAPON》ついに見つけた。ここは紛れもなく武器屋だ。俺はドアを開け中に入った。
店内には剣や盾、弓、槍など武器がたくさん並べられていた。が電気はついていないし、人もいない。
俺は営業していないのかと思い残念な気持ちになりながら店を出ようとした、その時、カンッカンッと店の奥のほう方から音が聞こえる。
俺は店のカウンターの奥にあるドアを静かに開けた。
そこはギリギリ人が一人通れるぐらいの狭い廊下になっていた。
「すみません。誰かいませんか?」
大声で呼んでみたが返事がない。だが奥の方からはまだカンッカンッと音が聞こえる。
俺は勝手に奥へ入ってもいいのか考えたが、この際仕方がないと思い歩き出す。
奥へ進むにつれて音は大きくなっていく。この音は金属をたたいている音だろうか?
さらに進んだ先は広めの部屋になっていた。
そこには一人の男の姿があった。顔を見た限りでは六十はとうに過ぎていそうだ。
俺の予想通りその男は金床の前で背中を丸め、見た目に似合わないたくましい腕で金槌を振り下ろしている。
「すみません、武器が欲しいんですが。」
部屋中に響き渡る金属を打ち付ける音が大きすぎるせいか音かは作業を止めようとしない。
「すみません!!!」
俺は腹の底から声を出した。
「うるさいわ、ボケ!!」
男は俺よりも大きな声で返事をした。あまりの声の大きさに俺は驚き二、三歩後ずさってしまった。
「なんじゃ、客か。」
「こんなとこに客が来るなんて何年ぶりかのう」
そう言うと男は俺の方に寄ってきて、俺の腕やら足を触り始めた。
「ちょっ、何するんですか?」
「ええから、ちょっと黙っとれ。」
男はたっぷり五分ほど俺の体を触り、最後に俺の額にデコピンをかました。
「いたっ!?」
十六年近く生きてきた中で一番痛かったのではないか?
俺は少し男のことが怖くなってきた。
「ワシは長年この仕事をやってきたが、お前さんは大剣向きのようじゃな。」
大剣?そんなもの俺に使えるのか?持ったことはないがイメージでは持ち上げることすら無理そうだ。
「良いもんを作ったるから、その辺に座って待っとれ。」
男はそう言うと部屋の隅にたくさん並べられている金属の塊の一つを持ってきて、金床の前にしゃがんだ。
男はしゃがんだまま塊に向かって何かぶつぶつ言っている。
俺はテキトーな場所に座り、その様子をじっと見ていた。
何か言い終わった様子の男は塊を金床の上に置き、金槌を振り上げる。
振り上げられた金槌が黄色く光る。こんな光景を見るのは初めてだ。
俺が目の前で行われている光景に見惚れていることなんて気にも留めず、男が金槌を振り下ろした。
ガキィィィィンという凄まじい音を立てて塊が形を変えた。それから男は何度も金槌を振り下ろしていく。塊がみるみる形を変えていく。
「すごい…」
俺は無意識のうちに感想を口に出してしまっていた。
あれから四時間弱、最初はあまりの迫力に口を開けたまま見入っていた俺も睡魔に攫われそうになっていた。
俺の脳が限界を迎え意識が飛びそうになった時。
「できたぞ」
男の声で向こうの世界から引っ張り戻される。
男が完成した剣を俺に差し出す。
俺の不器用な手にもしっかりとフィットするグリップ。細かい薔薇の装飾がされた鍔。極薄ながら力強く形を保ち、重々しく輝く灰色の刀身。腕力に自信のない俺でも持ち上げられる気持ちのいい重さ。
俺は剣を握った瞬間感動のあまり目頭が熱くなる。
「どうじゃ、ワシの力作は?」
「す、すごいです…」
凄いなんてもんじゃない。でも俺の知っている言葉では表せそうにない。剣を初めて握った俺でもわかる。これは並大抵の人間が作れるような物じゃない。
「気に行ったか?なら名前を付けてやらんとな。」
「名前…ですか…」
ネーミングセンスが壊滅的な俺なんかが名前を付けていいのか?
そう思ったが、これは俺の剣なのだ。俺が付けてやらないといけない。
「マインポエム…」
直訳すると【俺の詩】。思い付きで言ってみた。が痛い、痛すぎる。たとえ思い付きでも口に出した自分を呪ってやりたい。
俺は他の名前を考えようとしたが先ほどの印象が強すぎて頭から離れない。。それに何度も思い出しているうちに愛着まで湧いてきてしまった。
別の名前が思いつきそうにない俺は考えるのをやめた…
「どうじゃ?決まったか?」
そう聞かれた俺は小さい声で言った。
「マインポエムで」
再度口に出すと、とても恥ずかしい。顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。
「ワシは英語はようわからんが、いい名だと思うぞ。お前さんの剣に対する気持ちが感じられるわ。」
そう言うと男は仕上げだと言って俺の剣の柄の中央あたりに焼き印を押した。
見ると【金】と漢字が刻印されている。
「えと、金って何なんですか?」
「ワシの名前じゃ。」
そういえばまだお互い名前も知らなかったことに気づき慌てて挨拶する。
「え、えぇと、申し遅れました。俺は剣院九と言います。あの、いきなり来たのにこんな良い剣を作ってくださりありがとうございました。」
「ワシもまだ名乗っておらんかったの。ワシは金じゃ。みんな金さんとか金爺とか呼んでおる。お前さんも好きに呼んでくれ。」
お互い挨拶を済ませると、男改め金爺が俺を店の客間の方へ案内した。
「こんな所に客が来るなんて、久しぶりじゃ。茶でも飲んでいきなさい。」
言われるがまま俺は客間のソファに座り、出されたお茶を凝視していた。
「そんなに見んでも毒なんか入っておらんわい。」
「いえ、別にそんなつもりは…」
せっかく出してもらったお茶なので飲む。のどが渇いていたのでお茶がとてもおいしく感じた。
「いきなりじゃが、お前さんはなんで武器なんか買いにきたんじゃ?」
俺は武器が必要になったこれまでの経緯を金爺に話すか少し迷ったが、おおまかな内容ぐらいは話してもいいと判断し、これまでのことを説明した。
「つまりお前さんは彼女の病を治す方法を知るために王選に立候補し、そこで戦うために武器が必要というわけじゃな。」
「まぁ…簡単に言うと、そうです。」
「ワシは感動した。まだこの世界にお前さんのような若者が残っておったとは…」
「そんな、大袈裟ですよ。」
金爺はとても俺に共感してくれた。
最初は大袈裟な金爺の反応に戸惑った俺だが、初めてできた理解者にどこか嬉しさを感じた。
「ぜひワシもお前さんと彼女さんのために、協力したい。だからこの剣の代金はいらん。それに他にも何かあればワシを頼ってくれ!」
「そんな、悪いです。お金は払います。」
「いや、いいんじゃ。金よりも大切なものがあるんじゃ。」
「でも…」
それから払う払わないの論争は実に十分ほど続いたが、結局最後は、俺が王になったら金爺の店を宣伝するという条件で納得した。
色々あったが無事に武器を手に入れるという目標を達成し、その日は家に帰った。
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