第03話 お部屋(?)拝見
第01節 飯塚家の人たち〔3/7〕
◇◆◇ 翔 ◆◇◆
「で、何故この娘が飯塚家の女紋を背負っているのか、説明してもらえるかしら?」
ソニアが着ている振袖に染め抜かれた、家紋。それを見ながら、母さんが。
「はい、ご挨拶が遅れましたこと失礼致しました。
私の名は、ソニア。平民の生まれで、姓を持ちません。故郷では、〝羊飼グードの娘ソニア〟と呼ばれていました。
ショウさま、否、翔さまと出会った頃は、〝ドレイク王国有翼騎士団独立騎士ソニア〟が私の名前となりました」
「……メイドさん?」
「小母さまの想像される、〝侍女〟という意味の他、我が国では『騎士たちと共に征き、騎士たちの道の露払いをする、女性騎士』という意味もあります。
前者の意味としては、私は雑役メイド。姫付侍女、家庭教師、掃除婦、料理婦、家女中、接待係、洗濯女、などあらゆる業務をマスターしております。もっとも、乳母と伽役に関しては、座学のみで実践経験はありません。
後者の意味としては、有翼獅子に跨り空を駆け、偵察・哨戒・伝令そして物資の輸送から、侵入、狙撃、爆撃など、また天のグリフォンと連携して地上での単身突撃等と、戦況に応じて様々な行動を採る事が出来ます。その為、集団行動が前提の有翼騎士の中で唯一、単独任務を熟せることから、『独立騎士』と呼ばれています」
「す、すごいのね」
「有り難うございます。そしてその為、王太子候補である翔さまの護衛の意味を込めて、翔さま方と同行するように命じられました。
とはいえ現在は、騎士団を退団し、ただの〝ソニア〟として、今ここにおります」
……改めて、ソニアの技能を列挙されると。とんでもないエリートだったんだなぁ、って思い知らされる。まぁ〝ボレアス〟くんの機動力と合わされば、文字通りの「一人で一部隊」なんだから、当然だろうけれど。
「でも、騎士団を退団してまで、翔に付き従ってくれている、ってこと?」
「否。私には、好きな人がいます。その人と共に生きることを望み、こちらの世界に参りました」
「母さん。それが、美奈がソニアに『飯塚家の女紋』を託した理由だよ。
ソニアが添い遂げたいと思う相手が俺だったら、『飯塚家の女紋』である必要はないだろう?
万一ソニアの想いが届かなくても、こっちの世界で孤独にならずに済むように。
俺なら、ソニアの恋人にはなれなくても家族にはなれるから。
って言っても、こっちでは俺は単なる高校生だから、父さんと母さんに全面的に頼ることになっちゃうけどね」
ソニアの社会的立場という意味での保護、と考えると、柏木家は言わずもがな、武田家も髙月家も、ソニアを受け入れることは出来ないだろう。消去法で残る選択肢は、松村家と飯塚家。だけど、松村は寮生。なら家族に保護を求めるにも、無難に進んでも数日の時間を必要とする。
勿論、エリスと同じく水無月の家名を使う、という選択肢もあるけど、「家」が絶えた水無月では、現実的な意味での保護は不可能になる。
「一応、いきなり扶養家族が二人も増えて、父さんには負担を掛けることになるけど。俺もバイトして生活費を入れるつもりだし――」
「阿呆。お前に家計の心配をされるほど、俺の給料は安くないわ。だが……」
「何か、問題がおありでしょうか?」
父さんが意味ありげに言葉を切り、不安そうにソニアが尋ねる。と、母さんが。
「今日の夕食ね? 美奈ちゃんが来ることは予想出来ていたけど、ソニアちゃんとエリスちゃんのことは予想していなかったから。ちょっと、足りないかな? って。
それに部屋も、すぐに用意出来る客間は今美奈ちゃん専用になっているから。
まぁ美奈ちゃんを翔のベッドに押し込んで、客間をソニアちゃんとエリスちゃんが使えばいいかな? とは思うけど」
「……母さん。普通は母親の方が、『不純異性交遊がー』って言うもんだと思うけど?」
「翔。お父さんの使っているメーカーので良ければ、ゴムを分けてあげられるわよ? 三つもあれば足りるかしら? サイズは、大丈夫よね?」
「だから! って、もういい! エリス、俺の部屋を使え。ソニアは美奈と一緒に客間。俺はこのソファーで寝るから」
「残念。だけどちゃんと、ゴムは用意しておきなさいよ? エリスちゃんだって、弟か妹が欲しいでしょうから。ねー?」
「うん! どっちかってゆーと、いもーとが欲しい! でも、おとーとも良いかも?」
「ですって。美奈ちゃん、頑張ってね?」
「はい、お義母さん♥」
女どもの会話は、取り敢えず無視して。
「で、夕飯だけど。正直言って、俺と美奈は米に飢えてる。ソニアとエリスには悪いけど、今日だけは譲れない。
その一方で、おかずだけど、美奈。」
「うん、燻製肉も干肉もあるし、生肉もあるけど、食べ慣れていない人にはシカ肉やクマ肉はあまりお勧め出来ない、かな?
でもマグロがあるから、また四種盛り作る? それとも、ステーキが良いかな?」
「日本の食卓には、山葵も醤油もあるんだ。
せっかくだからここは刺身だろう?」
「ん、おっけ。お義母さん、手伝ってください。あ、宜しければお義父さんも、御一緒に来てもらえますか?」
「……どこに?」
「美奈たちの、魔法の空間。『亜空間倉庫』です」
◇◆◇ ◆◇◆
そして俺たちは、両親を連れて『倉庫』を開扉。今は昔と違って、「一緒に入る」と意識しなければ同時に『倉庫』に入れない。なんせ、『倉庫』内時間は外界と違うから、「一緒に入る」と意識しなければ、ほんの一瞬のずれで『倉庫』内で合流する事が出来なくなる(先に入った人が出た後に、次の人が入る形になる)仕様になっている。だから『倉庫』入室時には、入室時間と入室者名をノートに記録することにした。ちなみに、さっき美奈たちが入室する前に、既に武田が、入室後今までに柏木と松村が一度ずつ入室していたようだ。
「凄い、な」
「各施設を紹介したいけど、いくら『倉庫』内では無限の時間があるとはいえ心理的には時間に追われるから。その辺りは、追々ってことで」
だけど、女子が着替えている間に、別の相手を紹介することにした。
「あれ? ネコ? 仔猫? でも、随分大きい……」
「否、ネコじゃない。まだ仔どもだってのは正解だけど。
成長したら、全長2mを超える、魔豹だよ。
しきりに母さんの匂いを嗅いでいるのが、トモエ。
父さんと母さんの間でうろうろしているのが、ダリア。
一歩離れてお坐りしているのが、レイ。
で、その向こうの有翼獅子、グリフォンが、ソニアの相棒のボレアスだ」
(2,591文字:2019/08/11初稿 2020/03/31投稿予約 2020/05/11 03:00掲載予定)
・ 「羊飼いのグードの娘のソニア」をスコットランド風の名前にすると、「ソニア・マックグード」になります。ついでにお父様は「グード・シェパード」、となる? ついでに、有翼騎士としてのソニアなら、「ソニア・マイティ」と名乗ることも出来ます。
・ (前作でも注記したけど、改めて)「雑役メイド」は、メイドの格としては最下位です。何故なら、雇い主はそれぞれの専門職メイドの数を揃えられない、という証明ですから。が、それぞれの専門職メイドと同等の業務を一人で熟せるメイド・オブ・オールワークスは、当然ながら引く手数多で高給待遇間違いなしでしょう。
・ 避妊具を渡そうとする琴絵さん。行為は推奨、でも実際の子作りはまだ先で。卒業までの期間、子作り禁止令を(美奈に)出しています。子作りは計画的に!
・ 「エリス、俺の部屋を使え。ソニアは美奈と一緒に客間」。美奈さんに翔くんの部屋を使わせると、クンカクンカしそうだし。友人の彼女(未満)に自分の寝室を使わせるのはさすがに失礼だし。エリスの場合は、縫いぐるみ代わりに翔くんの匂いの染みついた枕を抱かせれば安眠出来るだろうし。
・ 『亜空間倉庫』は、最早彼らの〔固有魔法〕ではありません。彼らが管理者権限を共有(代行。真の管理者はエリス)する、『迷宮』です。
・ 飯塚翔「ソニアは文字通りの『一人で一部隊』なんだから」
髙月美奈「あれ? 『一人で一編隊』じゃないの?」
翔「地上部隊支援航空団、だから陸軍だろ?」
・ 髙月美奈「食べ慣れていない人にはシカ肉やクマ肉はあまりお勧め出来ない、かな?」
飯塚翔「俺たちも、最初は苦労したよなぁ」
美奈「でも騎士王国に召喚された直後の食事(薄い麦粥)に比べたら、ちょっと獣臭くて上手く下拵えしなければ筋張って固い肉、でも御馳走だったよね?」
翔「意外に食べ易かったのは、ウサギだったな」
美奈「結構人気メニューだったモノね」
・ 仔魔豹たちとボレアスくんは、現在『倉庫』内でお留守番。彼らのエピソードは、後日。