前作あらすじ(後)
〔2/2〕
注:本作は、『拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~』(n4012ep)の、直接の続編です。前作未読のままでは意味不明な部分もありますが、ご了承願います。
◆◇◆ ◇◆◇
第二王子・アマデオは、しかし争乱の原因になるという理由で、モビレアに左遷され、公女アドリーヌとの婚約を定められた。また、その所領として定められたのは、ハティス地方。現在ゴブリンが王国を宣言して占有している場所だった。
その為、まずハティス地方最南端にある街リュースデイルを解放する為に、軍を動かした。主街道である峠を迂回し、隠れ里にして温泉街であるウィルマーの町から林道を通り、直接リュースデイルの町を解放。そこから峠を挟み込むようにして、ゴブリンたちを駆逐した。但し、滅ぼすのではなく、敗北を認めさせた後に、講和によって両者の領域を定めたのであった。
時を同じくして、スイザリアの王女パトリシア姫が、庭師と駆け落ちするという騒動を起こしていた。パトリシア姫は、リングダッド王国の王太子の下に輿入れすることが決まっていた。彼ら六人は、その頃仲間になった猫獣人の密偵・ベルダと共に、姫らが逃げた、アザリア教国の聖都に向かった。
アザリア教国は、この世界の善神を奉ずる宗教国家であった。が、「全ての者に救済を」という名目で、悪人でも、神殿に喜捨すれば、その罪が赦される。そういうシステムになっていた。簡単に言えば、窃盗に関しては、盗んだ金額の半分を喜捨すれば、それで無罪放免になるのだ。これは、単に悪人の跳梁を助ける制度に過ぎない。彼らは、この国のシステムに、嫌悪感を抱いたのである。
そして、パトリシア姫は。城を出る時に持ち出した宝飾品を売り、それを生活費に充てていた。庭師は碌に稼ぐことも出来ず、酒に溺れ姫のヒモに成り下がっていたのだ。彼らは、パトリシア姫を確保し、リングダッドへ嫁がせた。但し、姫の所業は両国の威信を大いに傷付けたことになり、文字通りのお飾りにしかならなかった。(第五章)
彼らが聖都に滞在している間、ウィルマーに出来た冒険者ギルドのギルマスに就任したプリムラの下に、魔王が訪れていた。プリムラは魔王に、ギルド運営の為の人材を求め、またアマデオ王子は魔王に有翼獅子の調教方法を求めた。それに対し魔王は、スイザリア貴族の子弟を人質として魔王国に留学させる案を提示した。これに則り、モビレア公女アドリーヌ姫が魔王国へ留学することが決まり、六人がその護衛としてドレイク王国を訪れることになった。
魔王国では、何故か飯塚翔が「王太子候補」という立場に立たされていた。それは、エリスの保護者であることなどの幾つかの要因があったのだが、本人にとっては寝耳に水。取り敢えず聞かなかったことにした。
その一方で、魔王と直接会話をし、幾つかの重要な事実を知ることになった。その中で最大のものは。彼らの使う〔亜空間倉庫〕が迷宮魔法であり、それを活用すれば地球に帰る扉を開くことも出来る、ということだった。また、エリスの母にしてこの世界の創造神ともいうべき女神、リリスとも言葉を交わした。リリスは、けれど。彼らが〔契約〕を放置して地球に帰ることを禁じた。〔契約〕を履行するよう要求してきたのだ。その対価として、全てが終わったその後に、〔亜空間倉庫〕を経由して、二つの世界を行き来出来るようにすると確約してくれた。
魔王国からの帰り道。彼らは、ブッシュミルズという町に立ち寄った。この世界最高のウィスキー蒸留所がある町だった。そしてそこは、松村雫の姉、松村泪が興した町だった。この世界で松村雫が気に入ったウィスキーの銘柄『泪の雫』は、泪が作ろうとしてその子孫が完成させたものだった。
ブッシュミルズの丘の上、松村雫は武田雄二に求婚した。武田雄二は、けれど。二つの世界を渡る為に、五人が揃わなければならないという、リリスの定めたルールから、自分たちが将来、それぞれ道を違える可能性に気付いていた。だから、今はまだ、将来を定めるには気が早いと、普通の高校生カップルになることを選択したのだった。
彼らがリングダッド国内に入った時。アザリア教国の教皇の令嬢・セレーネ姫が、スイザリアに亡命を希望している旨連絡があった。彼らは姫を保護し、スイザル王宮に入城したのであった。(第六章)
各国の思惑から、セレーネ姫を旗頭とし、アザリア教国教皇ジョージ四世と戦争する方針が定まった。それは、飯塚翔の方針とも一致していた。
だから六人は、再び魔王国へ。〔亜空間倉庫〕の性質を応用した文書送達手段〔ポストボックス〕。これをアンカーに、長距離転移で一気に魔王国へと飛び、そこで魔王の協力を取り付けた。
更に、魔王国海軍に艦を出してもらい、再び西大陸へ。彼らを召喚した、騎士王国に向かい、彼らを奴隷としたその契約を更改した。その内容は、当然彼らに有利なように、けれどそれは騎士王国にとっても利用価値のある。そんな、内容のものとなった。
魔王国と、騎士王国。両国の協力を取り付け、更にリングダッドにも〔ポストボックス〕を譲渡して。彼らはようやくスイザリアに戻ることになった。少しの間のんびり過ごすことも出来たけど、最初に戦端が開かれたのは、リングダッド北方にある、アプアラ王国ロージス領。ここに、ローズヴェルト王国が軍を派遣してきたのだった。
とはいえ少数の先遣隊。二千ほどの戦力に過ぎなかったことから、〔亜空間倉庫〕の性質を利用した、要塞転移攻撃により撃退することに成功した。(第七章)
彼らが想定していた戦争は、教国とその同盟国を相手取ったものだった。が、それとは全く無関係にローズヴェルト王国は、スイザリア=リングダッド二重王国に対して侵攻を開始していた。それは、ローズヴェルトの旧宗主国・フェルマール王国の滅亡の引き金を引いたのが、この二重王国だったからである。
対して二重王国側は、その為対教国戦と対ローズヴェルト戦で二正面作戦を強いられた。けれど、高速通信手段がなく、高速移動手段がないこの世界に於いて、〔ポストボックス〕を用いて高速通信が出来、また転移による瞬間移動が出来る彼らにとっては、時間差でこれに対抗する事が出来た。結局ローズヴェルトは、遠征で多くの兵を失い、治安維持に支障を来すほどに国力が衰退することになった。
一方教国では、普通の君主と同じく侵略し占領した地から略奪するのを是としまた籠城戦の為に自国の町村からも物資を徴発したジョージ四世は、他国の民であっても等しくその被害者たちを救恤しようとするセレーネ姫と比較され、急速に支持を失っていった。
最終局面では、聖都の市民が自分から市門を開く形でセレーネ軍を迎え入れ、この大戦に終止符を打ったのである。(第八章)
そして彼らは、地球に戻った。地球を離れた時の、『放課後の教室』に。
(2,700文字:2019/08/09初稿 2020/02/29投稿予約 2020/05/06 21:00掲載予定)