新しい靴を履いて
気がついたら、そこに立っていた。ただじっと、見つめていた。線路を、見つめていた。何回目かのドアの開閉音を聞いて、自分が今、しにたいと思っていたことに気づいた。いや、わからない。本当に死にたかったのか。けれど少なくとも、生きたいとは思っていなかった。その日は、新しい靴を履いていた。
あれは小5のときだったか。自分が書いた感想文が、代表として貼りだされた。道徳の時間に、何十年も昔の戦争の話を読まされた。人の命は儚く、脆く、美しく、大切だといった内容だったと思う。周りはみんな、人の命は尊くて大切なもので、戦争は二度としてはいけないといった内容を書いていたので、私も真似をした。死んだ人はかわいそうだと思ったし、戦争はしてはいけないとも思った。けれど、命の大切さというものが、いまいち分からなかった。
それから買っていた猫のちょこが死んだ時も、父方の祖父が亡くなった時も、私はどこか冷めていた。病気という、死んでいく過程が見られたから、怖くなかったのかもしれない。幸いにも今のところ、身内や親しい人が突然死したこともない。 本の中でもドラマの中でも、人は驚くくらいあっけなく死んで行く。なんとなく時代が進むにつれ、死というものが軽く捉えられているような気がする、そんな社会だから、私のような若者が出来上がってしまうのだ。きっと。
苗字が同じ彼女と出会ったのは、高校の入学式だった。