(A world without colors.2)
(前回のあらすじ)
生まれつきモノの色がわからない「私」は生まれ育った農村を追い出され、
都で帝の娘である「姫様」と出会う。農村生まれの「私」と貴族である「姫様」が
親しくしていると天変地異が起こる。天変地異を恐れ、「姫様」の立場を案じた「私」は
「姫様」を振り切って、追い出されてから暮らしていた森の中へと駆け戻っていった…
(A world without colors.2)
森の中へと逃げて3日。
奉行様に似た人達が隠れた「私」を探している。
「おい!居たか?」
「いいや、いない!そっちはどうだ?」
……。そんな大声で話したら自分たちの居場所がわかってしまうとは思わないのだろうか。
「…こっちに行こう。」
「私」は声の聞こえない方へと歩く。
昔から、目が変な代わりに耳だけはよかった。
だが、聞きたくないことも聞こえているのだから嫌でしかなかった。
認めるのは癪だがお陰で奉行様たちを避けることができているのだから
今だけは耳がいいことに感謝しなければなるまい。
森の中を進んでゆくと大きな木々が増えてきた。
「今日はここで寝ようかな。」
或る程度進んだところで近くにあった大木の洞の中で「私」は丸くなって眠った。
夢は見なかった。
_一方「姫様」の暮らす舘では…
あの、薄汚れた強い目を持った少年を探し出して3日目。「姫様」としての力で使える近衛兵を総動員しても「彼」は見つからなかった。
「本当はこんなことしてはいけないのだけれど……。それでも、あの少年に会ってもう一度話がしたいの……。」
今日は父上…帝が地方の視察を終えてこの舘に帰ってくる。大衆に恥じない立ち振る舞いをしなくては…。
「帝様のお帰りである!」
帝のお付きの方が声を張り上げて帝の帰りを叫ぶ。
すると、館にいる人がそろって地にひれ伏す。もっとも、「私」もその一人だが…
「「ははぁー!!」」
帝は視察に行く前とは違い、青い絹の衣をまとっていた。恐らくどこかの国で捧げられたあの青い衣が相当気に入ったのだろう。顔を隠している布の奥で帝は笑っているような気がした。
基本的に帝の素顔は亡き皇后以外見ることができない。
それは家族である私でも同じである。
だから私は帝の機嫌がいいのか悪いのか、予想することしかできないのだ。
面白いくらいに声をそろえて頭を下げていると、舘に残っていた使用人の一人が
帝に耳打ちをした。
すると帝は、静かに燃えるような怒気のある声で大衆を黙らせた。
「出迎えなぞ今の朕には必要ない。わが娘はどこにいる。朕の部屋に連れてこい」
何千人もいる人をたった一言で黙らせる。帝とは恐ろしいものである。
「はっ、姫様。こちらへ。」
私の直属の部下、「執事」がいつの間にか表れて腕をつかむ。
「痛いわ 自分で歩けますから!」
…正直言って「執事」は苦手だ。
表向きは『私直属の部下』ということになっているが本当の所属は『闇影』だ。
『闇影』とは、国家を守るために汚れ仕事を行う部署で、闇討ち、暗殺はもちろん、
身分を偽ってその他の部署や機関への潜入調査、監視など多種多様な汚れ仕事を行う部署だ。
一般的に、『闇影』になったことは周囲に知らされることはない。
就任する条件は、帝の直下部隊の一員であること、大佐以上であること、『闇影』の任務に抵抗がないこと。そのほかにも細かい条件があるが、この三つが大きいといわれている。
そして『闇影』になったものは、就任の儀の際に帝の素顔を見ることができるのだ。正直言ってうらやましい気もするが、『闇影』にはなりたくないし、なれもしない。
きっと秀才の中の秀才のみがなれるのだろう。『闇影』を付けられているということは、帝は「私」のことを信用していないのだろう。…背後には十分に気を遣うことにしよう。
その『闇影』の「執事」に連れられて帝の元へ向かった。
「帝様、姫様をお連れしました。」
「執事」は、離してほしい。といってもつかんだ腕を離してくれなかった。
「入るがいい。」
聞きなれない男性の声とともに部屋の戸が開いた。
「失礼します…。父上」
目を伏せて部屋の中に入ると帝は私に背を向けて座っていた。
いつも身に着けている顔を隠すための布はテーブルの上に無造作に置かれている。
つまり、今の帝は素顔を晒している。ということになる。
『闇影』と皇后以外で初めて帝の顔を見ることが出来るはずだ。
「来たか…」
帝の声は先程よりは落ち着いていて、ややトゲのある程度だった。
「はい、お待たせして申し訳ございません」
私が口を開くよりも先に「執事」が答えた。
「っ… 父上、なにか私に不備がありましたか?」
言い忘れていたが、この部屋に無断で入室すると斬首刑になるとかいう噂がある。
呼び出されたので了承は得ているがそれでもやはり怖いものは怖い。
せめて無礼のないようにと気をつけて発言したが、つっかかった…。やばいかもしれない。
「…少し、娘に話がある。席を外せ」
帝の周りの『闇影』達は一礼をして部屋から出ていくが、「執事」はまだ部屋に残っている。
「「執事」?どうしたの?」
帝は納得したような何とも言えない声で「執事」はいつものすまし顔。
どういうわけなのか…。
「お前は知らなかったのか。
お前とそこの「執事」は姉妹なのだよ。もっとも「執事」は元側室、今の正室の娘だがな」
「へ…?」
「言っていなかったのですね、父上」
「舘内では有名な話だがな…。今回の件は「執事」には関係の無い話なのだが…聞くのか?」
「えぇ、妹の悪事ですもの。正すのは姉であり『闇影』の私の役目。」
「そうか…では、親子水入らずの事情聴取としようか」
……To be continued