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めいあいへるぷゆー?  作者: 灰原康弘
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第二章②

 しかし、そんなくだらない後悔はすぐにどうでもよくなった。というより、緊張のせいで気にしている余裕がない。


 俺はいま、葵と並んで歩いている。つまり、当然だが、俺の隣には葵がいる。駅へと続く大通りを歩いていた。

「あのね、わたしのスマホにメールが届いたの」

 葵はスマホの画面を俺に見せてくる。そこには葵の言うメールが写っていた。

「〝ダイバードファンシーパーク〟ってところあるでしょ? 最近できたテーマパークみたいなんだけど、そこにはある秘密が隠されてるんだって! ね、面白そうでしょ? わたしたちで調べてみようよ!」

 そう言う葵は、本当に楽しそうだ。俺と一緒だから……ではなく、〝秘密が隠されてる〟っていう、ワードに心惹かれてるんだろうな。


 いつもとおなじ、くるくる変わる表情、長い黒髪を今日はアップにしてでまとめている。トップスにブラウスを重ね着して、白のロングスカートをはいている。その立ち振る舞いには、相変わらず気品があるように思う。

「……悠くん?」

「えっ? な、なんだ……?」

「どうかしたの?」

 葵が不思議そうな顔で俺を覗きこんでくる。まさか、見とれてた、とは言えずに俺は言葉に詰まってしまう。

 っていうか、顔が近い……! それだけのことなのになぜか緊張する。顔が赤くなっているのが自分でも分かる。


「……な、なんでもない」

 さっきメイと約束したばかりだからな。無理やり言葉を絞りだす。しかし、それが精いっぱいだった。

『ちょっとぼーっとしてたみたいだ』

 見かねたのか、メイが俺の声でつづけた。

「ふーん」

 葵は一応納得してくれたらしい。それで引き下がってくれた。

「ね、それで、どうかな?」

「あ、ああ……そうだな……」

 と、またまた言葉に詰まる俺。


『行くぜ! 行く行く!』

 メイが後を続けてくれた。

「おおっ。やる気だねー!」

 楽しそうに笑う葵。かわいい。

「そうと決まれば急がなくっちゃ! 行こっ、悠くん!」

 葵は楽しそうに笑った。そんな彼女を見ていると、俺も不思議と笑ってしまうのだった。




 ファンシーパークへはバスでむかう。駅からバスが出てるらしい。バス停にむかう途中、スマホでダイヤを確認すると、十時ジャストで直通があるみたいだ。スマホで時間を確認するともう五十分を過ぎていたので、二人して走る羽目になった……のだが、葵のスマホの時間は俺のよりも五分遅く、しかもそっちのほうが正解らしかった。なんか損した気分だ。

 つーか、姉貴に間違った時間を教えちゃってたんだな。……ま、いいか。だれかと待ち合わせしてるにせよ、遅れるよりはいいだろ。

 休日の昼にもかかわらず、利用者は結構多い。たぶん、目的地は俺たちと同じだろう。親子連れとか、カップルっぽいのもいるからな。

 俺たちもそう見られてるんだろうか……。とか思いながらバスに揺られる。


 こういうとき、千影相手ならなんてことない雑談とか、これから行くところってどういうところなのかとか、そんな話をして暇を潰すんだが、葵相手ではうまく口が動いてくれなかった。

 バスは混雑しているが、駅前始発だからな。座ることはできた。……二人掛けの、席に。隣同士である。俺は立っていようと思ったのだが、葵に手を引かれ、勢いのままに隣に座ることになってしまった……。

「これから行くところ、すっごい大きなところみたいだよ。アトラクションのほかにも、映画館とか、水族館なんかもあるんだってさ」

 と言って、俺にスマホの画面を見せてくれる。


 そこには園内の写真や案内などが載っていた。どうやら、これは公式ホームページみたいだ。

 それで思い出したんだが、ここは鳳橋グループが出資しているテーマパークだ。つぶれた遊園地を買い取って、新しく作り直したものらしい。完成予定を何度か引き延ばして、オープンしたのは確か先週だったはずだ。

 なんてことを脳内で考えるが、実際のところは……。


「へ、へー」

 というのが精いっぱいだった。スマホの中のメイがため息をついた気がする。

『さっきパソコンにメールが来たって言ったけど、だれから来たんだ?』

 ふがいない俺に代わり、またメイが言葉を続けてくれた。

「うーん、それが分からないんだ。差出人のとこにはね、名前は書いてなかったから」

 そんなのを開いたのか。コンピュータウイルスにでも感染したらどうする。

 ってことも、せめて口に出せればいいんだろうが、やっぱり口がうまく回ってくれない。

「でもね、危ないメールじゃないのは確かだよ。わたし、ミステリー関係のサイトにいくつか登録してるんだけど、そこから時々メールが来るんだ。雰囲気だすために、差出人は不明ってなるんだけど、会員には分かるように、サイト特有のマークが手書きでつけられてるの」


 葵がメールを見せてくれる。確かに差出人は不明……っていうか、アンノウンって書いてある。メールの下の部分には、Xと書かれていた。

 この〝X〟っていうのが葵のいうマークみたいだな。

「ほら、書いてあるでしょ? 『あの遊園地には重大な秘密がある。暗号を解いて、それを解き明かそう』って」

 ……本当だ。

『どうやら、このサイト、運営主は鳳橋グループの広報室のようですね』

 メイが小声で俺に教えてくれた。多分、ハッキングして調べたんだろう。自慢するわけじゃないが、こいつのハッキング能力はすごい。

 それはともかく、これは謎でもなんでもなくて、遊園地がオープン記念かなんかで企画した謎解きゲームらしい。


 なんだ……。と内心ちょっと拍子抜けする。ま、でもそりゃそうか。いくらなんでも差出人不明のメールを開くだけじゃなく、そこに書かれた場所に行こうなんて思うはずないよな。

「ね、面白そうじゃない?」

「ああ、そうだな……」

 たしかに、面白そうではある。俺は昔からミステリが好きでいくつか目を通してるし、暗号解読は好きなほうだ。

「そう言ってくれると思ってたよっ! 千影ちゃんも誘ったのに、電話に出なくてさー」

 ぶー、と口をとがらせる。……かわいい。

 まあ、千影は今日委員会らしいからな。そのことを言うと、葵は「そうなんだ」と言った。


 それからしばらくバスに揺られる。ヘタレな……もとい、謙虚な俺はあまり喋れなかったが、やがて葵が、

「あっ、ひょっとしてあれじゃない?」

 と言って、窓の外を指さした。

「あ、本当だ……」

「意外とすぐ着いたねー」

 にこりと微笑みかけられるも、俺はぎこちない表情しか作れなかった。




〝ダイバードファンシーパーク〟。俺たちが来たテーマパークの正式名所である。


 この〝ダイバード〟っていうのは、鳳橋の『おおとり』からとったものだろう。このテーマパーク、市から直接依頼を受け、鳳橋グループが作ったものらしい。

 開園間もなくつぶれた遊園地をどうにか再利用できないかという、なんともお粗末な依頼を受け、周囲の土地を買い取り敷地を拡げ、アトラクションだけでなく、遊水施設、レストランに各種店舗を作り、レジャー施設を完成させた。……ものらしい。それはパンフレットに書いてあったことだ。


 考えてみれば、俺は自分の家がなにをやっているかってことをほとんど知らない。やっている事業はいろいろあるみたいだけどな。いろいろありすぎて、一介の高校生にはよく分からん。

 バスターミナルはやたらと広い駐車場の隅にある。とはいえ、その駐車場はほとんど埋まっており、バスからも俺たちを含めて多くの人間が降りる。それをみるに、このレジャー施設企画は成功しているようだ。だれが企画者か知らないが、きっと出世するんだろうなぁ、などと、下世話なことを考えてしまう。

正面ゲートまでは、駐車場から一直線に行けた。駐車場からゲートまで、大名行列みたいに列ができている。


「できたばっかりなだけあって、きれいだね」

 葵が興味深くあたりを見回しながら言った。

「そ、そうだな」

 正面ゲート近くに、パンフレットが置いてあったので、それを一つとる。そうしてさっきの記述を見つけたわけだが、そこに目を通したところで、葵が横から覗きこんでくる。

 白い肌。長いまつ毛。髪を耳にかけるしぐさも含めて、とてもかわいらしい。ドキドキしてしまう。いや、緊張は最初からしてるんだけど。

「葵、その……メールの件なんだが……まずはなにから始めればいいんだ?」

「えっとね」

 葵はまたメール画面を確認する。


「メールによると、アトラクションの中に暗号が隠されてるみたいなの。知らない人には分からないようになってるみたいなんだけど、このメールが来てる人には分かるようになってるんだって」

「へえ」

 なんかいかにもゲームって感じだな。

「暗号のある場所は、メールで送られてくるらしいんだけど……あ、あった。最初はここみたい」

 葵はスマホの画面を俺にむけてくる。

 そこにはあるアトラクションの名が書かれていた。




 キャー!

 という悲鳴が、あたりに響いている。横二列の乗り物が、レールの上を勢いよく走ったり一回転したり急な坂を下ったりする。

 これは、いわゆる〝絶叫系〟ってやつだ。

 ジェットコースター、である。


「ここに暗号が隠されてるのか?」

「うん」

 と言って、また俺にスマホの画面を見せてくれた。

 そこにはこう書かれている。

 ――列車が円を描くとき、賢者の俯瞰は真実を見る。

「どういう意味だ?」

「うーん、花壇を上から見ろってことかな?」

 葵が首をかしげながら言う。

 まあ、ここで考えていても仕方ないか。


「よし、じゃあ、乗ってみるか」

「そうだね!」

 なんか嬉しそうだ。絶叫系が好きなんだろうか。

 というわけで、俺たちは列に並ぶ。長蛇の列ってほどじゃないから、何時間も待つことはないだろう。

「悠くんはさ、こういうの好きな人?」

「好きってわけでもないな。でも、こういうとこに来たら必ず乗ってる気がする」

「まあ、定番らしいもんね」

 葵はちょっと笑って、

「わたしね、こういう絶叫マシーンに一回乗ってみたかったの」

「あれ、乗ったことないのか?」

 てっきり何度も乗ってるものだと思ってた。


「今日が初めてなんだ。だから楽しみ」

「ふーん、なんか意外だな」

 そんな会話をしていると、ふと目をやったさきで、ある人物を見つけた。

(姉貴……?)

 わが姉、鳳橋茜が列に並んでいた。

 なんでここに……つうかなにしてんだ、こんなとこで。

 騒々しく出て行ったと思ったら、ここに用があったのか? でもなんで自分のとこが経営してる施設に? 抜き打ちチェックでもしてんのか?

 とここで、姉貴の隣にいる人間に気づく。

 男だ。男がいた。歳は多分、二十半ば。スラリとした長身。色白の肌に眼鏡をかけた、なんというか、好青年って感じの人だな。顔も結構……いや、かなりいい。かなりのイケメンだ。

 これは、もしかしなくても……。


『デート、ですね』

 メイがボソッという。

 ……やっぱそうだよな。バタバタしてたのは、デートだったからか。でも、仮にも財閥の会長がこんなとこでデートするか? いや、べつにダメではないが。それに、あの男の人は何者なんだろう。

「悠くん?」

 急に黙った俺を不思議に思ったのか、葵が俺の顔を覗きこむようにして訊いてくる。

「どうかしたの?」

「い、いや、なんでもない……」


 そうそう、なんでもない。姉貴がだれとデートしようが俺の知ったことか。だいたい、俺はいま葵と一緒にいるんだからな。それを楽しまないと。……緊張のせいで、その余裕もあんまないけど。

 それからすこし並んで、十数分くらいあとには順番が来た。順番にジェットコースターに乗りこんでいく。当然といえば当然なんだが、俺は葵の隣に座ることになる。バスに乗ったときもそうだったが、これもすこし緊張する。

 そんな俺とは対照的に、葵は席の座り心地を確かめたりベルトをカチャカチャいじったりしている。


「ねえ、これどうやってつけるの?」

 どうやらベルトのつけ方が分からなかったらしい。両手に握ったベルトをフリフリしながら訊いてくる。

『あ、俺がつけるよ』

 というのは、俺の声じゃない。いや、俺の声ではあったんだが、俺が言ったわけじゃない。いまのはメイだ。メイがまた勝手なことを言いやが……もとい、言ってくれた。

「ホントっ? ありがとう!」

「いや、全然。気にすんな」

 自然にこう答えることができたのは、もはや奇跡だと思う。

 ベルトをつけるだけなのに緊張する。微妙に震える手でベルトをつけ、さらに上からもベルトを下ろした。


「へー、こうなるんだね」

 葵はまたカチャカチャやりながら、うんうんうなづいている。

 そうこうしているうちに、上から下ろすベルトにがっちりロックがかかった。発進するってことだ。簡単なアナウンスのあと、ジェットコースターが動き出す。

 ゴトンゴトンとゆっくりと動く。

 これから起こることはみんなが知っている。やめてほしいけどやってほしい的な、「押すなよ! 絶対押すなよ!」みたいな、絶対だぞ! みたいな、要するにふりである。

 乗るのは初めてと言っていた葵も、これから起こることは大体想像できたらしい。期待に胸を膨らませた表情をしている。

 なぜなら、俺たちはいま、坂を上っている最中だからだ。

 俺もちょっと体を強張らせる。

 動きががぴたりと止まる。


 つぎの瞬間、

「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!」

 さっき聞いた悲鳴がまた響く。

 俺の隣では、葵もおなじように悲鳴を上げていた。

 俺はといえば、悲鳴を上げないようにしていた。だっていまは隣に葵がいるわけだし、悲鳴とか上げたらなんかカッコ悪いだろ。いや、待て。むしろこれは上げるべきなんじゃないか? だってこういう絶叫系って、悲鳴上げるとこまで含めてアトラクションみたいな、そんな風潮があるんじゃないかしら。いや、でも悲鳴って言われてもな。どうやって上げればいいんだ? 「きゃー」? いやいや、それはなんか恥ずかしいな。「うわー」とか? いやいやいや、なんかコレジャナイ感が……。


「結構楽しかったねっ!」

 葵が笑顔で言ってきた。見ると、ゴンドラは最初のところに戻ってきていた。

 考えている間に、終わってしまったらしい。……なんだろうこの、すっごい損した気分。

「そ、そうだな」

 まさか悲鳴を上げるべきなのかどうか考えてたとは言えず、俺は我ながら煮え切らない答えを返すしかない。

「ね、もう一回乗ろうよ!」

 とか思っていたらまさかの申し出。

「よし、じゃあ乗るか!」


 しょうもないこと考えてて楽しめなかったしな。つぎこそは!

 つーか、暗号のこと完全に忘れてた。この様子じゃ、たぶん葵も忘れてるな。

 つぎは暗号も考えて乗らないと。

 ――列車が円を描くとき、賢者の俯瞰は真実を見る。

 これは暗号ってほど大層なもんじゃない。

 列車が円を描くとき……つまり、ジェットコースターのゴンドラが円を描いたレールを回るとき、円の上の部分から下を見ろってことだろう。


「おおっ。じゃ、行こっか!」

 葵に手を引かれ、不整脈かと疑うくらいに胸が高鳴る。結構心臓に悪いなこれ。いや、もちろんうれしいんだけどさ。手汗大丈夫かなとか、そういうことが心配なのです。

 ふたたび列に並ぶ俺たち。順番が来るとゴンドラに乗りこむ。今度は、葵は自分でベルトを締められていた。……べつに残念とか思ってないんだからねっ!

 ゴンドラはさっきのように坂を上っていく。またさっきのように悲鳴が上がり、横からも悲鳴が聞こえてくる。見ると、葵は楽しそうな顔で声を上げていた。それを見ているとなんだか俺まで楽しい気分になって、俺もおなじように声を上げた。うん、結構楽しい。


「悠くん、もう一回乗らないっ?」

 下りた直後、葵がそんなことを言った。

「えっ」

 いま下りたところですけど。つぎは乗ったら三回目ですけど。それでも乗るの?

「乗ろうよ!」

 ずいっと、詰めよってくる。なのでつい、

「アッハイ」

 と答えてしまった。

 そういうわけでもう一回。

 三回乗った。もうこれで……。


「また乗ろうよ!」

 ゑ?

 四回目ですけれど。まあ、いい。さすがに四回も乗れば……。

「もう一回!」

 マジデスカ。

「なあ、葵。そろそろ……」

「うん? なあに?」

 小首をかしげている葵。……かわいい。


「よし、乗るか!」

 いいだろう。葵が楽しんでるわけだし、こうなったら、何回だって乗ってやる! やってやろうじゃねぇか!

 決意を新たに、俺は列に並ぶのだった。




 今回のことで俺は学ばされたことがある。

 それは、決して安請け合いはしてはいけないということだ。

 あのあと、俺たちはジェットコースターに五回乗った。計十回。まさかの二桁の大台だ。

 俺はしみじみと、地面を踏みしめる。

 なんか疲れちゃったな……。


「面白かったーっ!」

 ま、葵が嬉しそうだし、良しとするか。

 気持ちよさそうに背伸びをする葵を見て、俺はひそかに息を吐く。

 ところで、そもそもここには暗号を解きに来たことをお忘れじゃないだろうか。

 いいか、それは俺が見たし。

 暗号のことだが、ゴンドラが円のとこを回ったとき、ちょうど下に花壇が見えた。その花壇の形は、ひらがなの『け』と『を』になっていた。

 これだけじゃなんのことかよく分かんねぇな。

「ね、悠くん、楽しかったねっ」

 葵が俺に詰めよりながら言ってくる。その姿が、ふと、中学三年の夏休み、初めて会ったときと重なった。


 あの時とおなじ、ころころ変わる明るい表情。それを見ていると、こっちまで自然と笑顔になってしまう。

「そうだな!」

 気づけばそう言っていた。

 しかしここで、葵が「あっ」と声を上げた。

 な、なんだ?

「暗号のこと忘れてたや。どうしよう……」

 そのことか。ってか、やっぱり忘れてたのか。

 俺は自分が見たことを説明する。すると葵はホッとした様子だった。


「ごめんね。私自分で誘っておいて、すっかり忘れてたよ」

「い、いや……」

 さっきとは反対に、シュンと肩を落としている。こういうとき、気の利いたことの一つや二つ言えればいいんだが、俺の口は思うように動いてはくれなかった。

『気にすんな。大したことじゃないよ』

 モゴモゴやってる俺を見かねたのか、メイが助け舟を出してくれた。……助かったが、これはまたあとで嫌味を言われるな。


『気にしてくださいね。大したことなので』

 思ったそばからこれだ。

 まあいい。無視しよう。話が進まなくなるからな。

「な、なあ、つぎはどうするんだ? つぎはどこに行けばいいんだ?」

「あ、えっとね……」

 葵はスマホでメールを確認する。すると、また葵の目が輝いた。さっきとおなじ目……これはたぶん、好奇心に囚われてるんだ。

 ニコニコとした笑顔で、また俺に画面を見せてくれた。

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