プロローグ
学校の教室にて、俺……鳳橋悠は、クラスメイトの高埜葵を待っていた。
告白を、するために。
高埜に出会ったのは、俺が中学三年生の時だった。その時の俺は、とある事情からふさぎこんでいた。自分の部屋に引きこもって、なにをするでもなく、ずっと寝て起きてを繰り返す毎日……。
でも、彼女に出会ったとき、それまで心の中にあった蟠りが、すべてどこかへ吹き飛んだ。不安とか怖さとか、そういうものもきれいに消えて、モノクロだった世界が色づいて見えた。
あれから、俺は頑張ったと思う。
最初は話をするだけでうれしかった。でも、すぐにそれだけじゃ満足できなくなった。高埜とは中学が違ったから、放課後や、ときには休みの日に一緒に出かけた。すこしでも、仲よくなりたかった。彼女と一緒にいたかった。
おなじ高校に進学して、クラスメイトになれた時は本当にうれしかった。それから、まえよりは話せるようになった。やっぱり、おなじクラスになれたのは大きかったと思う。
放課後の教室で、告白のためにクラスメイトを待つ……思ったほど緊張はしていなかった。
多分、覚悟を決めてきたからだろうと思う。もし望まない結果に終わっても、きっと悔いはない。俺は、どうしても高埜に伝えたいことがある。
俺は、今日、高埜に告白する。
教室に足音が近づいてくる。彼女が来たんだ、と思った。
ガラリ、と扉が開く。
「鳳橋くん……」
ゆっくりと、俺に近づいてくる。
腰まで伸びたつややかな黒髪。それほど身長は高くないが、小顔であるが故の八頭身。アーモンド形の大きな瞳に、まつ毛はけぶるみたいに長い。肌が白いために、ピンク色の唇が目立つ。
「高埜、話があるんだ」
「うん」
ぽつりと言う。ちょっとうつむいているが、頬が朱に染まっているのが分かる。たぶん、夕日のせいだけじゃないだろうと思った。
「あの、話って……」
うつむいたまま、彼女は言う。ここで挫けるわけにはいかない。俺は意を決して言った。
「高埜。好きだ。俺と付き合ってくれ」
俺は、告白した。
パソコンの画面の向こうにいる、彼女に向って。