1-8 師弟関係
やっほー。千曳だよ。
師弟関係って簡単に結べるものなのかな?
一応なにか儀式的なものがありそう。
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話を聞きたいとかでギルドに入るように言われた。
こっちとしても何がなんだかわからないし、ついでに質問してやるつもりで了承した。
で、建物に入ったわけだけど、外見が廃墟レベルでボロボロのため、当然中身は更にひどいことになっていた。
壁も天井も、椅子も机もカウンターも分け隔てなく吹き飛び、そこかしこに木片が点在している。
机やカウンターでわかると思うけど、私闘が起きたのは併設されている酒場だそうだ。
仕事もなく昼間から飲んだくれてたら、そりゃ喧嘩っ早くもなるか。
そのおかげかギルドそのものの営業には対して支障がないらしく、仕事のない冒険者のために修復の依頼を出しているようだ。
夕方だってのに頑張るねぇ。と言うか、なんでみんな無職なの?
その答えも教えてくれると信じて、先ゆく幼女を追いかける。やましいことなんて何もないよ?
カウンター横から裏側に入り、廊下を通って一番奥へ。どうやらギルド長の部屋らしい。
お邪魔しまーす。
内装は、思っていた以上に質素だ。
中央に机とソファーが置いてある。おそらく来客用だ。
その奥にデスクが置いてあり、書類が山脈を作っている。後ろの窓から太陽の最後の足掻きが見える。
水晶玉のような丸い何かが天井からぶら下がっている。なんだろ、これ。
ほかには、壁際に並べられた本棚と観葉植物くらい。てっきり絵画の一枚や二枚飾ってあると思ってた。
幼女はまず、デスクの後ろに行きカーテンを閉める。そのあと机の上に立ち、背伸びして水晶玉に触れた。すると、それは光を放ち始めた。まさかの光源ですか。
驚くのも束の間、座るように促された。遠慮なく座ると、とても柔らかい。包み込まれるようだ。なんの素材なんだろ。
ナミが隣に座り、幼女は正面へ。ほかの三人は後ろで立っている様だ。
「さて、まずは自己紹介だね。あたしはチーガル。ここの長をやってる者だ。よろしくね」
そう言って手を出してくる。
うん、小さい。ナミや夜魅と同じくらい、大体140センチくらいと言えば、如何に小さいかわかるだろう。
黄色と黒が半々くらいの髪色と耳、細い尻尾を持っている。虎だね。わかりやすい。
服は兎に角ダボついていて、右肩が思い切り出ている。そのままレーズンまで露出してしないそうだけど、そこは絶対領域。決して出ることは無い。
とまあ、こんな感じの幼女だ。話を聞く限り立派な大人らしいけど、全くそんな気がしない。
「僕は千曳。よろしく」
取り敢えず握手。やっぱり万国共通だった。
「じゃ、早速聞かせてもらおうか。少年の生い立ちと、森で何をしでかしたのか」
「ちょっと待って?」
いきなり飛躍しすぎじゃない?
「待ってる暇なんてないんだよ。こっちは死活問題なの」
「その説明を求めたいんだけど」
「チーガル殿。こやつは無知じゃ。説明してはくれんかの」
ナミから助け舟が入る。嬉しい半面、自分で教えてくれてもいいのにとも思う。
「ホントに知らないの?」
「うん全く」
素直に答えると、呆れたような表情をする。耳もどことなくへにゃってる。
「まあいいや。説明したげる。君にかかっている容疑についてね」
彼女が話すことを一言に纏めると、魔物狩り過ぎ! だそうだ。
なんでも、この世界の魔物は倒すほどに強くなるらしい。マジックハンドの所為か全くそんな様子なかったけど。
魔物を倒すと、ほかの魔物を強くするものが放出されて、それをほかの魔物が取り込むことで強くなるらしい。
で、これが一定の濃度になると凝縮して、宝石のようなものになるらしい。そしてこれが、無尽蔵に魔物を生み出す、日本で言うダンジョンみたいなものを作り出すんだと。
魔物を倒した時にでた紫色の煙がその証拠なんだとか。
「そんなわけで、倒したとしても見返りがないくせにわらわらと魔物を吐き出すダンジョン核の生成は御法度なんだ。人為的に巨大地震を起こすようなものだからね」
要するに、僕は容疑者というわけだ。
…………え?
「えええ!?」
待って待って。僕が何したってんだ! 生き残るために努力してただけだぞ!
「そもそも、初日から紫色の煙は出てたよ」
「え? そうなのじゃ?」
今度はナミが驚く番。確かに、詳細は語ってなかったな。
「ちょい少年。それはホントかい?」
「うん。コイツが魔物を殺した時さ、なんか煙みたいのが出てたんだ」
そう言って、マジックハンドを見せる。
「何それ、サブアーム? ……じゃなさそうだね。へぇ、ふぅん」
ナニコレ怖い。なんかすべてを見透かされてるような気がする。
「おっけ、だいたいわかった。いつからダンジョン化してたかはともかく、異世界人ならまあしょうがないかね」
「……へ?」
一瞬理解が遅れる。今、なんて?
「諦めるのじゃ千曳。この人に分からぬものはない」
「そうでもないけどね」
詳しく聞くと、なんでもこの幼女、解析魔法なるものを持っていて、いろいろな情報を瞬時に得ることができるらしい。初見殺しに遭わなくなるチートな魔法だ。
で、それを使ってマジックハンドや僕のことを調べた、と。個人情報の取り扱いとかどうなってるんだろうね。まだ叫ばれてないのかな。
「まあ、僕の潔白が証明されたならいいよ」
「ところが良くないんだよねぇ」
「ええぇ……」
なんでだろう。って、それもそうか。普通異世界から来たとか言って理解できる人はいないよね。
あれ? でもナミ達は理解してたな。じゃあわかるのか?
「いい感じにぐるぐるしてるね」
「そのへんにして欲しいのじゃが……」
「もうちょっと楽しみたかったんだけどなぁ」
彼女は、しょうがない、と呟くと、説明を始めてくれた。
「君たちの世界だと名前すら出ないかもだけど、こっちだと異世界って単語は結構有名なんだ。初代勇者の関係でね」
初代勇者とは、千年前にこの世界に召喚された二十人の異世界人、地球人のことだ。
様々な知識、強大な力、チート級のスキル。それでいて差別はなく、すべての者に平等に手を差し伸べるすごい人たちらしい。
魔王が言っていた異世界人がチートってのは、これがモデルになってるのかな?
「そういうわけだから、異世界人のスキル持ち、ってのは色々と目に付くんだよ。『勇者の生まれ変わりだー』とかで」
「なるほどね」
つまり、異世界人だから、といった言い訳は通用しないか、目をつけられる、と。
「じゃあ、どうするか」
「一つ提案なんだけどさ、あたしの弟子にならない?」
「なんでまた?」
なかなかに突飛押しもない気がするんだけど。
「あたし、こう見えても結構権力あるんだよ? 特にこの都市ではね」
「ふぅん」
「弟子のためだったら、あたしがなんとか言いくるめてあげるけどどうする?」
一旦考えてみる。
こいつに頼まないと異世界人だということがバレて色々めんどくさい。
こいつに頼むとバレない……が。
「対価は?」
「異世界の話。それとスキルについて」
「……ホントにそんなのでいいの?」
「いいのいいの。あ、ついでに鍛えてあげようか? これでも武術の心得はあるよ」
「心得……。世界一なのに……」
となりからなんか聞こえてくるけど、それは一旦無視して。
なんというかいいことずくめだ。裏があるんじゃないかと疑いたくなるが、コイツの笑顔を見てると邪な考えはないんじゃないかと思えてしまう。
「大丈夫じゃよ。チーガル殿は信用できる」
「あたしだって、姫ちゃんを悲しませるようなことはしないよ」
どうやらこの二人には関係があるようだ。
まあ、特に悪気はなさそうだし、受けるだけ受けてみるか。
「うん。じゃあお願いします」
「ホ――」
「よし! 流石じゃ千曳」
チーガルの言葉を遮って、ナミが声を上げた。
「どうしたの? 姫ちゃん」
「千曳はわらわらの師匠じゃ。師匠が訓練をするなら弟子も従わんと」
あ、その設定生きてたんだ。
チーガルはやってしまったという顔になる。
「やんなきゃダメ?」
「わらわも戦いたいのじゃ。頼む、チーガル殿。このとおりじゃ」
そう言うと、ナミは頭を下げる。目の端に写ったものを考えると、後ろの三人も下げてるようだ。
「う~ん。あんまり危険な目に合わせたくはないんだけど……まあ、いいか」
「本当かの!?」
「うん。いいよ。やってあげる」
何やら話が進んでいるようだけど、部外者からしたらなんのこっちゃだ。
「ただし、そう簡単に強くなれると思わないことだね。脱落者は置いてくよ!」
「望むところじゃ!」
何やら話がまとまったらしい。僕を置いて。
ま、いいけどね。訓練は大勢でやったほうが楽しそうだし。
だが、この考えがいかに浅はかか、すぐに思い知らされることになった。
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