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絶晩成型(リメイク)  作者: 咫城麻呂
第一章 中立都市ツァオベラー
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1-7 中立都市ツァオベラー

 やっほー。千曳だよ。

 異世界って何かと地球との共通点があると思うんだ。

 なんでだろ。作ったのが地球人だからかな?


 ――――――――――――――――――――――――――


 異世界の町並みに対する感想にはお決まりのパターンというものがあって、だいたいの小説ではとある言葉が使われる。


 残念なことに僕はボキャ貧なので、月並みだけどその言葉を使わせてもらおう。


 ――門をくぐると、そこには中世ヨーロッパのような景色が広がっていた。


 てかさ、『中世ヨーロッパ』って言われてその光景が浮かぶ人ってどれくらいいるの? 調べない限り見る機会ないと思うんだけど……。


 そういうわけだから、あくまで僕から見た中世ヨーロッパ感ということでよろしく。


 目の前に広がっているのは、うん、異世界ってこんな感じ、といった町並みだ。


 綺麗に舗装された石畳の道路。馬車が優に三台通れる大きさで、屋台が並んでいる。夕食時のはずだけど、十分に人ごみと呼べるだけの人数が行き来している。


 左右にはレンガ造りの建物があり、様々な看板がぶら下がっている。一階がお店、二階が住居かな?


 遠くにはこれまた夕日に照らされた城壁と、それを上回る高さのお城が。あそこらへんは貴族が住んでるんだっけ?


 それにしても、いい匂いだ。近くの屋台から漂ってきている。ん~。焼肉かな?


 気になったので、許可をもらってよってみる。


 見ると、いろいろな肉を串焼きにしているようだ。


 肉が焼ける音と匂いに、お腹の虫が抗議の声を上げる。


「なんだ兄ちゃん。冷やかしか?」

「い、いえ、別に……」


 こんな時に持病のコミュ症が。おっちゃんは僕を警戒しながら焦がさないように肉をひっくり返し、タレを付け、並べていく。この間、手元を見ることはない。じっとこっちを見ている。


「十本追加!」


 どうやらおっちゃんのお店は人気のようで、声に釣られてあっという間に人が集まってきた。


 人に押し出されつつ眺めていると、皆がカードを持っていることに気がついた。あれがRBKか。


 ラオム住民カード(RBK)とは?


 一歳になると全てのラオム人が持つことになるカードのことで、これ一つでお財布、身分証明書、自分辞典の代わりになる恐ろしく万能なカードだ。


 まずお財布。この世界では、BS(バス)と言う暗号通貨のみが出回っている。そう、貨幣はないのだ。異世界って、妙に地球より進んでるところってあるよね。


 お金のやりとりは全てこれで行われる。決済も一瞬だそうだ。


 次に身分証明だけど、このカードは持ち主の魔力でできているらしい。どうやら人によって魔力が異なるようで、カードの魔力と持ち主の魔力を照合することで簡単に本人確認ができる。


 自分辞典とは要するに、自己の関するあらゆる記録が乗っている、ということだ。知りたい情報を念じることでカードに情報が浮かび上がるのだ。


 例えば僕の場合、今まで何年生きてきたか、と念じれば16年と出るし、ラオム歴は? と念じれば8日と出るわけだ。


 更に更に、なんとこのカード、絶対に落とさない仕様になっているのだ。と言うのも、普段は分解されて体内に入ってるんだとか。好きなタイミングで出せて、使い終わったら自動で還っていくらしい。


 こんなものを無料でポンポン作れるってんだから、異世界の技術力って高ぇ。これも魔法のおかげなのかな。


 と、RBKについて復習していると、見慣れたおかっぱが串を両手に持ってこっちに向っているのが見えた。


 彼女はそのまま僕の目の前まで来ると、おもむろに左手の串を突き出してきた。


「食うのじゃ。わらわのおごりじゃよ」

「いいの? じゃ、遠慮なく」

「うむ、歓迎の意味も込めておる。遠慮ぜず――って、食べるのか!?」


 見事なノリツッコミ。本当にありがとうございます。


 ふむ。タレが肉にしっかり付いていて、お互いの味を尊重してる、とでも言えばいいのだろうか。正直、食レポには自信がない。基本どんな下手物でも食べるし。そりゃ美味しいものを食べたいけど、一番は腹を満たしたい、だからね。


「でも、ホントによかったの?」

「かまわぬ。今夜は長くなるのでな」


 意味深なセリフに首をかしげていると、ナミはお供三人と連れ立って奥の方に行ってしまった。慌てて追いかける。


「どういうこと?」

「そのままじゃ」


 なんとか追いついて質問するも、答えになってない返答が来るばかり。諦めたほうが良さそうだ。


 そうこうしているうちに、前方左側に大きな建物が見えてきた。三階建てくらい。横幅もそれなりにある。


 ナミたちはその建物の前で止まった。見てみると、入口の上に車輪のエンブレムが掲げられている。


「これがインチ24。食材、武器、魔道具、なんでも売っているのじゃ」


 ちなみに、二十四時間営業じゃ。と彼女は続けた。


 まさか、異世界にコンビニが?


 確かに、買い物袋のようなものを持ったおばさんが出入りしてる。たまに鎧を着たおっさんや、冒険者らしき青年も見受けられる。ホントになんでも売ってるのね。


 と言うか、扉が開くたびに、妙な冷気を感じる。夕方とは言え、人も多いためまだまだ熱い。これは嬉しいんだけど、なんで?


 気になったら即質問。


「それはあれっす。エアコンっす」


 まさか異世界でエアコンという単語を聞くハメになるとは思わなんだ。


 あまりの驚きに声を出せないでいるのを、彼女等は不思議そうに見つめている。


「む? 異世界では各家庭にあるそうではないか。何を驚いておるのじゃ?」

「だって、エアコンって科学じゃん? なんで魔法の世界で科学を?」

「あれは勇者様が広めてくださったものなのです。快適なのです」


 出たよ、勇者。異世界あるある。まさかこの世界にも勇者と呼ばれる存在がいるとは思わなかったけど、それなら異世界云々も納得だ。その勇者様とやらが話したんだろう。


「ちなみに、勇者ってどんな人?」

「それはもうすごい人なのじゃ! 生活を豊かにし、驚異を払い、様々な発見をもたらしてくれたのじゃ!」


 ナミが興奮気味に語る。どうやら相当すごいことをしたようで、みんなの憧れなんだとか。


 と、予想外の単語に驚きつつ、本題に戻る。


「そういえばさ、なんでここに来たの? そろそろ話してくれたっていいじゃん」

「おっと、そうじゃった。ギルドに用があったんじゃが……」


 そう言うと、ゆっくりと後ろを向いた。釣られてその先を見ると、そこにはぼろっボロの木造建築があった。


「ご覧のありさまでな」

「ナニコレ?」

「ギルドじゃ」


 そんなのは聞いたからわかるよ。


 と言うか、ギルドだよギルド。これもありがちだよね。冒険者、とか、クエスト、とか。


 元ギルドでは、何人もの人が修復作業に勤しんでいた。中には包帯を巻いた人の姿も。怪我をしても休めないなんて、意外とブラック?


「ひっめちゃーん!」

「わぁ!」


 不意に、高い声が聞こえた。見ると、幼女がナミに抱きついていた。お、百合かな?


 幼女、と言っても身長はナミと変わらない。やっぱりナミって小さいな。同い年とは思えない。


「ち、チーガル殿。止めるのじゃ!」

「まあまあ、そう言わずに。確か、ここら辺が……」

「ひゃ、そ、そこは、だめじゃぁぁぁ!」


 夕焼けの空に、楽しそうな声が木霊した。


 ★★★


 しばらくすると遊び疲れたのか、ナミはへたり込んでしまった。だというのに、一緒に遊んでた子はピンピンしてる。


「もう、やっぱり体力ないね。もっとつけなきゃだよ?」

「そ、それは、チーガル、殿が、鍛えてくれぬから、じゃ……」


 ナミは息も絶え絶えに返す。すると、幼女はしばらく思案顔になる。


「う~ん。まあ、そうなんだろうけどさ、やっぱり危険な目にはあってほしくないな~って」


 話について行けないので、ポワブルに話しかけることにした。


「誰? あれ」

「チーガルさん。この都市のギルド長で、元SSSランクの冒険者っす」


 もっと混乱してきた。このなりでギルド長? しかもSSS? なんなのこの世界幼女強すぎでしょ。


 結局、わからないことが多すぎたから考えることを放棄した。僕は悪くない、と思う。


 しばらくすると落ち着いたのか、ナミは立ち上がった。


「して、チーガル殿。これはどういうことじゃ?」

「ああ、これ? いや~冒険者って馬鹿ばっかりだよ」


 話を聞くと、なんでも大規模な私闘があったらしい。何十人も巻き込み、大勢けが人も出た。このボロ屋は、その副産物ということだ。


「やっぱり外に出れないとストレス溜まるんだねぇ」

「そのことじゃが、参考人を連れてきたのじゃ」


 そう言うと、ナミはこっちを指差した。


 後ろを見るも、それらしい人物はいない。


 え? 僕?

誤字脱字の指摘、感想等お願いします。

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