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絶晩成型(リメイク)  作者: 咫城麻呂
第一章 中立都市ツァオベラー
6/16

1-5 あべんしゃー

 やっほー。千曳だよ。

 やっぱり、異世界人と日本人とだと、身体能力は前者が上なのかな。

 小さいうちから命の危険を感じてるわけだし、そりゃそうだよね。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 我が家を捨ててからかれこれ二時間ぐらい経った。


 僕は今、絶賛空の散歩中だ。


 いやぁ。マジックハンド航空は快適だなぁ。


 高度三十メートルを航行中の当機は、陽の光によって快適な温度設定になっている。


 眺めもいいし、サービスも行き届いている。エコノミークラス症候群も、独特の騒音も、耳が痛くなる心配もない。


 向かい風を警戒して速度は早足並みだけど、もう少し早くしてもいいかな? まあ、急ぐ旅でもないしゆっくり行こう。


 アイツ等には少し会いたいけど、向こうも生きてるならそのうち見つけられるだろうし、今は目の前の冒険を楽しもうじゃないか。


 とはいえ、森を超える頃には夕方だろうね。魔物がうざいからできるだけ距離を取りたいんだけど……。


 ★★★


 そんなことを言っていたら本当に夜になってしまった。


 森からの距離は微妙なところだ。遠からず近からず。うーん。どうしようかな。


 まあいいや。一旦野宿しよう。夕飯を食べてる間に魔物が来るようなら移動するって形で。


 そんなわけで、適当に街道っぽいものからほどよく離れた場所に着陸。ご搭乗、誠にありがとうございました。


 と言うか、道繋がってるんだ、ここ。石畳で結構丈夫そう。アッピアみたい。


 適当に火を起こして、適当にパンを串刺しにして、適当にチーズを乗っける。もう少しまともな料理がしたいものだ。


 あ、火を起こしたのは適当に作った火起こし機のおかげね。日中暇だったから、なんとなく作った。昔を思い出すこともできたし、簡単に火を起こせて重宝してる。まあ、単なる弓錐式だけど。


 そんな感じで適当に腹を満たしたんだけど、やっぱり魔物がめんどくさい。


 と言うか、適当に魔物って呼んでるだけど、あってるのかな。ま、いいや。うざいし。


 目の前で内臓出すの、やめてくれません? 匂いがひどいんですけど。ったく。せっかくの飯がまずくなっちゃうでしょ?


 やっぱり移動したほうがいいかな。最悪機内で寝てもいいんだし。


 そうと決まれば善は急げ。さっさと焚き火を消して、荷物をまとめる。


 SPは……なんとかなるかな? 四時間ぐらいで起きれば問題ないか。


 大きめのマジックハンドを布団替わりに召喚して、覆いかぶさってもらう。バードストライク対策にもなるね。


 じゃ、お休み~。


 ★★★


 おはようございます(小声)。


 現在は多分午前一時半くらいです。雲は少なく、月明かりがとっても綺麗。


 さて今回も寝起きドッキリやっていこうと思います。


 ……思ってたんですが、どうやら先人様がいらっしゃったようです。企画倒れもいいとこ。


 ちなみに、今回の目標は街道から少し外れた場所で野宿していた四人の男女のつもりだった。


 それなのにライバルのテレビ局が先回りしてたみたい。寝起きドッキリってそんなに視聴率稼げたっけ? う~ん。手裏剣投げられてる記憶しかない。


 それにしてもあちらさん、かなり強引だね。噛み付こうとしてるし。


 それに対して、対象の四人はうまく立ち回って避けてる様だ。


 ん? ちょっと待てよ? 普通こういった野宿には哨戒役がいるわけだから、どっちにしろドッキリ失敗してたんじゃない?


 良かった。せっかくの第一~第四村人なのに警戒されて話しかけられませんじゃ話にならないからね。


 あ、別に洒落のつもりじゃ――


 ドガァァン!


 突然、眼下で爆発が起きた。


 橙色の火に照らされて、四人組とライバルのオオカミが一瞬浮かび上がる。


 ちょっと待った! 平均身長低過ぎない!?


 チェストプレートらしき物をつけた青年以外、明らかに身長が低いのだ。


 杖を持った子と、着物を着た子は夜魅と同じくらいだけど、フード被った子はあの馬鹿ほどの身長すらない。見た感じ、十歳の平均に届いているかどうかくらいだから相当だ。


 まあ、距離あるし戦闘中だからなんともいえないんだけどさ。


 にしても、さっきのあれは魔法かな? いきなり爆発したし。


 被爆したのか、それまでに比べてオオカミの動きが鈍くなってる気がする。逆に何で生きてるんだろうね。


 弱ってるとは言え格上なのか、かなり劣勢に見える。まあ、こんな小学生の遠足みたいなパーティがオオカミに勝てたらそれはそれで複雑だけどね。


 さて、そろそろ助けようか。この世界について聞きたいし。


 というわけでマジックハンドを嗾ける。持ち前の怪力を使って一刀両断。鈍だろうと関係ない。


 やっぱり強いね、マジックハンド。ホント便利。


 さて、そろそろ降りますか。


 第一印象が大事だって聞いたことあるから、できるだけフランクな感じで行ってみよう。


「やあやあ。怪我はない?」


 ちょっと馴れ馴れしすぎる気がしないでもないけど気にしない。


「おかげで助かったのじゃ。例を言うぞ」

「ありがとうなのです」

「助かったっす」

報恩謝徳ほうおんしゃとく~?」


 最後の一人だけ何言ってるのかわからなかったけど、『おん』とか聞こえてきたし感謝されてる……のかな?


 改めて見ると、なんとまあ小さいこと。


 最初ののじゃロリとその次の子は、夜魅と同じくらいかちょっと大きいかな? 公仁が見たら確実に倒れるね。平坦だし。


 語尾がバイトしてる高校生みたいな青年は逆に背が高い。公仁くらいかな? 多分百七十センチほど。アイツなら正確な値が出せるんだろうけど、僕はまだその境地に達してないし達したくもない。


 最後の子が一番低く、多分僕と一頭身近く離れてる。マジの小学生じゃない?


「それは良かった。僕は――」


 名乗ろうとして気づいた。苗字をつけていいのだろうか、と。


 異世界って、地球で言うところの中世くらいの時代設定が多いわけだけど、あの頃は苗字って貴族しか持ってないんじゃなかったっけか?


 だとしたら、無闇に語るのも良くないか。


「僕は千曳。よろしくね」

「わらわはナミ。イザンフェール・ナミじゃ。よろしくの」


 あれ? 苗字あるの?


「シュルクなのです」

「ポワブルっす。こいつはセルっす」

「夜露死苦~?」


 あ、やっぱり平民はないんだ。ってことは、このナミって子は貴族様なのか。


 やばい、そろそろ耐えられなくなってきた。


「一つ聞きたいんだけど」

「なんじゃ?」

「その耳は本物?」


 そう言って、ナミって子以外三人の頭上を順番に指差す。


「……そ、そうじゃが……」

「ホント!? マジ!?」

「う、うむ」


 ひゃっっっっほう! ケモ耳だぁぁぁ!


 だって、ケモ耳だよ? 狐と犬と猫だよ!? 夢にまで見たリアル獣耳だよ!!?


 はぁ……生きてて良かった……。


 ありがとう、フレッサ。今だけは感謝しておこう。


「お主、大丈夫かの……?」

「ちょっと無理」


 この興奮は冷めやらない。どうにかして発散しないと爆発しそうだ。


 よし、マジックハンド、僕のほっぺたビンタし――


 ――バシッ!


 いってぇ!


 ふう、これで目が覚めたぜ。すっごい痛かったけど。


「へぇ。結構プレッシャー感じてたんすね」


 理解した!? しかも乗ってきた!? 何者だコイツ。


「姫。どうやらこの人、異世界人っぽいっす。異世界人はケモ耳に過剰反応するってリーダーに言われたことあるっす」

「そういえば言っておったのう。しかし、これは……」


 四人の視線が僕を蜂の巣にする。ごめん、自分を抑えきれなくて、つい。


 と言うか、異世界ってこっちにも浸透してるんだ。まあ、過去に四十二回程召喚されてるみたいだし。


 その割に、特に集団失踪のニュースとか聞いたことないんだけどなぁ。ま、今はそんなことどうでもいいや。


「まあ良い。して、異世界から来たというのは本当なのかの」

「うん。立派な地球人だよ」

「ならよい」

「何が?」


 話によると、このあたりには獣族――シュルク、ポワブル、セルのこと――を毛嫌いする連中がいるらしい。僕はその手先じゃないかと疑われたわけね。


 いきなり耳が本物かどうか聞かれたらそりゃ警戒もするわな。


 安心して。ただ『公仁の所為』で二次元が好きなだけの高校生だから。『公仁の所為』でロリコンなだけだから。


「それにしても興味深いのう。異世界人など、到底お目にかかれぬぞ」

「初めて見たのです」

「自分は一回噂で聞いたっすけどね」

邂逅相遇かいこうそうぐう~?」


 思った以上に好反応。取り敢えず頭おかしい子認定されなくて良かった。


「わかってくれたところで異世界こっちについて色々聞きたいんだけど」

「少し待つのじゃ。お前たち、支度せい」


 彼女の一声で、ほかの三人は荷物の片付けに入った。先の戦闘で散らかっちゃってたりしてそうだしね。


「二度寝しなくていいの?」

「良い。すっかり冴えてしもうたわい」

「小さいうちに寝ておかないと将来に響くよ?」


 まあ、小さいうちから寝てるのに響いた存在が身近にいたんだけども。


 僕の忠告に対する返答は、驚くべきものだった。


「失礼な! これでも十六歳。立派な成人じゃ!」

「え? マジで? タメなの?」


 まさかこの世に夜魅と同じくらい成長が遅い人がいるなんて……。


「む? お主もか? ふむ、とてもそうには見えぬがのう」


 こっちのセリフじゃい!


 こうなると、ほかの三人も怪しいぞ。


 僕は、後片付けに勤しむ三人に年齢を聞いて回った。その結果――


 シュルク:百十二歳

 ポワブル:二十七歳

 セル:十一歳


 百歳越えは異世界あるあるだけど、まさか本当にお目にかかれるとは。


 ポワブルは、うん、普通。これといってコメントなし。


 セルが見た目相応なのが一番気になる。こんな年から命のやり取りをしなきゃいけないなんて、大変だねぇ。まあ、常識だともっと早い、なんてあるかもしれないけど。


 それにしても、ものさしがないと何でもかんでも驚いてしまう。常識を伝授してくれる都合のいい先生いらっしゃらないかな。


「む? それなら、チーガル殿に頼んでみるとするかの」

「え? いいの?」

「うむ。助けてもらった礼じゃ。紹介ぐらいは引き受けるぞ」


 どうしよう。同い年とは思えないほどかっこいい。そして可愛い。ロリコンにはちときついものがある。


 そんなこんなで準備が終わり、出発することにした。時間は、月からして三時くらいかな?


 それにしても、第一異世界人がまともな人で良かった。


「そういえば、パーティ名とかってあるの?」

「あべんしゃー」

「へ?」

「あべんしゃー。我らのチーム名じゃ。兄上がつけたものじゃ。かっこいいじゃろ」


 少しずれてるかもしれないな、と思ってしまった。

誤字脱字の指摘、感想等お願いします。

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