1-3 戦闘!ミミズク
やっほー。千曳だよ。
ミミズクって何であんなに愛嬌あるんだろう。
カレー食べてるところとかホントに可愛い。
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マップを覗くと、何やら赤い点が蠢いている。中心に向かって移動している様だ。
で、その中心にいるのが、僕。
えぇ~。嫌だなあ。怖いなぁ。
取り敢えず、こんな遮蔽物のない場所には居たくない。すぐ見つかっちゃうからね。
木に登るのも考えたけど、マップを見る限り本能的に追いかけてきているらしい。結局徐々に不利だ。
マップを確認して、敵が一番薄い方向に向かう。
が、ものの数分で息が苦しくなってきた。
やっぱりこれくらいが限界か。
やばいな。気づいたやつからこっちに来てる。
「マジックハンド。お前に賭けるからな」
何故かイタリア式の敬礼を返してきた。いや、そこはサムズアップじゃないの?
そうこうしてるうちに、最初の敵が現れた。
それは黒い毛を持ったオオカミだ。本物の一匹狼とは珍しい。
サイズは普通のオオカミと大差ない。なんとかなりそうだ。
だが、なんとかする必要はなかった。
なぜなら、マジックハンドのぶん殴りで吹っ飛ばされてしまったからだ。
やるじゃん。これならなんとかなるかな?
その後もマジックハンドの黄金の右ストレートを耐えきる生物はおらず、たった一体で完封してしまった。
これ、かなり強いんじゃない? やったね。これで正面から猪を狩れるよ。
体力が無くならない程度の速度で移動する。マップを見た限り、北の方に街があるようだ。徒歩四日くらいかな?
周囲の生物はなんとかなりそうだし、少しずつ進んでいこう。
★★★
で、今に至る。
あっちゅうまに日が沈み、あたりは真っ暗になってしまった。
で、僕は今、絶賛絶体絶命状態だ。
いやね、なんか胸をぶっ叩かれたかと思ったらマジックハンドが消えちゃってね。
無理して走っているが、もうすぐそこまでオオカミが来てる。
思い返したところで特に打開策はなかった。仕方ない、しばらく木の上に隠れよう!
体は意外と覚えているもので、危なげなく登ることができた。太い枝に座り、下を覗き込んでみる。
そこには、多種多様な動物がこの木を崇めると言う前代未聞の状況が広がっていた。放射線状に並び、見上げ、讃える。いやぁ、神様になった気分だね。
うそ、ごめん。神様はこんなに吠えられない。
サル、イヌ、オオカミ、ゴリラ、シカ、アリ、クモ、その他もろもろ。この世界の生態系はどうなってんだか。
更に更に! 同士討ちすることもない。狼と羊が並んでこっちを睨んでるのってどう思う? 嵐でもないのに。
それにしても、どうするか。木を渡っていくなんて出来ないし、このままだとそのうち餓死しちゃうし。
――不意に、後ろから葉が揺れる音がした。
そして、背中に何かが刺さる感覚。まさか……!
急いで後ろに手を回すと、それは離れていった様だ。体ごと向き直ると、首を傾げているミミズクがいた。
ほっほっほと笑うように鳴いている。雌の上に威嚇すらされていないって……。
その油断が命取りだ! 返り討ちにしてくれるわ!
僕はミミズクから目を離さないようにしつつ、足元の枝を折る。触った感じそこそこの太さだ。なんとかなるか……?
どう攻めたものかと考えているうちに、ミミズクが飛び蹴りをかましてきやがった。なんだコイツ!? 運動性能が普通のやつの比じゃねぇ!
顔面を狙ったキックを辛うじて避ける。お返しに枝で突こうとしたけど、簡単によけられた。
おっとっと、危ない。落ちる、落ちる!
て、ちょい待って、押すな、押すな! だから、待て! 振りじゃないよ、これ!
ミミズクの芸人魂によって突き落とされてしまった。ギリギリで太い枝に捕まるも、その手の上にミミズクがのしかかる。
あ、あの。爪立てるの、やめてくれない? あ、ダメ? ですよね~。
あ、もうダメっぽい。今ほど筋肉がないことを恨んだことはない。
手を離すと、ミミズクも一緒に落ちてきた。コイツ、可愛い……じゃなくて。
おかげで碌に受身も取れなかったよ。狙ってやったんなら賢すぎるね。
じいちゃんなら確実に骨折しているほどの衝撃を受けながら、なんとか体勢を立て直す。
既に周りを取り囲まれていて、八方塞がりもいいところ。頭上――と言うか頭はミミズクが占拠してるし、本当に逃げ場がない。
最初はやってやろうかとも思ったんだけど、どうせ多勢に無勢。やるだけ無駄だ。じゃあ逃げるしかないんだけど、この包囲網を突破できるはずがない。
残念! 僕の旅はここで終わってしまう!
てか、なんでこんな状態になったんだっけ? あ、そうだ。マジックハンドが消えたからだ。なんで消えたんだろ。
最初はSP切れかと思ったんだけど、見たところ変化はない。
あ、そういえば回復早いんだっけ? ってことは、切れて消えてすぐ回復した……?
一縷の望みを頼りに、祈る!
すると、人目につく真っ白な右手が現れた。
すぐさま飛び出し、白金の右ストレートをお見舞いする。
小気味いい音が響いて、そのままオオカミは動かなくなった。
助かったぁ! あと少しで死ぬところだったよ。
白手の王子様のおかげで無事にピンチを脱出したので、またまた歩くことにした。
マップを眺めていると、ふと茶色いなにかがあることに気がついた。
寄ってみると、どうやらログハウスの様だ。
丸太と板で作られた外見は、かなり完成度が高い。窓ガラスが貼られているログハウスって今時珍しくない?
マップを見た限り中に人はいなさそう。ドアも空いてるし、お邪魔しまーす。
見たところ、大きな部屋が一つと、奥に小さな物置があるようだ。赤い絨毯も敷かれていて、日本人にはちょっときつい。って、僕上靴じゃん。すっかり忘れてた。
魔物はマジックハンドに任せて、少し物色するか。
★★★
物資一覧。
・数日分の食事。主にパンとチーズ、干し肉も少々。
・灰色のシャツとコート。
・カーキ色のカーゴパンツ。
・底の厚い、丈夫そうな靴。
・各種取り揃えられた武器。赤い塗装付き。
・寝具一式。
・色んな本。何故か全部日本語。
・etc。
こんな感じかな?
調べて分かったんだけど、どうやら盗賊の隠れ家的な場所らしい。それっぽい旗が見つかった。
多分、武器の装飾も血だ。手入れがされていないせいで、鈍同然。埃も溜まってたし、頻繁に使っている訳ではなさそう。
水道もあるし、近くに川が流れているから風呂にだって入れる。魔物に目を瞑れば、これ以上快適な場所はそうない。
戦力の確認等の為に、しばらく引きこもらせてもらおう。今日からここは我が家だ!
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