時代の激動
ジョウガの魔女教会に続き、アサダとアボットでも騎士団は力が及ばずにいた。
結局のところフンボルト軍が介入し、魔物を退治したのだ。
昨日のアボットとアサダの被害者は数千人を越えていた。
フンボルト軍がいなければさらに被害が拡大していたことが想定される。
もはや国営騎士団の信頼はがた落ちであり、国民はおろか、王家や議員たちもフンボルト軍無しでは国防が難しいと考えていた。
魔女研究所でジョウガやアボット、アサダに出現した魔物の死骸を調査したところ、魔女粒子が多く発見された。これは魔女によってこれらの魔物が産み出されたのではないかと思わせる結果であった。
近年の魔物には魔女粒子は皆無であり、騎士団でも対抗ができてはいたが、今回の魔物たちは魔女粒子が多いせいか魔法も物理攻撃も効かないのだ。
対抗するにはフンボルト軍ほどの魔力が必要であり、魔力が低い国営騎士団では歯が立たない。
ゲッカ国王は不本意ながらもピレネー元国王の助言通りフンボルト軍と軍事連携を行うことにした。国会でも反対派はいたものの、結局ゲッカ国王が折れたため、決議としてはフンボルト軍の介入を許す結果となったのだ。
指揮権はあくまでも国営騎士団にはあるものの、もはやフンボルトに握られていると言われても過言ではなかった。
アマミ
「あーあ………ついにフンボルト軍が駐在することになっちゃったよ」
「これから騎士団もどうなっちゃうのかな」
アマミはコーヒーをすすりながら、新聞の見出しを読んでいる。
リリィ
「………この数値は異常だわ………」
アマミ
「どうしたー?」
リリィは昨日のアボットの現場から搾取した魔法粒子の計測結界を見ていた。
アマミ
「おお………魔女粒子40%………高過ぎ」
リリィ
「これだけの魔力ならば村の結界が破壊されても不思議でもなんでもないわね………」
リリィたち魔女研究所は今回のアボットとアサダの結界が崩壊した原因を調査していた。
今回出現した魔物の遺体から魔女粒子が発見されたのだ。魔女粒子は魔法粒子の10倍以上魔力が高く、結界を簡単に破壊することができる。
元々魔女粒子は魔女から発見されたものだ………魔物から採取したのは今回が初めてだった。
リリィ
「………これは異常」
「魔物が魔女粒子を持ってるなんて………」
アマミ
「騎士団が敵わないわけだ………」
「ということはフンボルト軍は魔女粒子並の魔力を持ってるってことなのかな?」
リリィ
「………そうかもしれない」
アマミ
「彼らの血中には魔法粒子が50%を超えていると話には聞いていたけど」
「それだけじゃこの魔物は倒せないよね………」
「彼らの魔法粒子ってここで測定したことある?」
リリィ
「無いわ………フンボルト軍については機密のため測定はおろか、調査すらできないのよ」
アマミ
「機密ねえ………」
一方騎士団でも今回の事件について調査を行っていた。
何故結界が2ヵ所ほぼ同時刻に崩壊したのか。
それは偶然かまたは恣意的なものだったのか調査を行っている。
コッホ率いるアポロ騎士団はアサダの結界を調査していた。
アサダの結界はそこそこ魔力の高いものであったが、一瞬にして打ち破られた形跡が残っている。このことから魔物が相当な魔力を保持していたことがわかる………。
コッホ
「………結界は一瞬で崩壊したのか」
「これ以上強い結界は貼れるのか?」
コッホたちの調査では結界はすぐ破壊され、それも一ヶ所ではなく数ヵ所も打ち破られていた。今の結界では魔物が簡単に破いてしまうため、早急に強力な結界が必要であることを指摘した。
ツクヨミ国の結界は結界師によって展開されている。結界師は魔法使いより魔力が高いことが前提であり、国の掲げる魔力最高基準に達した者だけが成れるエリート職なのだ。しかし、国の中で魔力の上位を占める結界師でさえも今回魔物の侵入を防ぐことができなかった。
オードリー
(………悪夢だ)
オードリーは頭を抱えながら今回の事件の対策についてあれこれ考えていた。
オードリー
「結界師の結界ではどんなに二重三重に重ねたとしても破られてしまう………」
リリィ
「もはや結界師では難しいと思われます」
オードリー
「他に手段は無いのか?」
「これでは我が国が滅びる………」
リリィ
「………一つ案があります」
オードリー
「お………なんだ?何かあるのか!?」
リリィ
「………魔法障壁装置」
オードリー
「魔法障壁装置………それって確か………」
リリィは立ち上がり、部屋の奥からでかい機材を持ち出してきた。
オードリー
「ペルー村の………機械」
リリィ
「そうです………」
「この機械ならば魔法障壁の度合いを改造してかなり強力な結界をつくることができます」
オードリー
「しかし…魔法障壁装置はペルー村で不具合を起こして結界が崩れた欠損品だろ?」
リリィ
「確かにこれはペルー村で不具合を起こしました」
「結果ペルー村に魔物が侵入し、村が悲惨な目に遭ったことは事実です」
「しかしこの装置は結界師より強い結界を貼ることができます」
「我々がもう一度見直して再度リリースすれば役に立つかもしれません」
オードリー
「………」
「しかし、その装置は元々民間人が造った代物だろ?」
「本当に効果があるのか?」
「そして我々でも造れるのか?」
リリィ
「効果は検証済みです」
「そもそもペルー村で不具合が起きたのは出力部分にメンテナンスが行き届いていなかったことがあげられます」
「そしてこの装置ですが、恐らく資料はこの研究所に残っております」
「元々魔法障壁装置のプロトタイプはここで造られたので」
オードリー
「ここで造られた………?」
リリィ
「そうです………」
「元々魔法障壁装置はこの魔女研究所の元所長ガゼル・ブロンドが造ったのですから」
オードリー
「ガゼル・ブロンド………?」
「ああ……思い出したペルー村にいたものだな」
「そうか………彼は王宮から出てペルー村に住んでいた」
「だから彼はこんなハイテクなものを開発できたのか」
リリィ
「ガゼル・ブロンドは元ここの研究長を務めておりました」
「彼はここで魔法障壁を研究しており、今でもその時の資料は残っております」
「一度は魔法障壁装置を国全体で導入する予定だったのですが、予算や結界師の保護のため一度頓挫をしております」
「また当時では魔女や魔物の被害が少なくなっていたため魔法障壁の必要性が薄れており、また魔女研究が流行っていたこともあり、ガゼル・ブロンドの研究は滞っておりました」
「そして次第に魔法障壁装置の開発は無くなり、彼自身もこの研究所から去ることになってしまったのです」
オードリー
「………そうだったのか……知らなかった」
リリィ
「開発するための資料は残っているため量産することも可能だと思われます……」
「魔法障壁装置は元々王宮に設置するはずのものでしたので、かなり魔法防御力は高いです……私は結界師の代わりにこの装置を導入した方がよろしいかと思います」
オードリー
「……なるほど」
「リリィさん………早急にこの装置を一台開発をお願いしたい」
「この装置で実際に防げることを証明すれば、フンボルト軍の介入を少しでも防げるかもしれない」
リリィ
「………承知しました」
アマミ
「これ本当につくれるのかね………」
「せめて開発者が生きていてくれればな」
リリィ
「もうやるしかないでしょう………」
「後はペルー村へ行ってこの装置の設計資料があるか探しに行かないと………」
魔物が凶暴化し、世の中が乱れる中、
リリィたちはガゼルが残した魔法障壁装置を創ることを決意する………。




