約束された惨状2
アサダ市の結界が崩れ、魔物が市内に侵入。
騎士団が向かうものの、苦戦を強いられる。
ミドラス
「今の騎士団では対応ができない」
「フンボルトの軍隊を呼ぶべきではないでしょうか?」
ゲッカ
「………」
王宮ではミドラスがゲッカ国王に直々にフンボルト軍介入の許可を申し入れていた。
ゲッカ
「待て………議員どもにはまだ提唱するな」
ミドラス
「しかしこのままでは民を皆殺しにすることになりますぞ………」
「民を見捨てるおつもりですか!?」
ゲッカ
「く………」
ピレネー
「フンボルト軍の介入を許可する」
ゲッカ
「!?」
ゲッカたちの前にピレネーが姿を現す。
ゲッカ
「父上!?正気ですか!?」
ピレネー
「ゲッカ………我が軍隊では魔物を排除できないことは以前わかったはずだ」
ゲッカ
「しかし………」
ピレネー
「ミドラスの言うように民を見殺しにするつもりか?ゲッカよ………」
ゲッカ
「………」
ピレネー
「ミドラス」
ミドラス
「ははッ………それでは議員どもに提唱を………」
ピレネー
「それも必要はない」
ミドラス
「と言いますと………?」
ピレネー
「緊急を要するのだ………特例でフンボルトの介入を許可する」
ゲッカ
「何をおっしゃいますか!?それでは法も秩序もありません!!」
ピレネー
「そもそも我々国王がいながら国会など持つべき必要は無いのだ………」
ゲッカ
「それはこの国の法を破ることになる………この国を否定することになりますぞ!?」
「そんなことをしてはまた200年前の独裁に陥ります!」
ピレネー
「ゲッカよ………今の仕組みでは今回のような緊急時には即対応ができないであろう」
ゲッカ
「話をそらさないで頂きたい」
ピレネー
「そらしてなどおらぬ………よく聞けゲッカ………」
「今の世では緊急を要する………意思決定が遅ければ遅いほど我が国は滅んで行く………」
「戦争が終わり平和となった世界だからこそ国会と王宮と意思決定機関が二つある」
「平和な世には客観的な判断を要するがゆえに我が祖先たちの覇権ではなく、指導者と議員を交えて国を動かしているのだ」
「しかし今はどうだ?魔物が年々凶悪になり、魔女がいつどこで現れるのかわからない」
「こんな災いだらけの世の中で国会は必要か?」
「今こそ我々の覇権が必要では無いのか?」
ゲッカ
「それは暴論です………それに国民が黙ってはいません」
ピレネー
「その国民を殺そうとしているのはお前だ」
ゲッカ
「………ッ!?」
ピレネー
「ミドラス!!フンボルトへ通達!!」
ゲッカ
「閣下!!」
ミドラス
「承知しました………フンボルトの介入を申請いたします」
王宮や国会が混乱している中、クエリはアサダに到着していた。
クエリがアサダ市にたどり着いた頃には多くの死体が転がっていた。
クエリ
(ひどい………)
クエリは生存者を探し回る………。
奥へ奥へと進めば進むほど市民と騎士団員の死骸があった………。
クエリ
「誰か!!誰か生きてますか!!」
クエリたち騎士団は必死に生存者を探す………。
しかし誰も見当たらない………。
「助けて下さい!!」
クエリ
「!?」
後方から助けを呼ぶ声が聞こえてくる。
クエリらは急いで走り出す………!
グオオオオオ!
クエリの目の前には負傷した男性一人と女性二人が魔物に襲われていた………!
魔物は二体おり、ハトのような魔物とカニのような魔物がいた。
クエリは両手から炎の魔法を生成し、魔物へぶつける!
魔物はびくともせず、真っ直ぐクエリに向かってくる………!
カニの魔物はハサミでクエリを挟もうとするが、クエリは瞬時のところで回避する!
クエリ
「炎がダメなら………!」
クエリは片手で生成した氷の魔法をカニの魔物にぶつける!
しかし、魔物にダメージは無いようだ………。
クエリ
(魔法が全く効かない………!?)
クエリの後ろから騎士団三名が剣で斬りかかる!
しかし、三人ともカニの魔物のハサミで真っ二つにされてしまう!
クエリ
「ああ……皆!?」
「よくも!!」
クエリは両手で渾身に込めた雷の魔法をカニの魔物に放つ!
だが、カニの魔物は雷の魔法を片手で弾き返してしまう!
クエリ
「そんな………」
ザシュ!!
クエリの背中にハトの魔物の足の爪が突き刺さる!
クエリ
「痛ッ………!!ああ!?」
ハトの魔物はくちばしでクエリの背中をつつき、クエリは血まみれになって倒れてしまう。
市民
「ひッ………騎士団が………」
残った騎士団員たちも皆カニの魔物に首を跳ねられ、捕食されてしまう………。
ハトの魔物
「この女………相当な魔力の持ち主だ………」
「肉も柔らかいし………うまそうだ」
ハトの魔物は大きく口を開けて倒れたクエリを捕食しようとする………!
ドガガガガ!!!
突然ハトの魔物の背中に数本のナイフが突き刺さる!
ハトの魔物
「がはあッ………!?」
ハトの魔物は口から血を吐き、後ろを振り向く。
振り向いた瞬間、ハトの魔物の首が跳ねた!!
カニの魔物
「何!?」
ハトの魔物の首から血が吹き出し、体が倒れると、その後ろには帽子とサングラスをかけた男が立っていた。
サングラスの男は右手にロングソード、左手にはショットガンを装備していた。
男はロングソードでカニの魔物に斬りかかり、魔物の片手を切り落とす!
カニの魔物は残った片手で男を挟もうとしたが、近距離でショットガンを喰らい、体が横転してしまう。
男は倒れたカニの魔物の上に足を踏み入れ、ショットガンを魔物の頭にかざす。
ドオオン………
カニの頭は弾け飛び、魔物は絶命した。
クエリ
(………すごい)
クエリは倒れている中、その男の戦いぶりを一部始終見ていた。
サングラスをかけた男はまだ息のある騎士団たちに注射を打ち込んでいく。
そしてクエリにも注射を打ち込もうとする。
クエリ
「その………注射は………何ですか?」
サングラスの男
「安心しろ………万能薬だ」
男はクエリに注射を打ち込み、続いて倒した魔物の死骸の一部を摂取した。
そらから男はポケットから水筒のようなものを取りだし、魔物の死骸へ突き刺す。
ピロロロロ!
数秒後、水筒のようなものから音が鳴り響いた。
男は水筒のようなものを魔物の死骸から取りだし、じろじろ見つめていた。
「魔女粒子………」
男はボソッと言葉を漏らす………。
そしてそのままその場を去ろうとしていた。
クエリ
「ま………待ってください!」
「あなたは………もしかしてフンボルトの軍人ですか?」
男は振り返り、クエリに言葉を返す。
「フンボルト?知らんな………」
男はそのままクエリたちを置き去りにしてその場を去っていった。
クエリ
(………何者?)
(でも………どこかであったことがあるような………)
ザザザザ!!
クエリの後ろから赤い軍団が押し寄せてくる。
クエリ
(この赤い集団………間違いないフンボルト軍)
この後、フンボルト軍はアサダにいた魔物を蹴散らし、生存者の救出に向かった。
魔物
「はッ………はッ………」
アサダから外へ逃げ込む魔物が一匹いた………。
この魔物はフンボルト軍から逃げ切ったのだ。
魔物
「何なんだ………あの赤い人間ども………」
「人間とは思えぬ………」
魔物は走りに走り、できるだけ遠くに逃げようと必死に走っていた。
魔物
「人間どもの結界が壊れたから人肉が喰えるかと期待していたが………冗談じゃない…あいつらは危険すぎる………」
魔物が逃げている中、目の前にフードを被った男が立っていた。
魔物
(なんだ………人間?)
フードを被った男は魔物に近づき、魔物に訪ねる。
フードを被った男
「あのお………すいませんー」
魔物
「なんだ……てめえは!?」
魔物は足を止めて男を警戒する………。
フードを被った男はがに股で歩いており、首や手が変にねじ曲がっており、異様な姿をしていた。
フードを被った男
「トランヴェルって聞いたことあります?」
魔物
「はあ?」
フードを被った男
「何でもいいんです………人の名前でも動物の名前でも」
「生き物じゃなくても物とか地名とか何でもいいんでトランヴェルという単語を聞いたことありますか?」
魔物
「………ねえよ」
フードを被った男
「そ………そうです………かあ」
魔物
「何なんだお前………人間か?」
フードを被った男
「あ………あー………あら………言葉がついに出しずらくなって………きたね」
「そろそろ………かえ………どきかな」
「足も………ガタガタで………歩き………にく……い……し」
魔物
(こいつ……様子がおかしい……)
フードを被った男
「君……骨太で………がっちり………してるね」
「ちょうど………いいや………その………からだ」
「頂戴」
フードを被った男がいきなりにんまりと口を横に開く!
魔物は嫌な予感がしたのか、瞬時にその場から離れ、逃げて行った。
しかし、後ろから黒い物体が魔物を追いかけ、ついにはその物体に取り込まれてしまった!
魔物
「なんだこいつは!!やめろ!?離れろ!?」
魔物の抵抗もむなしく、黒い物体に取り込まれる………。
モゾモゾ………
魔物が黒い物体から姿を現す………。
魔物
「おお………やっぱ新しい体はいいね!」
「五体満足五体満足!便利だな」
「トランヴェル………どこにいるんだろう」
「早くお前を………見つけなきゃ」




