表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/374

不吉な月

フンボルトの軍隊が魔女教会を占拠してから2日が経った。

王宮では険しい顔をした王家共々がオードリーと軍事総指令部のヤクトを呼び出していた。

オードリーとヤクトは王家からの重圧な態度に怯えていた。

ここにいる王家は5代目国王ゲッカ。そしてゲッカの弟にあたるライト殿下がいた。


ゲッカ

「あの無様さはなんだ………尻尾を巻いて逃げおって」

「貴様らは何のために存在する?フンボルトの軍隊などに越されおって」


ゲッカ国王は昨日の魔女教会の戦闘で、自国の騎士団が魔物に敵わず、フンボルトの軍隊に助けられたことに憤怒していた。


オードリー

「申し訳ございまん………」


オードリーとヤクトはひざまずきながら頭を下げる。


ゲッカ

「このままでは我が国の威厳が無くなる………それはわかっているな?」


オードリー

「はい………十分承知しております」


国の軍事力が下がり、他国の軍事力を借りれば借りるほどツクヨミ王国の立場は弱くなる。立場が弱くなることで外交の交渉にも不利になり、国として優位に立てなくなる可能性がある。ゲッカはそこを懸念しており、まさかフンボルトなどという弱小国に対して軍事を任せるなど言語道断であったのだ。


ゲッカ

「………死活問題になる前に騎士団を強化せねばならない」

「根底から作り直せ………フンボルトの技術も盗み、我が騎士団の改変を行うのだ」


ヤクト

「………」


ゲッカ

「どうしたヤクト?わかっておるな………?」


ヤクト

「はいッ………承知しております………」


ヤクトはこの時、不安を抱いていた。

彼は騎士団及び魔女狩隊の統括であり、もちろんゲッカ国王の言うことも十分理解していた………。

しかし、とてもじゃないが自国の騎士団がフンボルトの軍隊のレベルまであげることはできないと思っていた。国会で見たフンボルトの戦力は騎士団を遥かに上回るものだ。フンボルトの軍人は数も多ければ、一人一人の魔力が非常に高いことが見受けられる。騎士団を根底から見直すとしてもあまりにもフンボルトのものとかけ離れておりどうしたらよいかわからないでいたのだ。それを考えるのがヤクトの仕事ではあるが、あまりにも難しい課題のため彼はゲッカ国王の問いかに対して自信のない返答をしてしまった。ゲッカ国王は懸念を示し、ヤクトとオードリーに威圧的な態度で事の重大さを語る………。オードリーは緊迫した空気に耐えられず目眩を起こし、話が終わるまで吐き気が止まらずにいた。


ライト

「………しかしミドラスとガラウは我々の正当な許可無く事を進めおって………奴等が死刑にならないのが不思議でならない」


オードリー

「!?」

「今回のフンボルト軍の介入はゲッカ国王の許可なく行ったということですか!?」


ゲッカ

「その通りだ………しかし今回のフンボルトの軍隊の介入は我が父が了承しているのだ………」


オードリー

「ピレネー閣下が………」


ライト

「何故父上はフンボルトなんぞに………」


フンボルト国はツクヨミ国と平和条約を結んではいるものの、かつてツクヨミ国が3分裂して戦争をしていた頃、敵対していたのだ。

かつてのツクヨミ国は「ツクヨミ」、「アルプス」、「ルナシー」と3ヵ国であったが、フンボルトはルナシーと戦線協定を結んでおり、ツクヨミ一家の「ツクヨミ」と敵対国であったのだ。後に「ツクヨミ」が勝利し、再び3ヵ国が一つに統一された。よってゲッカやライトにとってフンボルトは敵であり、軍事も経済も魔法文化もフンボルトに先を越されたくないと考えているのだ。

しかし、今回最もフンボルトを嫌っていたはずのピレネー元国王(第4代目ツクヨミ国王)がフンボルト軍の介入を許可したのだ。

ピレネーの息子であるゲッカやライトは幼い頃からピレネーからフンボルトがいかに醜悪な存在か言い聞かされてきた。ゲッカたちはピレネーがフンボルトの力を借りるなどあるはずがないと思っているのだ。


ライト

「国王………父から話は聞いたのですか?」

「どうしてフンボルトを介入させたのか」


ゲッカ

「一度父上にはお伺いしたのだが………」

「父上はこうおっしゃったんだ………」


ゲッカはピレネーの言葉を思い返し、ライトたちへ話す。


ピレネー

「今後はフンボルトの力を借りることになる………それは我々だけでなく世界各国がそうなるのだ………」

「私とてフンボルトに力を借りたくはない………しかし」


「フンボルトの力無しには今後生き残れないのだ」


ライト

「それは………どういう意味なのですか?」


ゲッカ

「わからん………私も父上に尋ねたがそれ以上何一つ解答を頂けなかった」


ライト

「………」


オードリー

(………何かがおかしい)

(ピレネー閣下が自分の矜持を抑えてまでしてフンボルトの力を借りるわけがない………絶対何か裏があるはず)

(そもそも何故あんな小国があれほどの軍事力を所有しているのか不思議でならない………)


フンボルト国は面積としては30万km2、人口は6000万ほどである。ツクヨミ国に比べ約10分の1の大きさだ。つい数年前までは魔法文化も浸透しておらず、ほとんど銃器や剣をメインの武器として軍を所有していた。ここ数年で魔法文化が発達し、さらに魔法を使える人間が増加していたのだ。


オードリー

(問題は今後どうするかだ………我々の軍隊も魔法を使える者を増やさなければならない)

(仕方ない………明日も魔女研究に行くしかないな………今日も家に帰られそうにない)


(アイナ、ソフラ……すまない。暫くは会えそうにない)


オードリーとヤクトは王宮を出て、早急に軍事の編成を見直すことにした………。

一方イトは家に帰宅し、昨日あった魔女教会の件についてトランヴェルたちに伝えていた。


カリア

「つまり魔女教会はそのフンボルトの軍隊に殲滅されたってこと?」


イト

「そうだ………あんなに魔女狩隊は苦戦していたのにな」


ララ

「魔女狩隊はどうなったの?」


イト

「何とか命をとりとめた」


カリア

「そう………」

「やっぱ倒さなかったんだ」


イト

「当たり前だ」

「俺は魔女になったが、元々は魔女狩隊の一員だ」

「お前らにとっては敵かもしれんが、俺にとっては大切な仲間だ」

「だから回復魔法を少しかけておいたのさ」


ララ

「回復魔法をかけたんですね」


イト

「ああ………あいつら本当に死ぬかもしれなかったんだ」

「それほど魔物に苦戦していた………」


トランヴェル

(しかしその苦戦していた魔物をフンボルトとかいう軍隊が簡単に倒したってことだろ?)


イト

「トランヴェル………いたのか」


トランヴェルは精神状態となり、イトたちの会話を聞いていた。


トランヴェル

(………つまり魔女狩隊以上に厄介な連中が国にいるというわけか)


イト

「………そうとも言えるな」


ララ

「ああ……そうか……今度はそのフンボルト軍が私たちを追ってくるってことだよね」


トランヴェル

(魔女狩隊以上に厄介ならば、要注意だな)


ララ

「そうですよね……ツクヨミ国の軍より危ないから尚更ですね」


イト

「まさかフンボルトの軍隊が我が国を支援するとは……」

「正直嫌な予感しかない」


カリア

「フンボルトって確か東にある国のことだよね?」


イト

「フンボルトはフンボルト海にある唯一の島国だ」

「かつてはツクヨミと戦争をしていた国」

「今では協定を結んでいるがな」


トランヴェル

(フンボルトって軍事力が強い国なのか?)


イト

「いや………数年前までは大した戦力が無かったイメージだ………銃とか使ってたぐらいだし」

「ここ数年でいきなり力を付けてきたんだ………魔法文化も発達してなかったのにいつの間にあんな魔法を使える人材が多くなったのか………」


トランヴェル

(何か革命でも起きたのか………?)


イト

「わからない………本当にフンボルトには魔法のイメージが無いんだ」

「何か変化する出来事があったわけでも無いのに」


トランヴェル

(ふむ………)


カリア

「何にせよヤバいってことでしょ?」


イト

「確かにそうだが………簡単に言うな」


ララ

「これからどうしたらいいんだろう………」


イト

「確かにフンボルトの存在は想定外だが………」

「これはチャンスかもしれない」


トランヴェル

(チャンス………?)


イト

「さっきも言ったがフンボルトは元々ツクヨミと仲が悪いんだ」

「どういう経緯でフンボルトの軍隊がここに来たのかわからないが………」

「恐らく王宮側はいい顔をしないだろうな」


トランヴェル

(つまり………王宮はフンボルトに軍事を任せたくないってことか?)


イト

「その通り」

「きっと魔女狩隊と騎士団に力を入れていくはずだ」

「もしかしたら徴兵するかもな」


トランヴェル

(つまり………騎士団に志願するのか!?)


イト

「お前が以前言っていたことだ」

「騎士団に入れたら魔女研究所に行けるかもしれないぞ?」


トランヴェル

(よし………わかった!)

(イトとサラを騎士団に入団させよう!)


カリア

「本気で言ってる!?」


トランヴェル

(本気さ)


ララ

「イトさんはいいとしてサラちゃんも行かせるの!?」

「言葉が話せないんだよ!?」


トランヴェル

(ああ。そこで思ったんだが………サラに言葉を教えたらどう?)

(やはり言葉を話せないのはまずいと思うんだ)


ララ

「確かにそうだけど………」


カリア

「前にさ………住所とか不明だから簡単に入団できないって言ってなかった?」


イト

「そこなんだが………もしかしたら何とかなるかもしれない」

「今回の件でサカに貸しをつけたからな」


ララ

「本当に騎士団に入団希望を出すんですね………」


トランヴェル

(他に何かやれることある?)


ララ

「特に無い………かな」


カリア

「そもそも入団してどうするの?」


トランヴェル

(魔女研究所や国会………できれば王宮に行ってみたいんだ)

(もしかしたらそこにマベルの言う何かがあるのかもしれない)


イト

「まずは国の中枢に行かなければ事は始まらない………ここに居ても仕方ないしな」


ララ

「そうですね………うんわかりました!」

「まずは明日からサラちゃんに言葉を教えます」


サラ

「くぅん?」


トランヴェル

(よろしく頼む)


カリア

「不安だらけだけど………取り敢えずはその方向で頑張ればいいのかな………」


イト

「ダメだったら次考えればいいさ」

「俺はもう一度サカに接触してみる」


トランヴェルたちは国の中枢に行くためにそれぞれ行動を起こすことを決意した。


日が沈み月が登って行く………。

その月は赤く赤く輝いていた………。

その月はまるで不吉を暗示しているように見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツイッター:@hukurai_eichi
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ