居酒屋2
女剣士はサカに魔女教会で起きたことを一から説明し、自分が何故魔女になったのか説明した。
しかし、あまりにも不可解な内容であるためサカは一度の説明で理解しきれなかった。
サカ
「つまりお前は一度魔物に殺されたということか?」
イト
「殺された訳ではない………何とか生きている状態で、トランヴェルというフクロウに魔女にされたんだ」
サカ
「………いくつか突っ込みたいことはあるが」
「まずは何故そのフクロウはお前を魔女にした?」
イト
「魔女教会と戦える戦力が欲しかったからだ」
「騎士団は全滅………そしてフクロウの魔女も魔女教会の魔物に苦戦をしていた」
「だから瀕死であった私を魔女にし、魔物と戦わせたかっったのだ」
サカ
「そのフクロウも不可解な存在だが………何故魔女は魔女教会と戦っている?」
「魔女教会は魔女を匿っていたのではないのか?」
イト
「魔女教会の信者たちは最初ペルー村から逃げてきた魔女を匿っていたが、奴等の幹部がそれを拒んだのさ」
サカ
「どういう意味だ?」
イト
「そもそも魔女教会は本物の魔女を信仰していないんだ」
「奴等は信者から金を巻き上げる単なるオカルト集団なんだ」
「本物の魔女が現れて奴等の幹部は困ったに違いない」
「いつもは偽りの魔女を信者たちに信仰させていたのに本物が出て来てしまったからな」
サカ
「つまり魔女教会は本気で魔女を匿ったわけではないと」
イト
「そうだ」
サカ
「しかし何故あいつらは魔女の遺体を差し出せたんだ?」
イト
「遺体………?」
「ああそういえば魔女の遺体を研究所に転送してたな」
サカ
「結果はペルー村の魔女の遺体であることはわかったが、奴等は魔女たちを殺したのか?」
イト
「………いや」
「奴等は殺してはいない」
「どんな方法を使ったのかわからんが、奴等は偽の遺体を渡したんだ」
サカ
「研究所の結果では本物と出ているぞ?」
イト
「たしかに遺体は本物と同じ魔法粒子、遺伝情報を保持していたに違いない」
「魔女の力を借りずどうやって作り出したのか俺にもわからない」
サカ
「そもそも何故殺していないとわかる?ペルー村の魔女は生きているということか?」
イト
「そう………あいつらは生きている」
「サカ………ここからが重要な話があんだが」
一度店から出よう。
ここから先は誰にも聞かれてほしくない。
サカ
「………どこに行くつもりだ?」
イト
「俺の家だ」
午後20時ごろ。
イトとサカは馬車に乗り、アポロ市街から出て山の方へと向かう。
山の近くにこじんまりとした家があり、そこがイトの住まうところである。
イト
「お前ここに来たことあったよな?」
サカ
「ああ……確か2回ぐらい来ている」
イトは玄関を開け、部屋の中へと入っていく。
イトたちはリビングにある椅子に腰を掛ける。
イト
「さて………ここからの話をよく聞いてほしい」
サカ
「ああ」
イト
「実はな………今ペルー村の魔女は俺と共に行動をしている」
サカ
「!?」
「なんだと!?」
イト
「ここからが重要なのだが………ペルー村の魔女は元々人間だ」
サカ
「人間………」
イト
「そう人間………あいつらも俺と同じでフクロウに魔女にされたんだ」
「ララは魔物からペルー村を守るために魔女となり、カリアは騎士団からララを助けるために魔女となった」
「二人ともペルー村の住民であり、村を救うために魔女となったんだ」
サカ
「………そんな話信じるとでも?」
イト
「信じられないのは仕方がない」
「俺もお前の立場なら信じないからな」
「しかし、俺は事実を言ったまでだ」
サカ
「………じゃあペルー村の魔女はここにいるのか?」
イト
「いるぞ」
「呼ぼうか?」
サカ
「な………」
サカはまさかここにペルー村の魔女がいるとは思えず、言葉を失ってしまう。
イト
「おーいララ!」
ララ
「はい!」
奥の部屋から女性の声が聞こえてくる。
イト
「こっちに来てくれるか?」
奥からララがリビングに姿を現す。
ララ
「こ………こんばんわ」
サカ
「バカな………」
(間違いない………ペルー村の魔女だ)
イト
「紹介する」
「こいつは俺と同じく魔女狩隊の一員サカだ」
「それからこの子がララ」
「元々はペルー村の人間だ」
サカ
「………」
ララ
「………」
しばらく沈黙が続いた。
イト
「サカ………この子は罪の無い人間だ」
「すべてはマベルという魔女と出会ってしまったがために彼女たちは戦いに巻き込まれた」
サカ
「魔女?また違う魔女なのか?」
イト
「そうだ」
「奴の名はマベル」
サカ
「まさかそのマベルが元凶なのか!?」
イト
「そう言っても過言ではないが………まあまずはどうしてララたちが魔女になったのか説明しよう」
「事の発端はカリアとカリアの父ガゼルが魔物に襲われ、そして魔女マベルに出会うことから始まる」
サカ
「カリア………ペルー村のもう一人の魔女か」
イト
「そうそう」
「今は留守だが、カリアも俺たちと共に行動している」
サカ
「……」
イト
「話を続けると……魔物に襲われたカリアを助けるべくガゼルは魔女マベルに助けを乞うんだ」
「その時マベルはカリアを助けるためにガゼルに村の結界を解くように言ったんだ」
サカ
「村の結界!?まさか………」
イト
「そうペルー村の結界だよ」
「ガゼルは魔女の言うとおりカリアを助けるべくペルー村の結界を解いたのさ」
サカ
「結界を………解いた!?」
「魔法障壁装置の故障ではないのか………」
イト
「違う」
「真相はガゼルが自分で魔法障壁装置を解除したんだ」
サカ
「そんな……ガゼルが村を皆殺しにしたというのか……」
イト
「そうガゼルは娘を救うために魔女の言うとおり結界を解いた」
サカ
「何てことだ……」
ペルー村の事件はすべてララとカリアが仕組んだものとして解釈されていた。
サカはガゼルが結界を解いたという事実を聞いてショックを受けていた。
イト
「そして村の結界が解かれたことに気づいた魔物たちが村を襲う」
「ララもその時の被害者の一人だ」
ララ
「………」
ララはペルー村のことを思いだし、辛くていたたまれない気持ちになっていた。
イト
「ララが魔物に襲われて死にかけていた時、トランヴェルというフクロウが現れた」
サカ
「そいつが魔女にしたってことか」
イト
「そうだ」
「ララは魔女となり魔物を全て倒した」
「彼女はただ村を救っただけなんだ」
サカ
「………」
イト
「これがペルー村での真相だ」
サカ
「………」
イト
「サカ………俺の話を信じてくれるか?」
サカ
「正直頭の整理が追い付いていない」
イト
「サカお願いだ」
「俺たちと協力をしてほしい」
サカ
「協力………?」
「お前が今まで俺に説明した意図はなんだ?」
「お前たちは何がしたい?何を望んでいる?」
イト
「俺たちは死ぬまで人間に追われる身だ」
「逃げても逃げても何も解決しない………」
「だから今言った真実を皆に伝えたいのだ」
サカ
「そんなこと無理に決まっている」
イト
「サカ………このままではいつまで経っても俺たち魔女とお前たち騎士団と不毛な争いが続く」
「いずれどこかで終止符を打たなければならない」
「俺が今回お前と接触したのは少しでも理解者を増やしたいからだ」
「俺はお前なら話を聞いてくれると信じていた」
サカ
「そんな話されたところで俺は何もできんぞ」
イト
「少しでもいい………少しでもいいから事を動かしたいんだ」
「彼女たちは戦いたくて戦っているわけじゃない」
「お前たちも罪の無い彼女たちを追いかけたところで何も意味を成さない」
「お願いだサカ………無理にとは言わないが俺たちと協力してくれ」
「少しでもいい………時間をかけてもいい………この負の連鎖をいつか断ち切りたいんだ」
「頼む」
イトはサカの前で頭を下げて願いを請う………。
隣にいたララも合わせて頭を下げる。
サカ
「………」
サカはこの時どうしたらいいものかわからず、何も言えずにいた。
この後もまたイトから今までのことを聞かされた。魔女教会のことや自分たち魔女のことなど、包み隠さずイトはサカに話をした。
サカは今回イトたちがどのような状況なのか理解し、また彼女たちが何を望んでいるのかわかった。彼はひとまず今日は引き上げることにした。
イト
「また連絡が取れたら幸いだ」
イトはサカと別れ際に一言添える。
サカ
「………」
サカは唐突な話に困惑と複雑な心境を抱いていた。
サカ
(………どうしたらいいかわからないが)
(唯一わかったことは………ペルー村の魔女が生きていたことぐらいだ)
(もしあの女剣士………いやイトの話が本当ならば、この事件を解決させるにはあいつの言うとおり双方の理解が必須)
(しかし………今聞かされたことを国の奴等に説明したところで聞いてくれるはずもない)
(いつもの魔女の罠と言い張るだろう………)
(そもそもあいつがまだ本物のイトかどうかはわからない)
(一つの話に惑わされてはならない………より多くの情報が必要だ)
サカは悩みに悩みつつ自宅へと帰っていく。
彼一人では荷が重すぎるのか、不安で眠りにつけない夜となった。




