キボウ
時刻は21時。
オードリー一家は食事を終え、寝室に向かい、ベッドの上で親子共々会話をしていた。
アイナ
「パパ!こないだパパから貰った本全部読んだよ!」
オードリー
「おお………早いな」
「面白かった?」
アイナ
「うん!面白かった!!」
ソラフ
「何の本を貸したの?」
オードリー
「パンドラの箱」
アイナ
「これだよ!ママ!!」
アイナは絵本の表紙をソラフに見せる。
ソラフ
「パンドラの箱………えーと災いをもたらす箱だっけ?」
アイナ
「そうそう!」
「パンドラがね絶対に開けちゃいけない箱を開けちゃったの!」
「そしたら………えーと何だっけ」
オードリー
「災いね」
アイナ
「そう!なんか悪いやつがたくさん出てきちゃって皆困っちゃうの」
「でもねでもね!最後に箱の中からキボウが出てきてね」
「キボウが皆の味方をしてくれるの!!」
オードリー
「そうそう」
ソラフ
「へえー面白そうね………」
「というか………アイナこんな厚い本読んだの!?」
アイナ
「そうだよ!読んだよ!!」
ソラフ
「凄いね!さすが偉い!」
オードリー
「アイナはどんどん本が読めるようになってきてるね」
アイナ
「本大好きだよ!!」
オードリーはアイナの頭を撫でる。
ソラフ
「そろそろ寝よう」
アイナ
「えーもう少し本読みたい」
ソラフ
「んー………あんまり夜遅くなってはダメよ」
アイナ
「はあい」
部屋の明かりを消して、スタンドのみ明かりをつけ、アイナは本を読み進める。
20分後ぐらいにアイナはうとうとし始め、やがてスヤスヤと眠り始めた。
ソラフはアイナに布団をかけ、スタンドの電気を消灯させる。
ソラフ
「おやすみ」
オードリー
「ああ………おやすみ」
オードリー一家は22時には就寝し、だいたい1日8時間ほど睡眠をとるようにしている。
いつもであれば朝6時ごろに目が覚めるのだが、今日はいつもと違った。
時刻は0時30分。アイナは怖い夢を見てうなされていたのだ。
アイナの夢の中では街が炎に包まれ、周りの家々は焼け落ちて空が真っ赤に染まっていた。まるでこの世の終わりのような光景だ………。
アイナ
「パパ………ママ!?」
アイナは炎が燃え盛る中、両親を探しにさ迷い歩く………。
アイナ
「どこにいるの!?パパ!!ママ!!」
バチバチ………ガラガラ………
周りの家の屋根が崩れて火の粉が舞い上がる。
少女は探しても探しても両親は見つからない………。友だちも誰一人見つからない………。
絶望にひれ伏した少女はその場で座り込み、ただひたすらに泣き叫ぶことしかできなかった。
そして建物の柱が焼き崩れ、少女に向かって倒れていく。
「パパ………ママ!!」
バキバキ………!!
ソラフ
「大丈夫?アイナ」
アイナ
「………!?」
オードリー
「どうしたアイナうなされてたよ………?」
「怖い夢でも見たのか?」
アイナ
「………うん」
アイナは隣に寝ていたオードリーにしがみつく………。
アイナ
「皆の家が燃えちゃう夢を見たの………」
「皆炎の中にいてね………アイナだけ一人でお外にいたの」
オードリーはしがみつくアイナを優しく抱きしめ、大丈夫大丈夫と彼女に言い聞かせた。
オードリー
「大丈夫だアイナ………パパもママもついてるから安心して」
アイナ
「うん………」
オードリーはアイナを抱きしめながら優しく背中を手でさすった。
アイナ
「パパとママがいなくなったらどうしよう………」
アイナは悲しい声でオードリーに尋ねた。
オードリー
「アイナ………たとえパパたちがいなくても……どんなに絶望的な状況でも必ずアイナに味方するものがいるよ」
アイナ
「味方?」
オードリー
「そうだよ」
「ほら………絵本のパンドラのように」
アイナ
「それってキボウのこと!?」
オードリー
「そう希望!」
「どんな絶望的な状況でも決して諦めなければ必ず希望がアイナを味方する」
アイナ
「必ず?」
オードリー
「そう必ず」
「だからアイナ………どんなに苦しくても不安でも決して諦めないでほしい」
「もしかしたらキボウがアイナを救ってくれるかもしれないから」
アイナ
「うん………わかった」
オードリー
「よしよし………いい子だ」
「さあ………もう一度寝ようかアイナ」
アイナ
「うん………!」
アイナは再びベッドの中へ潜り、目をつぶる。
彼女の心は先程の悪夢で不安や悲観でいっぱいであったが、オードリーの言葉に安心したのか、安らかに眠りにつくことができた。
時刻は朝7時。
オードリーは朝食を済ませ、出かける準備をしていた。今日は先日起きたルナ街の事件について伺うために魔女研究所へ出張する予定だ。
ソラフ
「今週から毎日遅くなるんだね?」
オードリー
「うん」
「だいたい19時くらいには帰ってくるよ」
「それじゃ………行ってきます」
ソラフ
「行ってらっしゃい」
アイナ
「パパ!!」
アイナが寝起きの状態で玄関に駆け寄ってくる。
オードリー
「アイナ早いじゃないか」
アイナ
「パパ!行ってらっしゃい!!」
オードリー
「行ってきます!」
オードリーはアイナとハグして、玄関の外へ出る。家の目の前には馬車が留まっていた。
オードリーは馬車に乗り込み、窓からアイナとソラフに手をふる。
アイナは両手で大きく手をふり、オードリーを見送る。
アイナは今日もオードリーから借りた本を学校で読む。そして彼女は今晩もオードリーと本について話すことを楽しみにしていた。
しかし、今後アイナはオードリーと会えないことになるとは知るよしもなかった………。
オードリーが向かう魔女研究所に不穏な空気が漂う………。
これから新たな大惨事が起きようとは誰も想定していなかったのだ………。




