目覚めの兆し
「どうした?」
私は一人の女性に話しかける………。
「ない……なーい!?」
「何がないんだよ?」
「私のID………ほら」
女性は手から画面を表示させ、私にそれを見せる。
そこにはエラーの文字がたくさん羅列されており、どうやらお金も証明書も使えないようだ。
「どうなってるのこれ………これじゃあ何もできないじゃない!?」
女性はプンスカ怒り始め、画面を何度も起動させる。
「トラブルだな………ほら貸して」
私は彼女の画面を手に取り、復旧コードを入力する。画面がシンプルモードに切り替わり、お金や証明書、通信機能のみ使えるようになった。
「さすがー!!これで買い物ができる!!」
女性は先程と表情が一転し、嬉しそうに画面を見つめていた。
「あー!!!」
「今度はどうした?」
「パスワードにロックかかってる……」
「最近トラブルが多いな……仕方ないからほら」
私はポケットから財布を取りだし、現金を彼女に渡す。
「うわあ!久しぶりに紙媒体のお金見た……なんでこんなものもってるの!?」
「こういうトラブルの時のために念には念を入れてるのさ」
「君……本当にいつもびっくりするぐらい用意がいいよね」
「食料なんて保存する意味ないのにいまだに冷蔵庫とかいうもの使ってるし」
「私はいつも最悪の事態を想定してやってるだけだよ」
「心配性なのかな?」
「そうかもしれない……私はリスキーなことはできるだけ回避したいと思っているからね……二段構え三段構えとリスク回避に努めているのさ」
「ふうん……まあ貴方らしいけどちょっとやりすぎよね」
「でもこうやって君は買い物することができるだろ?」
「確かに!」
女性は私に向かって笑みを浮かべる……。
トランヴェル
(………はっ!?)
トランヴェルは夢から目を覚ます………。
トランヴェル
(なんだ………今の夢は………)
(あの女性………くそ……思い出せない)
ダマたちとの激戦から2日が経ち、ついに今日は皆それぞれの道を歩むことになる。
ララたちの会話では、ララとカリアとサラはイトと共にアポロへ向かう。そしてミランダは実家へ帰り、ルイは一人でどこかへ行くようだ。
トランヴェル
(皆がバラける前に一度直接話したほうがいいな………)
トランヴェルは全員が起きたことを確認し、体から精神を解き放ち、精神状態になった。
精神状態になることにより30分皆と話すことができる。
ミランダ
「あれ………トランヴェル!?」
トランヴェル
(やあミランダ………そして皆おはよう)
イト
「フクロウ!!」
ララ
「トランヴェル!今喋れるのね!」
トランヴェル
(ああ………1日30分だけな)
(時間が無いから今から話したいと思う)
(まずは皆………本当によく戦ってくれた!)
(皆が魔女として転生し戦ってくれたお陰で生き延びることができた)
(本当にありがとう)
ルイ
「………で?」
「あんたは何者なの?」
トランヴェル
(………それは私自信もわからない)
(気がついたらマベルのペットのフクロウだったんだ)
ミランダ
「マベル?」
カリア
「ほら………昨日最後にあった魔女だよ」
ミランダ
「ああ………あの魔女のことか」
ルイ
「お前は魔女のペットなの?」
トランヴェル
「そうらしい」
ルイ
「………あんたの目的は何?」
トランヴェル
(目的?)
ルイ
「あんたは私たちを魔女にしてどうしたいの?」
トランヴェル
(私が君たちを魔女にしたのは人を救うためだ。そして仲間を守るためでもある)
(それから瀕死の君たちを救うことも目的だ)
ルイ
「耳障りのいいこと言っちゃってさ………」
「本当の目的は何なの?」
トランヴェル
(本当もなにも今言ったことが目的さ)
ルイ
「そんなもの信じられるか!?」
ミランダ
「いや………トランヴェルの言ってることは本当だと思うよ」
「トランヴェルから見せてもらった記憶から皆を救うためにやっているように思えるもん」
ルイ
「あんな記憶捏造されてたらどうするんだ!?」
「人間を魔女にするやつがただ人救いのために動くわけがない」
「何か裏があるに違いない」
トランヴェル
(本当に君は疑い深いな………)
(目的も何も私自信どうしてここにいるのかわからないし、どうしてこんな能力が使えるのかもわからないんだ)
ルイ
「そんな言葉信じられるかよ」
カリア
「まあまあ落ち着いて………今のところトランヴェルに何か裏のありそうな言動は見当たらないし、取り敢えず彼の言ってることを信じようよ」
ルイ
「ふん………どいつもこいつも甘ちゃんだね」
イト
「つまり……記憶喪失か何かなのか?」
トランヴェル
(そうそれ。唯一覚えているのは元にいた世界のことだけなんだ)
イト
「元にいた世界………?」
トランヴェル
(そう………私は元々この世界とは違うところにいたはずなんだ)
(その世界はこんな剣や魔法なんて無いし、魔物や魔女もいない)
(どちらかというと魔法の無い世界に私はいたんだ)
イト
「魔法の無い世界……?」
トランヴェル
(えーと例えばこの世界では馬とか馬車が移動手段だけど、私のいた世界は車という機械でできたものに乗っていたんだ)
(あとはこの世界だと魔法で通信しているけれど、私の世界では電話という機械で通信をしていたんだ)
イト
「いまいち言ってることがわからないが………要は機械が発達した世界にいたということだな」
トランヴェル
(そうそう)
ララ
「もしかしてトランヴェルって過去の時代から来たの?」
トランヴェル
(過去………?)
ララ
「この私たちがいる世界でも機械が発達した時期があって、魔法が出るまでは私たち祖先も機械を使っていたみたいなの」
カリア
「今ちょうど学校で習ってるところだよね機械文明」
トランヴェル
(マジで?)
(でもよくよく思い返してみれば、あの教会には機械や装置がたくさんあった………)
(この世界は未来なのか?)
カリア
「トランヴェルがもし過去から来たとして………でもどうして魔女のフクロウになったのか記憶にないんだよね?」
トランヴェル
(全く無い)
イト
「………わからないことだらけだな」
トランヴェル
(記憶が戻るまで君たちに同行したいと思っている)
(どうして私はここにいるのか………どうしてこんな能力があるのか………そして)
(マベルが言うアポロに何があるのか……それを知りたいんだ)
イト
「トランヴェル……あなたは本来なら信じがたい空想のような存在だ」
「しかし、現にあなたは俺たちを魔女にし、そして私たちと会話をしている」
「俺もあなたが何者なのか知りたい」
トランヴェル
(私も君たちに同行していいかな?)
イト
「もちろん」
カリア
「というかトランヴェルがいないと私たちも今後どうしていいかわからないし……」
「記憶が戻るまで一緒に行動しましょ」
トランヴェル
(ありがとう皆)
ララ
「ルイさんはやっぱり一人でどこかへ行くの?」
ルイ
「そうね」
「私は好きなようにさせてもらうわ」
ララ
「そう……」
イト
「仕方がないな……それじゃあ俺たちは歩いてアポロへ向かうとするか」
ララ
「待って……その前にさやらなければならないことがあるんだけど」
ルイ
「何?」
ララ
「この子のお父さんのお墓をつくろう……」
サラ
「………」
ミランダ
「そうだね………辛いだろうけどここで埋葬しよう」




