約束の魔法障壁
「カリア……突き進め…」
(またあの夢だ………)
「自分の信じた道を突き進め…!」
(お父さん………)
ドスドスドスッ…!
カリアが目を覚ませば、彼女の体にはノーズの血管がたくさん突き刺さっていた…。
カリア
「嫌…!嫌あああああ」
ノーズはカリアを吸収後、体内の血管を彼女に挿し込み、魔力を吸収していたのだ。
ドク………ドク………
カリア
(助けて………助けて)
(怖い………怖い…お父さん!!)
カリアは余りの恐怖にパニック状態に陥ってしまう…。
過呼吸をおこし、目眩と吐き気が著しい…。
彼女は思考ができずにただただ魔力を吸われるだけだった。
何故こんなことになったのか彼女は絶望し、もはや助かろうとする気力すら削られていた。
こんな現実………嫌だ………。
こんな………。
………
彼女は再び気を失い、また夢の中へと誘われる…。
ペルー村を出てからよく見るあの夢だ………。
深い深い海の底で彼女は沈んでいく…。
そして父ガゼルの声が聞こえてくるのだ…。
その声は何度もこだまする…。
「突き進め…自ら望む方へ…」と…。
沈んでいくうちに辺りは暗くなっていき、彼女は真っ暗な海底に横たわる…。
何も見えない…。何も感じない…。
〈カリア!〉
遠くから聞こえる声の主はトランヴェルだった。
カリア
(………フクロウ?)
トランヴェル
(おい!起きろ!!)
カリア
(また夢………?)
トランヴェル
(そうだよ夢だよ!早く目を覚ませ!!)
カリア
(………)
カリアはその場から動こうとしない…。
トランヴェル
(ここから出ようカリア)
カリア
(………無理)
トランヴェル
(何故………!?)
カリア
(動けないの……)
カリアは無気力な状態で深海へ沈んでいく………。
ガララ………
トランヴェル
(ん?)
トランヴェルはカリアの背中にいくつか鎖が取り付けられていることに気づく。鎖は深海から伸びており、根元は全く見えない。
トランヴェル
(なんだこれ……)
トランヴェルはカリアを引っ張ろうとするが、微動だにしない。
トランヴェル
(おい!カリア!!しっかりしろ!?)
沈めば沈むほど明かりが消え、わずかに海面から射していた光もいつの間にか消えていた。
トランヴェル
(何も見えない……)
辺りは真っ暗でカリアの顔すら見えない………。
しかしそこに一点の光が現れる…。
その光には幼いころのカリアと父ガゼルが写し出されていた。
二人はペルー村の前で話をしている。
ガゼル
「この装置を作動させれば、魔物に襲われる心配はいらない」
カリア
「これで結界が貼れるの?」
ガゼル
「ああ!この装置は普段カリアと一瞬に作っている防具と同じで魔除けの効果があるんだ」
「村に防具を着させるようなものだよ」
カリア
「村に防具!すごい!!村も防具を着けるんだね!」
ガゼル
「そうさ…人間ですら防具を着けるのに村を丸裸にするわけにはいかないだろ?」
カリア
「じゃあ私は村にアクセサリーを着けるよ!」
ガゼル
「アクセサリー?」
カリア
「そう!アクセサリー!!」
ガゼル
「へえ面白いこというなカリアは…」
「そんなにアクセサリー職人になりたいのか?」
カリア
「うん!村にお洒落なアクセサリーを広めてペルー村にも色鮮やかなアクセサリーを着けるの!」
「この村をアクセサリーの聖地にするのが私の夢なの!」
ガゼル
「なるほどなあ…アクセサリーの聖地か………面白いかもしれない」
カリア
「でしょー!!傭兵さん以外にもきっと多くのいろんな人がこの村に訪れるよ!そうすればもっともっとこの村は賑わう!」
ガゼル
「さすが私の娘だ………よし…カリア!その気持ちを夢を叶えるまで忘れるなよ?」
カリア
「うん!」
光が徐々に弱まっていく…。
トランヴェル
(これはカリアの記憶か………)
光が灯火となりやがて泡となって消えていった………。
そしてカリアは深い海の底に横たわり、夢から覚めて現実へと戻る。
カリア
(………夢なんて子供の頃に抱くだけの幻想)
(…………儚いものなんだね……)
(今のペルー村は魔物によって焼け野はらになった…。私が望む未来はもう実現しない………)
辺りに禍々しい色をした光がいくつか光だす…。
そこには様々な場面が映し出されていた。
トランヴェル
(これも………記憶なのか?)
魔物と遭遇して、追いかけられ足を噛まれてしまう場面や、
ララがハンマーで頭を潰されるショッキングな場面が映し出される。
カリアは悲壮感に浸り今までの出来事を思い返していたのだ。
カリア
(父が作り出した防具は多くの人を守り多くの人に役立ってきた…)
(でも父は…私の命を助けるために村の皆を裏切った…村の人を守るために作った魔法障壁を解除して村の皆を見殺しにしたんだ…)
(そもそも私が魔物に襲われなければこんなことにはならなかった……とても許されることではない…)
カリアの心の中で罪の意識が積み重なっていく…。
彼女が昔抱いていた夢は消失し、代わりに罪の意識が強まっていった。
(私が村を殺したんだ)
(もうあの頃の村は帰ってこない……)
(私は罪があるから罰せられなくてはならない……)
(ここで……死ぬべき…?)
トランヴェル
(君が罰せられるべきというならば、ここで死ぬべきではないよ!)
カリア
(!?)
トランヴェル
(村に対して何もしてやれないことの方が罪深い……と思うけど?)
(そして君自信が本当に村のことを思うのであれば、また立ち上げればいい)
カリア
(でも……私はペルー村を……皆を)
トランヴェル
(過ぎ去ったものはもう取り返せない………後悔したところで何も生まれはしないよ)
(たとえ誰かが君を責めていたとしても君は自分の望みを突き通すべきなんだ)
(君が言うように罪を償うというのならば、罪の意識に囚われて何もせずに死んでいくほうが無責任だと思うよ?)
カリア
(………)
トランヴェル
(でもねカリア………人間は誰しも大小あれど罪を背負っているんだよ)
(中には責任や罪なんて関係ないって言い張る人もいれば、罪を重く感じて何もできない人もいる)
(罪だろうが責任だろうが重く捉えれば捉えるほど人間はそればかり注意を向けて何もできないんだ)
(本当に罪と罰があるのであれば、その分何かしら貢献したほうが絶対いいのにね………)
(もちろんたくさん人を殺したり、大きな犯罪を起こしたりすれば罰せられる………その罪を犯した人は皆にとって忌むべき存在だからね………最悪死刑される)
(でも君は意図的に村を破滅へ追い込んだわけではないのでしょ?)
(カリアは村を滅ぼしたくて滅ぼしたと言いうの?)
カリア
(………違う……私は……)
トランヴェル
(君は罪に囚われて何もできないでいるだけなんだ)
(そして君には夢があるんだろう?)
トランヴェルは消えかかっていた灯火に目をやる。
トランヴェル
(まして君の夢が村を賑やかにさせることなら尚更だよ)
カリア
(………)
カリアはうつむいていた顔を上げて地上からわずかに射している光を見つめる……。
カリア
(私にもできることはまだあるのかな……)
トランヴェル
(探せばあるよ………無ければ創ればいいんだ)
カリア
(そうね………)
パキィ……
鎖が綻びていく…!
カリア
(このフクロウが言うようにここで何もしないで死ぬよりは私ができることをしたほうがいい……)
ゴポポ……
カリアはまた再び地上へ向かって泳ぎだす……。
(村を殺したのならば…私には村を復興させる責任がある…)
パキパキ………
(父はきっと自分のやりたいことで皆へ貢献する夢を描いていたに違いない………)
(父が最後までできなかったことを…私はやりきる……そして)
上から光が差し込んできた…。
カリアはその光に向かって泳ぎに泳ぐ。
トランヴェル
(それでいいんだカリア…)
(自ら鎖を解き放って自分の力で泳げ)
(この幼い夢を育み、この世に咲かしてしまえばいい)
泳いでいるうちに僅かな光が徐々に大きく広く輝いていく…!
そして深海に沈んでいた夢の灯火が大きく輝きだす………!
カリア
(私は父と約束した夢を……叶える!)
ザパア…!
光に包まれた先には海と空が混じりあい、広大に広がっていた。
カリア
(広い……)
広大に広がったこの世界では自分はちっぽけな存在だ…。
ただ魔法防具を作っていた一人の少女にすぎない。
しかし、逆に言えば自分が見上げる世界は広く、あらゆる可能性を秘めていることを感じる。
この先に何があるのか………探求心と好奇心が深まる…。
自分のやりたいことをしてこの世界を少しでも理解したい…。
そんな想いが彼女の中から涌き出てきたのだ。
「カリア…突き進め」
「どんなに辛くても上手くいかなくても」
「自分を信じて突き進め…!」
コオオオオオオオオオッ…!
ノーズの体から光が溢れだす…!
ノーズ
「!?」
ブチブチブチブチ!!
ノーズの体内の血管が切られていく…
そして中から魔法障壁が広大に広がっていく…!




