ララとミランダ
光に包まれたトランヴェルたちは大量の水にさらされ、流れていく。彼らは流れに身を任せるまま流されに流されていった。
ザパアアア!
トランヴェル
(ぐおおおおお!?)
ベルチカ
「記憶の波に流されて…うわ!?」
まるで洪水に巻き込まれたように彼らは流されていく……!
そして行きついた先は一室の部屋だった。
トランヴェル
(どこだ……ここ?)
そこは今までララの記憶の中では見たことのない部屋だった。
「トランヴェル!!」
後ろからトランヴェルを呼ぶ声が聞こえる…!
トランヴェル
(お前……ミランダ!?)
そこにはここにいるはずのないミランダの姿があった。
ミランダ
「トランヴェル!よかった会えて!!」
トランヴェル
(ミランダがここにいるってことは……出られたのか?)
ベルチカ
「いや……恐らくまだここはララの記憶の中だよ」
トランヴェル
(え……じゃあ何でここにミランダがいるんだ?)
ミランダ
「私……気がついたらここにいたの」
「確かララを起こそうとして右手をかざして…それから記憶が無いの」
ベルチカ
「不思議だね…人の心の中に入れるのは僕らだけのはずなのに」
トランヴェル
(……ミランダはララやカリアに比べ結構不明なところが多い…)
(彼女の魔法は目に見えないし、何の魔法なのかもわからない…恐らく彼女自身もわかっていない)
(今回彼女がララの中に入れたのはまた謎の魔法を使ったのか…?)
ミランダ
「ところでそちらはどなた?」
ベルチカ
「まさか僕が見えるの?」
トランヴェル
(え??)
ミランダ
「……見えちゃいけないの?」
トランヴェル
(ベルチカの姿が見えるのか!?)
ミランダ
「う…うん……トランヴェルは見えないの……?」
トランヴェルは驚愕した。今までトランヴェルはベルチカの姿は見えず、声しか聞こえないでいた。
トランヴェルはベルチカを自分の体内に潜む思念体とか音声だけの機械とか実体のないものだと考えていた。しかしミランダはベルチカの姿が見えるという…。
ベルチカ
「この子普通じゃない……何で僕の姿が見えるんだ…?トランヴェルすら見えないのに!?」
トランヴェル
(というかミランダ…もしかして私の声も聞こえてる?)
ミランダ
「?……聞こえてるよ?」
ベルチカ
「おかしいな……いくら魔女でも精神状態ではないトランヴェルの声は聞こえないはずだ……まだララみたいに心の中にいる本人なら声は聞こえても不思議では無いけれど…何故部外者のミランダは声が聞こえるんだ…?」
トランヴェル
(ベルチカでもわからいことがあるんだな……)
ベルチカ
「そりゃ僕はトランヴェルのことしかわからないからね…知らないこともあるさ」
トランヴェル
(…そうなのか?結構君は何でも知っているように振る舞ってたからさ…この世界のことをよく知ってるのかと…)
ベルチカ
「残念ながらこの子の存在は僕でもわからないね……君何者?」
ミランダ
「何者って言われても…」
ミランダは困った顔で黙り込んでしまった。
トランヴェル
(まあまあ取りあえずさ…ここから出ないか?)
(というかどうやってここから出れるの?)
ベルチカ
「記憶の海と心の空の境界に出口があるよ」
「でも僕らは恐らくまだ月の中にいるんじゃないかな…月から出れれば出口がわかるよ」
トランヴェル
(この部屋はララの望んでる世界の一つなのか?)
ミランダ
「この部屋……」
ベルチカ
「そうだろうねえ…結構流されてきたから出口には近いと思うけど……こっちかな」
トランヴェルとベルチカは部屋の外に出ようとこの部屋のドアに向かっていく。
しかしミランダは立ち止まったままだった。
トランヴェル
(どうしたミランダ?行くぞ?)
ミランダ
「この部屋……私の家だ……」
トランヴェル
(え?今なんて?)
ミランダとトランヴェルが会話している間にこの部屋に二人の女性が入ってきた。
トランヴェル
(ララ…カリア!)
ララとカリアはテーブルにつき、椅子に座って会話をし始めた。
どうやらトランヴェルの声は届いていないようだ。
ベルチカ
「もしかしてこれ……ララの記憶か」
トランヴェル
(ララの望みの世界じゃないのか?)
ミランダ
「なんで私の家にララが……」
ララとカリアが話している中、もう一人女性が部屋に入ってきた。
ミランダ
「お母さん…だ」
トランヴェル
(なんだって?)
部屋に入ってきた女性はペルー村から逃げてきたララとカリアを助けたコーネリアスだった。
ミランダ
「これは…どういう…」
ゴゴゴ…!
トランヴェル
(ん…なんの音だ?)
ベルチカ
「嫌な予感がする…」
トランヴェルたちが向かおうとしたドアが破壊され、水が大量に部屋の中へ入ってくる!
トランヴェル
(また水が!?)
ミランダ
「トランヴェル!捕まって!」
ミランダは左手をトランヴェルに差し出す!
トランヴェルは右翼を広げ、ミランダの手を掴もうとするが、
自分に掴む手がないことに気づいた。
トランヴェル
(あ……)
結局そのままトランヴェルは流されていく…!
トランヴェル
「ゴポぽ」
トランヴェルが溺れかけた時、誰かの手が彼の体を掴んだ!
ザパアア!
ララ
「大丈夫?」
トランヴェル
(ララ!?)
ララはトランヴェルを担いで安全な場所へ着地する。
彼女は続いてミランダを助けに浮遊して行く。
ミランダ
「ララちぃ!」
ララ
「ミランダ!?どうしてここに?」
ララはミランダと肩を組み浮遊し、避難をする。
トランヴェル
(ベルチカは?)
ミランダ
「私の後ろに抱きついてる…っていうか早く離れて」
ベルチカ
「おーすまないすまない」
ララ
「大丈夫二人とも?」
ミランダ
「うん…このララは幻想?」
ララ
「ううん…私の意思だよ」
「フクロウさんに会った後、フクロウさんが凄い勢いで水に流されていくのを見かけたから追っかけてきたの」
トランヴェル
(凄い水だったよ……マジで死ぬかと)
ララ
「ごめんなさい……私が故意にやったわけではないんだけど……何故かあの時に水が流れてきたの」
ベルチカ
「人の心の中は複雑だからね…無意識に部外者の僕らを追い出そうとしたんだろうね」
トランヴェル
(無意識なら仕方ないね…)
ベルチカ
「もしかしたら僕らが彼女と接触した後、無理矢理月から出されてその勢いで海に飛ばされてしまったのかも」
トランヴェル
(凄い距離を流されてきたんだな……またあの海の中なのかここ…?)
(それはそうとララこれは君の記憶?)
ララ
「うん…私がこの村に来たときの記憶かな」
場面はララとカリアがコーネリアスの家から出て魔女狩隊から逃げるところだった。
トランヴェル
(やっぱここはララの記憶の中なんだ)
ミランダ
「ということはララちぃ私の家に居たってこと!?」
ララ
「え……?どういうこと?」
ミランダ
「さっき私の家とお母さんがララと一緒に映ってたんだけど!」
ララ
「嘘!?」
ミランダ
「本当だよ!コーネリアスって私のお母さんだよ!」
ララ
「嘘お!?コーネリアスさんってミランダのお母さんなの!?」
ミランダ
「そうだよ!まさかララと会ってたなんて!?」
ララとミランダは和気あいあいと話をしており、トランヴェルはその様子を傍らから見てほんわかな気持ちになっていた。
ベルチカ
「どうしたのトランヴェル…そんな孫たちを見るような目で彼女たちをみて」
トランヴェル
(うるさい!中々こういう和ましい場面が無いんだよ!この世界に来てから殺伐とした会話しか無いからさ!)
(そりゃあ自分が魔女にしたカリアとミランダが仲良く話しているところみたら親心みたいな気持ちも芽生えるだろう!?)
ベルチカ
「はははッ親というよりじじいに見えたよトランヴェル…」
トランヴェルたちがほんわかな気分に浸っている中、
ついにこの場所にも水が入り込んできた。
ベルチカ
「そろそろ海面に上がって外に出ようか」
トランヴェル
(そうだな…もう流されるのはゴメンだ)
ララ
「フクロウさん……本当にありがとう…私も戦えそうだよ」
トランヴェル
(ララあんまり無理するなよ?取りあえずカリアを助けて教会から脱出しよう)
ララ
「カリアは捕まってるの!?」
トランヴェル
(カリアはあの化け物の体に取り込まれたままだ…何とかして助け出したい)
ララ
「こうしてはいられない…」
トランヴェル
(急ごうミランダ…ルイもきっと限界に違いない)
ミランダ
「うん!何としてでもあの化け物から彼女を助けだそう!」
「ララ…また後でね!」
ララ
「うん!また後で」
トランヴェルたちはこの部屋の外に出て、海面に向かって泳ぎだす。そして記憶の海と心の空の境界線へ進み、光に包まれていく…。




