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イトの覚悟

トランヴェルたちが牢獄へいっている間、イトはこの地下室で化け物と戦い続けていた。腕は引きちぎられ、足はずたぼろにされ、それでも化け物に挑んでいった。恐らく仲間は全滅しており、彼一人だけが何とか生き延びている状況だった。

イトは応急措置で体中に包帯をくくりつけ止血していたが、過度の戦闘により包帯を通り越して大量に流血していた。彼は死を覚悟し、刺し違えても化け物を倒すと誓った。


イト

(恐らく……ここで俺は死ぬのだろう)

(なかなか面白い人生だった………)


イトは振り返る……己の人生を…。

元々一兵士だった彼は努力の末、国から推薦をもらい、国直属の騎士団に入団することができた。それから彼はあらゆる魔物を退治しては、功績を残していった。

そして彼は騎士団のさらに上のエリート集団、魔女狩部隊に所属することになる…。

彼の人生は戦いの連続であり、剣一筋で国のエリート部隊に入隊することができたのだ。

しかし彼はわかっていた……いずれどこかで戦死することを。

命を奪えば奪うほど、自分の命を危険に晒すことになると理解していた。イトはここで死ぬことを悟り、力強く剣を握る…!

今まで逃げずに戦い続けてきたのだから、最期まで戦い抜くことを選択したのだ。イトがそう決意している最中、どこからか声が聞こえてくる…。


「おい!!」


イト

「…!?」


不思議なことに目の前で飛んでいるフクロウが彼に話しかけてきたのだ。


「頼む……魔女になってくれ!」


唐突にフクロウが摩訶不思議なことを言った直後、イトの脳裏に何か映像が写し出されてくる…!

その映像はフクロウが魔女マベルと共に森を歩いているシーンであり、それからカリアが魔物に噛まれ、ガゼルがペルー村の魔法障壁を解除し、さらにララが魔女になるまで写し出さる。


イト

「なんだこれは……」


イトは困惑を隠せない……急な出来事で理解が追い付かないのだ。

そして映像の場面は切り替わり、魔女狩隊がララと戦闘し、さらにカリアが魔女になるところまで写し出される。


「彼女たちは元々魔女ではない……人間だったんだ」


イトの目に映像が写し出される最中、フクロウが語りかけてくる……。


イト

「なんだこれは……何を見せられてるんだ……お前は誰だ!?」


トランヴェル

(私はトランヴェル…元々違う世界から来た人間だ)


トランヴェルはこれまでの出来事をイトへ語り出す…。

ペルー村の惨劇の真実や魔女狩り部隊が追っている魔女は無実の人間であることを説明していった。


トランヴェル

(お前たちが探している魔女は……元々人間なんだ)


彼の脳裏にララとカリアが逃亡する場面が映し出される…。


イト

(なんだこれは……幻覚?)


トランヴェル

(君に見せているのは私の記憶だ……これまでの出来事を君の脳内に再生しているんだよ)


イト

(魔女は……お前が産み出したのか?)


トランヴェル

(いや…私が産み出したのは3人だけだ……自分には人を魔女にする力がある……その能力で何とか惨劇を避けようとやってきたんだ)

(頼む…魔女になってあの3人を助けてほしい)

(君ももう体が限界のはずだ……このまま死に絶えるよりは魔女に転生したほうがいい)


イト

「……」


イトは疑念を抱く…。

もしかしたらこのフクロウは全ての元凶ではないかと考えたり、フクロウの言っていることが嘘で捕らわれた魔女を助けるために自分を利用したいだけなのではないかと考えたり、そもそも瀕死な自分を魔女にして多くの人間を襲わせようとしているのではないかと考えたり、いろんなことを思考していた。


イト

(もしこのフクロウの言っていることが本当であれば、俺は魔女の力を得ることができる…その力を王国へ持って帰ることができれば人類の大きな一歩になるんじゃないか……)


(しかし奴が見せているこの映像が実は嘘で俺を魔女に仕立ててあの魔女どもを化け物から救わせようとしているだけなのかもしれない……)


(そもそも魔女になることは人類を裏切ることになる……それにこいつの言ってることを信用しろというほうがおかしい…俺を騙そうとしているに違いない)


トランヴェル

(時間が無い…頼む…!)

(お前にとって悪い話ではないはずだ…魔女の力を手に入れて王宮へ帰れば、大きな成果になるはずだ!)


トランヴェルは必死にイトを説得するが、イトはそれを受け付けようとしない。


イト

(仮にこのフクロウが言うように魔女になったとして、そのまま意識が残るとは限らない……俺はもう決めた…魔女だろうが何だろうが俺には関係ない…俺はここで死ぬ!!)


「俺は今まで人類のために剣を振ってきた…!魔女になるなど言語道断!!」


イトはトランヴェルの言葉を無視し、再びノーズへ立ち向かって行く…!


トランヴェル

(やめろ!そんな状態で勝てるはずがない…!無駄死にするぞ!)


イトはもうノーズに勝とうなど思っていない…彼は最期まで戦い抜くことだけを念頭に置いて立ち向かって行ったのだ。

もはやトランヴェルの言葉はイトへ届かなかった…。


しかし、トランヴェルは諦めない…何としても説得してミランダたちを助け出したいのだ。

押してもダメなら引くしかない…そうトランヴェルは考えもう一度イトへ説得を試みる…!


トランヴェル

(国のために剣を振ってきたというのなら、ここで無駄死にするのは国のためにならないぞ!)


イトの脳内に再びトランヴェルの声が響き渡る…!


トランヴェル

(お前は単なる腰抜けだ!!国のためでもなんでもない…もう諦めて死のうとしているだけだ!)

(魔女の力を得るチャンスを見捨てて、この化け物をほったらかしにして国を脅かす…最低な野郎だ!!)


イト

「………」


トランヴェルはイトの言動を否定し、さらに無能だと彼にヘイトを向ける。


トランヴェル

(魔女でも勝てないこの化け物が表に出たらどうなる!?国の皆は地獄を見ることになるぞ!)

(お前がここで諦めてしまえばそれこそ多くの犠牲者が出ることになる!)


続いてトランヴェルはノーズをこのまま野ざらしにすれば国の驚異になると彼に訴えかける。

イトはそれでもトランヴェルを無視する…。


トランヴェル

(ここで倒さなければ誰がこいつを倒せるんだ!?)


イト

「うるさい!!」


「貴様の言葉に耳を貸さない!」


「俺はここで死ぬと決めた!!」


トランヴェル

(笑わせるな!!お前は単になにかも投げ捨てて逃げたいだけだ!!そうやって仲間を見殺し、国を驚異にさらし、無駄に死ぬ!それが何をもたらすって言うんだ!?)


イト

「うるさい…」


トランヴェル

(お前は可能性を見捨て、ただ楽な方へ行こうとしているだけだ)

(世界のことを何一つ知ろうとしないでお前はただ死んでいくだけ………お前の知らない世界がここにあったというのに)

(何も手にせず、生きることから逃げて死ぬだけなんだよ……)


イト

「違う……違う俺は逃げていない!」


トランヴェル

(負けるとわかって続ける戦ほど無駄なことは無い……お前は最期の最期に諦めただけだ)


イト

「俺は諦めてなどいない!!」


イトはノーズの腕を斬り倒し、さらにノーズの目に剣を差し込む!


ノーズ

「ぐああああああああああああッ」


ノーズはあまりの痛さにミランダを手放し、その場でうずくまる…。


イト

「魔女の力だと………笑わせるな!!そんなものなくても………俺は勝てる!!」


次の瞬間、ノーズの腕が再びイトの腹を貫通する…!


イト

「がふッ…」


トランヴェル

(くそ……ダメだったか……)


イトは大量の血を口から吹き出し、剣を手放してしまう…。


イト

(ああ………駄目だ………)


(きっとこのまま…死ぬのだろう………)


イトは死ぬ寸前にフクロウの言葉を思い出す…。


(本当に俺は………何も成し得なかったのか?)


(俺は………)



ミランダ

「このッ!」


ミランダはイトを貫いた腕を魔法で切断し、彼を解放する。

彼女は左手で彼の体を修復しようと近づくが、またノーズの腕が彼女に襲いかかってきた。


ミランダ

「しつこい!!」


ミランダは右手をかざし腕を消し飛ばしていく。


イト

「……まだ生きているのか………俺は」


トランヴェル

(最後のチャンスだ………)


トランヴェルはもう一度イトへ話しかける……。


トランヴェル

(これでお前は死ぬことになるだろうが…満足したか?)


イト

(………)


トランヴェル

(お前に最後の選択肢をくれてやる……)

(ここで何も成し得ず野垂れ死ぬか……可能性を追い求めて魔女となるか……)


(好きな方を選べ)


イト

(俺は………)


イトはさっきまで死ぬつもりであったが、心のどこかで迷っていた。魔女になったらどうなるのだろうと考えていた。魔女になったら莫大な力をてに入れられる…さらに国に持ち帰ることができれば人類に貢献できる…。ただこの話が嘘で魔女になった瞬間、この意識が無くなるのではないかと疑念を抱いていた。人をただ殺すだけの残虐な存在になるのではないかと不安に思っていたのだ。ただこのまま死ぬより、魔女になる方が利点が多い気がしていた…。不安要素もあるが、僅かではあるが魔女になることについて多少好奇心も湧いてきたのだ。魔女になったらどうなってしまうのか…不安や疑念を取り巻く恐怖を感じつつ、期待や可能性を併せ持つ好奇心が彼の心に芽生えていた。


イト

(意識が遠退いていく…)


イトは覚悟する…僅かな可能性にかけることを。

魔女となって化け物を倒し、魔女の力を王国へ持ち帰ることを決意する。


イトの体が光出す…!


トランヴェル

(………やった!)


(もう駄目かと思っていたが……上手くいった!!)


イトの失った腕が再生していき、彼の傷が塞がっていく。


トランヴェル

(しかし……今更だけど男を魔女にすることってできるのか?)


トランヴェルは今になってイトを魔女にすることができるのか不安を抱き始めた。


トランヴェル

(今までは女性を魔女にしてきたが、よくよく考えれば男を魔女にするのは初めてだ……)

(一体どうなるんだ!?もしかして魔女じゃなくて魔王になるとか?)


トランヴェルの予想とは裏腹にイトの体の骨格が変形していく…!

イトの肩幅は狭くなり、腰の幅が広がっていく…!


トランヴェル

(な…!これは!?)


イトの胸が膨らんでいき、顔つきも女性らしくなっていった!


トランヴェル

(女体化したああああああああああああああああ!?)


バチバチッ…!


イトの体に火花がまとわりつく…。


トランヴェル

(これは……男の娘!?それとも……)


イトは閉じていた瞳を開ける…。

彼(?)は足下に手をかざし、魔方陣を出現させる…!

その魔方陣から剣が二本浮き出てくる…!

そしてその剣を握り、ノーズへと向かっていった…!

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