ルイの望み
「お前を売ったんだ」
時々この言葉を思い出す…。
あの日から私はもう誰も信じないと誓った。
一緒に戦ってきた仲間に突然裏切られ、私一人野ざらしにされたのだ。
今でも時々思い出しては怒りを感じ、心は傷つき、やるせなさを感じる。
そして今この時も……。
ルイは体全身傷だらけであり、息絶える寸前だった。
彼女は死に際に今までの人生を振り返る。
まず彼女は生まれながらにして親はいなかった。
そして保護施設にいたものの、自然災害により施設は無くなり、彼女を引き取ってくれるものは誰もいなかった。
そして窃盗団に入り、何とか食い次ぐものの、結局は魔女信仰協会へ売買されてしまう。
彼女は己の不遇を呪う……できれば人並みに生活して人並みに人生を送りたかったのだ。彼女は生きるために多くの人を騙してきたし、多くの物を盗んできた。生き残るために人を殺すこともあった。ただそんな中でも彼女は窃盗団の仲間が好きだった……窃盗団に裏切られるまでは……。
今死に際でも思い出す……団長の言葉を。
それほどまでに彼女にとってはかなりのトラウマであり、その経験から人を信じず、むしろ人を騙すことによって人生を豊かにすごせると考えるようになった程だ。しかし、今度は魔女信仰協会の神父キマリや教祖ダマにも見捨てられてしまう…。彼女は自分の人生を振り返れば、人を騙してはことごとく人に裏切られてきた。そして彼女は恨む…もはや人間そのものを信じられなくなっていった…。
ルイ
(なんでいつもこうなんだろう……)
(何故私はこうも人に裏切られる……?見捨てられるの……?)
ルイが悲観に浸っている間、さらに彼女のもとに危機が迫っていた。
一匹の化け物がルイへ近づいてきたのだ……。
その化け物は先程までイトと戦闘していたリケルだった。
リケル
「体がヤバい……」
リケルはイトと戦っている最中、カリアの魔法障壁によって吹き飛ばされ、多大なダメージを負っていた。体は崩れつつあり、自分の体を保てない状態だった。
しかしそこでリケルはルイを見つける……。
リケル
「おお…ここに肉がいるじゃないか」
リケルは己の体を修復するためにルイを捕食しようと近づいていく…。
ルイ
「ちょっと…嫌…やめて!こないで!!」
ルイは全身打撲な上に足が折れているため、身動きができない…。
リケルはルイを押し倒し、顔を食らいつこうとする!
ルイ
(どうして…どうしていつもこうなの……?)
(施設には出され、仲間には見捨てられ、行き着いた先は化け物の餌食……)
ルイはひたすら己の不遇を呪う…呪うことしかできないでいた。
ルイ
(もしそのまま災害がなく施設にいたら……もし魔女教会に売られず盗賊団にいれば……)
ルイは涙を流しながら、目をつぶり、死を受け入れる覚悟をした……。
ルイ
(…………)
(……)
(どうしたんだ……まだ襲ってこない……)
ルイは目を開けると、リケルは口を開けたまま、動かずにいたのだ。
ルイ
(……?)
リケル
「……ルイ?」
ルイ
「え……?」
リケル
「もしかして……ルイ…か?」
不思議なことに化け物はルイを知っているようだ。
ルイ
「この顔……どこかで…」
「……まさか」
ルイもこの化け物の顔を見て思い当たる節があるようだ。
ルイ
「……団長…?」
リケル
「…まさか…何でお前がここにいる!?」
ルイ
「団長……!?本当に団長なの!?」
リケルはオオカミのような顔をしているが、団長の顔の面影が残っていたのだ。
リケル
「話が違う……話が違うぞ……ダマ…!」
ルイ
「どういうこと……?どういうことなの!?」
リケル
「俺たちは…お前を巻き込まないために…ここまで…」
リケルの体が崩れていく…。
ルイ
「団長!!」
リケル
「ルイ……俺たちを許してくれ……俺たちは本当はお前を売ったわけではないんだ……」
ルイ
「え……」
リケル
「奴はお前が欲しかったんだ……だが俺はお前を引き渡すつもりはなかった…奴が多くの金を差し出しても俺はお前を渡すつもりはなかったんだ…」
ルイ
「団長……」
リケル
「しかしそれが仇となった……あの日、ダマは俺たちの仲間を教会へ連れて行ったんだ…そして次々と皆化け物の餌食にされちまった……」
「ルイを渡さなければ…残りの皆も殺すと脅された…」
「だが俺は奴には屈しなかった…そしたら奴はもう一つ条件を差し出してきたんだ……」
「俺がキメラの実験台となれば残りの仲間とルイを諦めるって言ったんだ……」
「もちろん俺は奴の言葉を信用していなかった……だから俺は拒み続けた…」
「しかし奴は諦めなかった……魔法使いを呼んで俺と契約魔法を交わすように仕向けてきたんだ」
「契約魔法は、もし両者の決めごとを破るようなことをすれば、その者は死に至るというものだ」
「もしダマが仲間を殺したり、お前を教会へ連れ込んだりすれば死ぬことになる……」
「俺は契約魔法なら信用していた……俺がキメラの実験台になる代わりに仲間たちには手を出さないという魔法契約を行った…」
ルイ
「そんな……」
リケル
「だから……だから何故お前がここにいるんだよ……!」
「どうして……」
ルイ
「団長……団長…どうしてあの時嘘を…」
リケル
「お前を巻き込まないためだよ……」
ルイ
「……!」
フオオオオオオオオオン……
リケルとルイが会話しているところに黒い魔方陣が出現する…!
そしてノーズとダマがその魔方陣から出現する。
ルイ
「ダマ…!」
リケル
「ダマ……お前……騙したな」
ダマ
「……は?」
リケル
「お前……俺との約束を破りやがったな!?」
ダマ
「誰だお前は」
リケル
「貴様……!?」
ルイ
「ダマ……お前……団長たちを……化け物に……したのか!?」
ダマ
「……あー」
「お前ルイがいた窃盗団の一人か」
リケル
「あの日……お前と俺は魔法契約を交わした…!何故約束を破ったお前が生きてるんだ…!」
ダマ
「契約?何のことか思い出せんな」
リケル
「貴様ああああああ」
リケルは怒り心頭となってダマへ立ち向かっていく!
しかし、ノーズの腕によってはたかれ、すぐさま地面に落とされてしまう……。
リケル
「逃げろ…ルイ……早く」
ルイ
「団長!!」
ルイは這いつくばってリケルのもとへ寄り添う…。
ダマ
「ふむ……感動の再会と言ったところか……」
「思い出したよ……そういや魔女契約を交わした奴だったかな……?」
「あんなもの魔法使いを殺せばどうということはない」
リケル
「殺した……だと!?」
ダマ
「契約魔法とは言え魔法の使用者を殺せば効果はなくなる」
「そんなこともわからないで簡単に契約したのはお笑いだ…」
ダマはリケルを上から見下し、笑みを浮かべる…。
ダマ
「二人仲良く霊界へ送ってやろう」
ノーズはダマの指示に従い、雷の魔法を唱え始める…。
リケル
「こっちに来るな……ルイ……お前は逃げるんだ」
ルイ
「嫌だ……団長…私は…」
ルイは力を振り絞ってリケルのもとへたどり着く。
彼女はリケルの手を繋ぎ、彼の顔を見つめる…。
ルイ
「最後の最後に…人の暖かさを感じられた…」
リケル
「ルイ……」
ルイ
「あなたのお陰で…最後は笑って死ねそう…」
「ありがとう……団長…私を助けてくれようとしてくれたんだよね……」
リケル
「ルイ……すまん」
ルイ
「謝らなくていいの……」
「最期に見つけた……人のぬくも……」
ドオオオオ!!
雷の魔法がルイとリケルに衝突する……。
ダマ
「下らん……」
ダマは痰を吐き捨て、ノーズと共にミランダたちを探しに行く。
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