トランヴェル第3の魔女
バチバチバチッ!
魔女信仰教会の地下で猛烈に破裂音が鳴り響いている……!
バチッ……バチッ…
そこには一人の少女が火花を身にまといながら立ちつくしていた。
少女
「あれ……生きてる」
先ほどまでこの少女は血だらけで死にそうだったが、
トランヴェルの力によって蘇ることができた…。
トランヴェル
(何とか間に合ったか……)
少女
「!!」
少女の目の前には黄金に輝く一匹のフクロウがいた…!
トランヴェル
(おめでとう……今日から君は魔女として生きることになる)
少女
「魔女……?」
「そうだ……あの時私は…」
少女は思い出す……数秒前の出来事を…。
地下に閉じ込められ、化け物に追われ、一度はなんとか逃げだすことができた。しかし、無慈悲なことに再度化け物に見つかってしまう。
そして体中を噛まれ、彼女は死に絶えるところだった…。
しかし、そこに突如黄金のフクロウが現れた。
不思議なことにそのフクロウは言葉を話し出したのだ。
いや、言葉を話すというより直接彼女の脳内に話しかけてきたのだ…。
〈魔女にならないか〉…と。
その時は何のことかわからなかったが、彼女はなんとしても生きたかった。もう一度母親に会うために死にたくなかったのだ。
そして生き残るために金色のフクロウに従い、魔女になることを約束した。
フクロウがまた少女の脳裏に語りかける。
トランヴェル
(名前は何て言うの?)
少女
「…ミランダ…ミランダ・サンドランド」
トランヴェル
(ミランダ……今の状況を理解できないだろうけど、君を魔女にして何とか一命をとりとめさせてもらった)
ミランダ
「私……助かったの?」
トランヴェル
(そうだ)
(ただ君が自分で了承した通り今日から魔女として生きていくことになる)
ミランダ
「……魔女?」
トランヴェル
「人間としての君は死んだ…そして今日からは魔女として生きていくんだ」
ミランダ
「……魔女と言われても…一体どうしたらいいの?」
トランヴェル
(うーんと……)
(確かに魔女になったからってそう変わることも無いだろうし……まあ人間の頃と同じ振る舞いをすればいいと思うよ)
ミランダ
(……)
ミランダは唐突な出来事についていけていない……。
彼女は状況把握をするためにトランヴェルに問いかける。
ミランダ
「あなたは…何者?」
トランヴェル
「私は人間だ…わけあって今はフクロウの姿になっている」
ミランダ
「人間…なの?」
トランヴェル
「そうだよ…まあ今は信じてもらえないかもしれないけど」
ミランダ
「あなたは私を魔女にしたの?」
「何故…私を生かして魔女にしたの?」
トランヴェル
(君を生かしたのは見殺しにしたくなかったからだ)
(瀕死な状態の君を助けるためには魔女にする他なかったんだ)
ミランダ
「どうして魔女なの…?魔女になるとどうして体が治るの……?」
トランヴェル
(自分でもわからない…どうして自分は人間を魔女にすることができるのかわからないんだ…)
ミランダ
「……え?」
トランヴェル
(以前も瀕死な人間を魔女にすることによって生き返らすことができた…恐らく魔女として生まれ変わることから体が修復されたんだと思う)
ミランダ
「……もしかして魔女ってあなたが生み出してるの?」
トランヴェル
(いや……魔女は自分がこの世界に来る前から存在していた…それに人間を魔女にする能力を身に付けたのはつい数日前なんだ…)
ミランダ
「……?」
トランヴェル
(何を言っているかわからないと思うが…とりあえず私は君を助けるために君を魔女にしたんだ…)
ミランダ
「……私が…魔女」
トランヴェル
(そう……魔女…強力な魔法を放てるようになったはず)
ミランダ
「うん……なんとなくわかる…今までの自分とは勝手が違う…」
ミランダは壁に向かって右手を添える。
ミランダ
「こうかな?」
ミランダの右手から魔法が放たれた…!
ドオオオ!!
壁は跡形もなく消えて無くなった。
ミランダ
「す…」
「すっごーい!!」
「この力があればさっきの化け物を倒せる!!」
ミランダは自分の編み出した魔法に感激し、ピョンピョン跳ねた。
ミランダ
「ねえ…あなたは人間じゃなくて神様か何かじゃないの?」
トランヴェル
「……残念ながら神ではない」
「というか自分でも自分が何者なのかわからない」
ミランダ
「何それ!さっきから何一つわからないじゃない!」
「もしかして私を魔女にして人間を襲わせようとしているんじゃ…」
トランヴェル
(それは無い)
(むしろ逆かもしれない……)
(君は魔女になった…よって人間に襲われる可能性があるんだ)
ミランダ
「!?」
トランヴェル
(魔女は人間にとって脅威でしかない…君が魔女であることがばれてしまったら、きっと人間は君を殺しにかかってくるだろう)
ミランダ
「そんな……」
トランヴェル
(でも大丈夫…普通にしていれば人間の社会に溶け込めるはず…見た目は人間と変わりないからね)
ミランダ
(……)
ミランダは話を聞いてもいまいち状況を掴めずにいた。
そして何も答えようとしないトランヴェルを怪しく思い、
何かよからぬことを企んでいるんじゃないかと疑った。
ミランダ
(このフクロウを信じていいのか…いや…多分都合のいい話は無い…)
(命が助かった上、魔女の力を得た……これに対して何も代償が無いはずが無い)
(もしかしたらこのフクロウのいいように使われるかもしれない…)
(世の中には絶対都合のいい話なんて無い…何か裏があるはず)
トランヴェル
(まあ色々とわからないことが多いと思うけど、徐々に話していきたいと思う…)
(取り敢えずここから脱出しようか)
ミランダ
(……)
ミランダはトランヴェルを疑いつつ、警戒しつつ、先へ進むことにした。
トランヴェル
(あ…!ちょっと待って!!)
トランヴェルがミランダを引き止める。
ミランダ
「……どうしたの?」
トランヴェル
(うん……そこに倒れているフクロウを担いでほしいんだ)
トランヴェルの羽が指す方向にはトランヴェルの体が横たわっていた。
トランヴェル
(わけあって今の自分は体と精神が別れているんだ)
(この体を持っていってくれないか?)
ミランダ
「あなた……本当に不思議な存在ね…体と精神が分裂したの?」
トランヴェル
(分裂というか…わけあって今の私の体は魂と分離しているんだ)
ミランダ
「魂と分離?わけがわからない…」
トランヴェル
(今君が見ている黄金のフクロウは私の魂だ)
(そして地面に這いつくばっているのが私の体だ)
ミランダ
「…はあ」
ミランダは不思議そうにトランヴェルを見つめる。
トランヴェルは再び自分の状態について説明する。
トランヴェル
(実は人間を魔女にするときは必ず魂と体を分離しなきゃいけないんだ)
(体からこの黄金の姿を出して、それから人間を魔女にすることができる)
ミランダ
「……」
ミランダは黙ってひたすらトランヴェルの話を聞く。
トランヴェル
(ちなみに今の私の姿は私が魔女にした者しか見ることができない)
(周りからはこの黄金の姿が見えないんだ)
(見えるのはそこの横たわっている体だけ)
ミランダ
「そうなんだ…」
トランヴェル
(申し訳ないけど…担いでもらっていい?)
ミランダ
「元に戻ればいいんじゃないの?」
トランヴェル
(戻りたいのは山々なんだが……一度戻ってしまうと君と会話することができなくなってしまう)
(この黄金の状態じゃないと君と会話ができないんだ)
ミランダ
(何それ…変なの……)
「じゃあ喋りたいときもう一度分離すればいいんじゃない?取り敢えず元に戻ったら?」
トランヴェル
(残念ながら何度も体と魂を分離できないんだ……1日1回のみなんだよ)
ミランダ
「あー!もうめんどくさい!!」
ミランダは髪を手でかきむしる!
ミランダ
「もう担いで行けばいいんでしょ!」
ミランダはカッカしながらトランヴェルの脱け殻に早足で向かう。
トランヴェル
(なんで怒りだしたんだ…?)
ミランダは両手でトランヴェルを持ち上げ、体の手前で抱き締めた。
ミランダ
(…あれ)
(なんかモフモフしてる……もっとゴワゴワしているのかと思った)
黄金のトランヴェルはミランダに向かって飛び立ち、彼女の肩にとまった。
ミランダはトランヴェルが自分の肩にとまったものの全く重さを感じないため不思議に思った。
ミランダ
「あれ……全然重さを感じない」
トランヴェル
(まあ精神だしな……物理的な重さは無いよ)
(さあ…早くここからでよう)
ミランダ
(……)
ミランダはトランヴェルを警戒しつつ奥へと進むことにした。




