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トランヴェルの魔女 -人間を魔女化し、世界を解読せよ…-   作者: fujiヤマト
誰もが己に神を抱いた時代
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希望の謳歌

「どれほど月日が流れたんだろう」



気づけば私はツクヨミ国の病院にいた。

魔氷に流されてから一切記憶はないが、

長い夢を見ていたようだ。


私はしばらく入院し、そして歩けるようになるまで回復した。

病院には私以外にも大勢の人たちが入院していた。

そしてその中に妻のソフラがいた。

私はソフラが無事でホッとした。

あの魔氷でもう駄目だったんじゃないかと思ったが、彼女は生きていてくれた……。

しかし、アイナの姿はそこにはいなかった……。

病院で探しても探しても見つからない。

先生に聞いても見つからない。

他の病院を探してもアイナを見つけることができなかった……。


しばらく病院で生活していたが、だいぶ体調は良くなった。

そして妻ソフラと共に退院することが決まった。

翌日、騎士団員からアイナが生きていることを聞いた。



「アイナは生きている」


その言葉を聞いた瞬間、私もソフラも喜びに満ち溢れた……!

そして暫らくして、肩の荷が下りた。

喜び疲れたのか、暫く呆然としていた。


退院当日、私たちは退院の手続きを済まし、病院の外へと出る。

すると、そこには……。


アイナ

「パパ!ママ!!」


ソフラ

「……!」


オードリー

「……あ……アイナ」


玄関の前にはアイナが立っていた。


アイナ

「おかえり」


オードリーたちの前には背丈が伸びた成長した娘が立っていた。

アイナはオードリーとソフラのもとへ走る。


オードリー

「アイナ!」


アイナも両手を広げて、オードリーとソフラを抱きしめようとする。

オードリーとソフラは身をかがませ、アイナを両手で抱きしめる。


アイナ

「パパ……ママ……」


オードリー

「アイナ……」


ソフラ

「アイナ……よく無事で……ああ……」


しばらく3人は抱きしめあったまま、その場に居座った。


その様子を遠くからミランダとコーネリアは見守っていた。


ミランダ

「よかったね……アイナ」


コーネリア

「あの子はもう大丈夫だね」

「きっと幸せに生きていけるわ」


オードリーとソフラはミランダたちにお礼を告げる。

アイナは先程まで大喜びしていたが、突然悲しげな表情へと変わる。


ミランダ

「アイナどうしたの?」


アイナの涙が、嬉し涙から悲し涙へと移り変わる。


アイナ

「ミランダあああ」


アイナはミランダに抱きつく。


アイナ

「ミランダと別れるのが嫌……」


ミランダ

「アイナ……」

「大丈夫だよ。また会えるよ」

「アポロ市なら近いし、いつでも行けるよ」


アイナ

「また会える?」


ミランダ

「もちろん!」


アイナ

「約束だよ」


ミランダ

「うん!約束」


ミランダとアイナはお別れを告げ、アイナたち家族は馬車に乗り込み、アポロ市へと帰っていった。

別れ際、アイナはミランダとコーネリアスに手を振る。

ミランダとコーネリアスも笑顔で大きく手を振り、アイナを見送る。


アイナを乗せた馬車は遠のいていき、やがて見えなくなった。


コーネリアス

「……私たちも帰ろう。ミランダ」


ミランダ

「うん……」


ミランダとコーネリアは家へと向かう。

アイナは寂しそうに遠ざかっていくミランダたちを見つめる。

暫らくしてアイナはオードリーとソフラの手を握り、やがて眠りにつく。


オードリー

「アイナ……見ないうちに大きくなって……」


ソフラ

「そうね……」


アイナは夢を見る。


その夢では、パンドラの箱が開かれ、

世界中に災いがもたらされていた。

アイナは災いに満ち溢れた世界にただ一人ぽつんと立っていた。

災いは瞬く間に広がり、世界は闇雲に包まれる。

絶望一色に染まった世界。アイナはただひたすら災いと戦い続ける。

パンドラの箱の底には希望はおらず、災いがさらに拡大していく。


しかし、アイナの心の中には一筋の光が溢れていた。

光はわずかに少しずつ広がっていく。

周りにはミランダやクエリ、トランヴェルたちが姿を見せる。

そして各々の心に光を宿らせ、次第に光が合わさって広がっていく。

その光は徐々に徐々に闇を塗り替えていき、

やがて世界から災いは消滅していった。


「トランヴェル……」


アイナは寝言をつぶやく。


「また……会おうね」






ミランダ

「……はあ」


ミランダとコーネリアスは家に帰宅し、椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。



コーネリアス

「アイナがいなくなって寂しい?」


ミランダ

「それはそうだよ。寂しいよ」

「歳の離れた妹のようなもんだし」


コーネリアス

「そうよね。私も実の娘がいなくなってしまったようで寂しいわ」


ミランダ

「そうね……」

「でもまあ、アイナもご両親に会えて良かった」


コーネリアス

「本当に良かったね」

「あの時…何だか途中で私も涙くんで来ちゃって」


ミランダ

「うんうん」

「私もアイナに抱きつかれた時は涙が堪えきれなかったよ」


コーネリアス

「そうよね。もう何だかね……」


コーネリアスは流れ出る涙を拭い取る。


ミランダ

「あはは……私もまた涙くんで来ちゃった」


ミランダとコーネリアスはしんみりとしながら、コーヒーをすする。


その後、彼女たちは、いつものように食事をして、寝支度して、そして就寝する。


ミランダはベッドに入り、物思いにふけていた。


「アイナ……本当に良かったね。今頃お父さんお母さんと楽しく過ごしているところかな」

「今までずっと一人で頑張ってきたんだもんね」

「本当にアイナは凄い子だった……。あの子は最後まで必ず両親に会えると信じていた」


「どんなに絶望的な状況でも、アイナの心はいつも希望に満ち溢れていた」

「……私も見習わないとね」


「……あーでもやっぱり寂しいな」

「昨日まで一緒だったのに……」


ミランダは寝付けず、寝返りを打つ。


「皆今頃何してるんだろう」

「ララもカリアも」

「ペルー村で元気にやってるのかな」

「あー…皆に会いたいな……」

「また会いに行こうかな」


ホーホー……


外でフクロウの鳴き声が聞こえる。


ミランダ

「フクロウの鳴き声……?」


ミランダはベランダに向かい、カーテンを開ける。


ミランダ

「何も見えないや……」

「フクロウ……か」

「トランヴェル……あなたも今頃幸せに過ごしているのかな?」

「アイナも私も、皆もそれぞれ楽しく過ごしているよ」


「トランヴェル。あなたにもまた会いたいわね」



ミランダは夜空を見上げ、真ん丸に輝く月を見つめる。


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