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多額の金

魔女信仰教会に多くの信者たちが集う。

今日は月に一度の集会の日。

信者たちはここで魔女との交信を取ることになっている。

しかし魔女が直接信者たちにお告げをするのではなく、

代行者を通じて行われるのだ。

代行者の名前はルイ・イナルガ。

年齢は不明だが14歳ぐらいの少女だ。

彼女は元々両親から捨てられ、物心つくまでは保護施設にいた。ある日、突如発生したトルネードの災害によって、保護施設はおろか、街全体が荒廃してしまった。

ルイは何とか生き延び、病棟で保護されたものの、退院後行き先が無かった。

彼女が行き着いた先は路地裏に集う窃盗集団だった。

自分と同じ境遇であった仲間たちと共に窃盗を犯し、

また薬物密輸の手伝いをして何とか食い繋いでいた。

そして幸いにも彼女は容姿が良かった。

とてもスラム街で育ってきたとは思えない。

あまりにも可憐な少女であったため男仲間からは一目置かれ、

仕事も手際が良いため仲間からは多大な信頼を置かれていた。

しかし、彼女は盗みをしていく中、だんだん窃盗の仕事自体がバカらしく感じてきた。盗んだ物の値打ちが高いため、盗みの仕事をして稼ぐよりも盗んだものを我がモノにして売ったほうが楽に暮らせると考えていたからだ。それから彼女はやっていくうちにまた違った感情が彼女の中で芽生えた。盗みそのものよりも共に死線を乗り越えてきた仲間たちとの日々が大切に思えてきたのだ。

彼女は徐々に人生観が変わっていった。お金や仕事よりも仲間と過ごす時間の方が大事であると思うようになったのだ。


ある日、いつものように仲間と共に窃盗をしていたルイは魔女信仰教会の教祖ダマと出会う。その時のダマは依頼主であり、ルイにとっては単なる客でしかなかった。

ダマは何度かルイの所属する窃盗集団に仕事の依頼をしていた。そしてダマはルイの容姿端麗さと仕事の手際よさから彼女を魔女信仰教会にいれたいと思うようになっていた。ダマは彼女を譲って欲しいと窃盗集団に頼み、多額の金を窃盗集団の長に差し出した。

しかし、この時の窃盗集団の長は彼女を譲ろうとしなかった。

彼女はこの集団にとって花であり、仕事の戦力でもあったのだ。

ルイ自身も窃盗団から離れるつもりは全く無かった。多額の金を積まれても自分は売られるはずがないと思っていた。もはや自分たちは家族であり、お金で売られるようなことは絶対に無いと彼女は思っていたのだ。

次の日、彼女はいつものように窃盗の仕事をしていた。

仕事が完了し、アジトへ帰ろうとした矢先、魔女信仰教会のダマに声をかけられる。彼は彼女にこう言った…

「今日から君は我が魔女信仰教会の一員だ」と。

「君の売買が成立した」と。


彼女はダマの言葉を信じなかった。

そんなはずはないと叫んだ。


「ならば確かめてみるといい」と

ダマはニヤッと笑いながらルイにいい放った……。


彼女は急いで帰る……アジトへ走って帰った。

しかし、アジトに帰ってみればそこには誰もいなかった。

ルイは探した……仲間を。自分を売るはずがないと…そう信じていた。


結局、誰も見当たらず、諦めてアジトの外に出たが、

何故かそこには団長の姿があった。


ルイ

「団長!……皆は…どこへ?」


団長

「皆はもうこの国から出ていったよ」


ルイ

「…どういうこと!?」


団長

「悪いな…ルイ…じゃあな」


ルイ

「ちょっと…どこへいくのよ!?」


団長

「今までありがとうルイ…お陰さまで皆この仕事から足を洗えた」


ルイ

「…!」


団長

「悪い…お前を売ったんだ」


ルイ

「え……」


団長

「じゃあな!」


ルイ

「嘘……嘘よ…」


ルイは呆然と立ち尽くしていた。

そして団長の言葉を疑う…。


ルイ

「何かの間違いよ……」


しかしここで立ち止まっても一行に答えはでない。

何かの間違いだと自分に言い聞かせるものの、

考えれば考えるほど自分を売って他国へ逃げたんだと思ってしまう。

彼女は次第に涙が溢れていった。

そしてその涙は怒りへと変わっていく…。


ルイ

「殺してやる…」


彼女は次第に怒りから憎しみの感情へ転じていった。


ルイ

「殺してやる!」


彼女は思った。

人間なんてものはお金や誘惑には絶対に勝てないと。

彼女は学んだ。

友情も愛情も仲間という概念もこの世には無いということを…。

ルイはそれ以降団長と会うことはなかった。後から聞けば団長たちは多額の金でアポロへ行ったそうだ。

彼女は誓う…。もう人は信じないと。

彼女は誓う…。絶対にこの宗教で「多額の金」を稼ぎ、誰よりも幸せになってやると誓う。


毎日毎日集う信者たちを見て彼女は思った…。

こいつらは単なる馬鹿でしかないと…。

魔女信仰なんて仲間という概念より更に下らないものだ。

そんな下らないものに全てを捧げているこいつらは人に践まれるだけの下衆な存在だと見下していた。


ルイ

「……」


ルイは明日行われる集会でスピーチする内容を熟読している。

信者たちのためにありがたい魔女の言葉を告げるため……。


ルイが熱心に読んでいるなか、どこから来たのか一羽のフクロウが教会に入ってきた。


ルイ

「……フクロウだ……」


フクロウは教会の中を飛び回り、まるで誰かを探しているかのように鳴き声をだし続けていた。


ルイ

「うるさい鳥だな……出口探してるのか?」


そのフクロウは飛び回り、やがて教会から出ていった。


ルイ

(……このへんにフクロウなんているんだな…)

(もうだいたい暗記できたし、帰ろうか)


ルイは紙を降り立たんで席を立つ。

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