緊急会議1
人類が宇宙へ進出してから100年近く経とうとしていた。
人口が増え、月や火星へ移住し、年々地球から宇宙へ進出する者が増えてきた。
地球では国の概念が希薄になっていた。というのは、月人、火星人が誕生したからだ。
月人、火星人はそれぞれ地球とは異なる人種として独立していた。
この頃の月人、火星人は、体内にAIを取り入れていた。
正当な行動ができるように予測し、機械が客観的な判断を下して、その結果を脳内にインプットさせることができるのだ。
宇宙へ進出した人類は過酷な宇宙の環境へ適応できるように、このAIの予測を参考に行動を起こしていた。
やがてこの体内に内蔵していたAIは宇宙環境に触れるにつれ、月人、火星人を大きく変化させることになった。
宇宙進出から約20年後、彼らは体内のAIで未知なるエネルギーを蓄えていることに気づいた。
そのエネルギーの名前はSEという。
宇宙進出した人類の体内を調べて、新たに発見したエネルギーだ。
科学者たちは、このSEを人間の体内から取り出し、研究を始めた。
研究を重ねるにつれ、このエネルギーはあらゆる物質を生成することができることがわかった。
特に火や風、水など自然エネルギーの生成が容易にできる。
彼らはこのSEを使って火を起こしたり、風を生成したり、水を生み出したりすることに成功した。
さらに10年後、このSEはとんでもない力を秘めていることを発見した。
人間が想像した物をそのまま具現化する性質を持っていたのだ。
例えば、火を脳内でイメージすると、掌から火を生み出すことができる。
理屈としては、人間の脳でイメージしたものが、体内に内蔵しているAIを介して
SEと直結し、体外に放出することができるといったものだ。
彼らは体内に内蔵しているSEを使用して、火や水を放出できるようになっていた。
さらに作物の生成過程を想像できれば、その作物をつくることもできる。
物を作らなくても、一人で想像したものをすぐにその場で生み出すことができる
このSEによって、文明が大きく変化していった。
常人離れしたその進化に、月と火星人は地球人より優れた存在へと変わっていった
次第に物、エネルギーだけでなく、新たな生命、一度死んだ生命もつくることができる者が出てきた。
急速に進化した火星人、月人は従来の人間を遥かに凌駕していたことから、
彼らは自らを新人類と名乗るようになった。そして地球に住む人類を旧人類と呼称するようになった。
時代が進むに連れて、新人類と旧人類の二分化が更に加速した。
デザイアの予測では、人類の二分化が進むにつて、戦争が起こることが示唆された。
そして戦争が起これば、旧人類が新人類に滅ぼされることが懸念されたのだ。
そこで、人類は、旧人類と新人類に僅かでも共通管理できるように第3機関を作り上げた。
その機関がデザイアである。
デザイアは高性能AI。かつ多くの人間の脳を取り入れた無機物生命体。
デザイアの役目は人間をさらに豊かにすることだ。
人間の計画、行動をデザイアが判断し、人間に対して正しい判断を下すことが仕事だ。
これは新人類であろうが、旧人類であろうが、重要な政策、法律、研究を行う場合は、必ずデザイアから承認を得らなくてはならない。
特に新人類は、デザイアの許可無く、生命を生み出すことは禁止されていた。
生命を悪用することを防ぎ、また資源を圧迫することを防いだ。
生き返らす、もしくは新たな生命を産み出すには許可が必須となり、許可を得るために相当な理由が必要となった。
デザイアの役割はもう一つある。それはやはり旧人類の保護である。
新人類に滅ぼされないように、新人類に制限を設け、歯止めをかけているのだ。
こうして人類は、宇宙進出した新人類と地球に残った旧人類と二分化し、
デザイアという第3者の機関を介して存続していた。
地球政府の会議が始まった。
まず最初に地球外移住計画についてだ。
この計画は、大きく2つに分かれている。
一つは人工惑星計画、もう一つは月と火星への移住計画だ。
最初はマーカスから人工衛星プロジェクトについて進捗の話があった。
マーカスは人工衛星プロジェクトの責任者の一人だ。
この会議に出席しているメンバー全員の目に資料が表示される。
その資料には先程カミヤたちがここまでの道中で見た人工衛星が載っていた。
マーカス
「人工衛星プロジェクトは現在2基、3基の製造にあたっています」
「完成は来年2月を予定しています」
「また新たに23基の製造計画を立案しました。承認はマザーからすでに得られています」
「この計画も並行して来月から着手していく予定です」
ギルバート
「23基……大分増えてきたが」
「それでも本来の計画には大きく遅れが生じているな」
マーカス
「はい…。もし仮に30億以上の人を移住させる場合、今後1000基は最低でも必要です」
「現段階で人工衛星に来たのは約3千人。富裕層が優先して移住することになっています」
「多くの人類を移住させるにはもっと別のやり方で計画を進めなければ、実現は不可能な状態です…」
「さらにここ最近、また新人類過激派の武力介入が起きています…」
ギルバート
「ラクティスによる被害について報告も願う」
マーカス
「はい。先日、人工惑星2号基の建設中に、爆弾を仕掛けられた事件がありました」
「現場では幸いにも死者は出ませんでしたが、人工惑星は半壊」
「計画がさらに遅延することになりました」
世界各国のトップたちがどよめき出す。
トップA
「ただでさえ進捗が思わしくないのに、こうもテロ行為を受けては…一体どうしたらいいものか」
トップB
「ラクティスを何とか抑えられんのか」
トップC
「月、火星政府に要請は出しているのか!?」
様々な意見が飛び交う。
その後も議論が繰り広がり、一向にまとまる様子は無い。
マーカス
「恐らく今後もラクティスによる襲撃は増えていくことが予想されます」
「現に月や火星でも地球人類が移住していることに反対する者は多くいます」
「いくら地球政府がラクティスを攻撃しても、今後テロ活動は収まることは無いでしょう…」
マスズ
「何故そんなに地球人の受け入れを拒むのかしら……?」
ユニ
「地球人が来ると貴重な資源を減らされることが問題らしい」
「現にデザイアは地球人類が月や火星に移住することで、あらゆる面で月、火星人に悪影響をもたらすと結論を出している」
マスズ
「そんな……デザイアがそんな結論を……」
この後も何度も議論を重ねていくが、解決策は見当たらない。
人工衛星プロジェクトに関する議論は一旦中断し、他のプロジェクトの進行具合を確認することになった。




