誰もが神になれた時代1
漂白の世界に白衣を着た二人の男女が立っている。
女性は等身大の人形の脇を両手で持ちあげる。その隣で男性はその様子を見ている。
二人はどうやら人形を使って何か試しているようだ。
男性の名前はユニ。そして女性の名前はマスズという。
マスズの手から電気が流れる……!
バチバチ!!
人形は電気を浴びて、痙攣を起こす!
マスズは人形から手を離す。
すると、人形は一旦倒れるものの、すぐに自力で立ち上がる。
ユニ
「ここまでは順調だな」
マスズ
「問題はここからよ」
「さあ……歩いてみなさい」
マスズの指示に従い、人形が歩きだす。
人形は7歩ほど歩き、そして立ち止まる。
人形は両手を前に出し、両手から電気を発生させる…!
バチバチ!!
手と手の間に火花が散り、小さい粒子が集結していく。
やがて粒子は大きくなり、両手で持てるぐらいの箱が、出現した!
ユニ
「やった!」
マスズ
「いや……待って」
小さい箱ができたものの、人形が突然倒れてしまった。
転倒した人形は地面にぶつかり、バラバラに砕けてしまった!
マスズ
「まだダメね」
ユニ
「でも前より進歩がみられる。あと少しだ」
マスズ
「そうね……きっと問題は受け皿の方にあるわ」
「モデルの外枠をもっと強固な物に変えてみる」
ユニ
「その前に一旦休憩しよう。長丁場は体に毒だ」
ユニは片手を挙げて、指を鳴らす。
パチンッ!
すると、漂白だった世界はガラリと真暗な世界に移り変わる。
そして、先程までは無かった机や椅子、大きな機材がその部屋に出現した。
さらに地面にはバラバラになった大量の人形が転がっていた。
マスズ
「ふう……」
マスズは両手を背中に回し、グイッと体を仰け反り、体を伸ばした。
ブオン……
ユニたちの前に、突如扉が出現する。
ユニ
「ん?」
扉から一人の男性が現れた。
カミヤ
「どうだい進捗は?」
マスズ
「カミヤさん」
ユニ
「まだまだ。30%といったところか」
カミヤ
「サンプルの提出は?」
ユニ
「昨日マスズが提出した」
カミヤ
「ギリギリだな……会議までに間に合うといいんだが」
ユニ
「大丈夫さ。あの内容ならデザイアもすぐ承認してくれる」
カミヤ
「頼もしいな。それはそうと、そろそろデュプリへ向かうぞ。会議に間に合わなくなる」
マスズ
「もうそんな時間?」
カミヤ
「あと一時間だ。準備を急げ」
マスズ
「嘘!?まだ2時間ぐらいしか経ってないと思ってた……」
「ちょっとすぐ着替えてくるね」
ユニ
「ここにいると時間がわからなくなるからな……」
「カミヤはそこで待っててくれ」
カミヤ
「そんな悠長に待ってられないぞ」
「列車も15分発のに乗るからな!」
ユニとマスズはその場から一瞬で姿を消す。
どうやら他の場所へ移動したようだ。
カミヤ
「全く……今日は重大な会議があるというのに」
「どうしてこう科学者は時間にルーズなんだ……」
カミヤは椅子に座ってユニたちを待つことにした。
彼は辺りを見渡す……。
この部屋全体が宇宙空間のように真っ暗で、所々小さく輝く星たちが見える。
まるでプラネタリウムを見ているようだ。
そして、部屋の天井には沢山のコードが陳列している。
そのコードは部屋の奥にある半径1.5m程の地球儀に直結している。
そして地球儀の真上には月らしき球体が一つ。更に離れたところに太陽のような球体が一つ設置されている。
更に背後には複数モニターがあり、それぞれのモニターに様々な土地、建物、歩道など映し出されていた。
そのモニターは、上空から地上を映し出しているようだ。
カミヤ
「……これが生命プログラムか」
カミヤはモニターをじっと見る。
モニターに映し出されていた歩道に多くの人が歩いている。
カミヤ
「本当にこの小さな惑星にこの人間たちがいるのか……未だに信じ難い」
「こうも簡単に宇宙や星を作れるとは……神もビックリだな」
「きっとこれからユニの生命プログラムは世界に浸透してくだろう」
「誰もが星を簡単につくり、生命を産み出すことができる」
「誰もが神そのものになれるわけだ」
「……本当に恐ろしい時代になったものだ。神という存在は人間そのものになってしまったのだからな」
カミヤは目を黄色く光らす。
そして彼は心の中でコーヒーとつぶやく。
すると、目の前にコーヒーが入ったカップが出現する。
彼はそれを手に取る。
コーヒーをすすりながら、周りの宇宙を見渡す……。
カミヤ
(宇宙へ進出した辺りから人類は大きく変化したわけだが……)
(もはや生命をつくれるまで来ると、人智を超えた世界になってくる)
(もう今の地球政府の法律、道理、倫理観では取り扱うことができない)
(もし地球が崩壊寸前で無ければ、地球人類はさらに発達が遅れていただろうな…)
(ある意味、この地球最大の危機によって地球人類は大きく進化できるわけか……皮肉だな)
カミヤはコーヒーを飲みきり、カップを手放す。
すると、カップは一瞬で消えた。
次に彼は心の中でニュースとつぶやく。
すると、彼の耳にどこからか音声が聞こえてくる。
音声
<続いて地球復興プログラムについてニュースです。本日は地中海を中心に復興作業が行われました。現在約20%が進行中です>
<本日の成果で4.5日延命されました。引き続き明日以降も地中海で活動を進めるとのことです>
カミヤ
(……どう考えても無理があるな。地球復興はジリ貧だ。気休め程度にしかならない)
(もう進捗状況を放映しないほうがいいんじゃないか?)
音声
<続きまして、先日の人工惑星2号基襲撃事件につきまして>
<首謀者が月連盟所属のラクティスのメンバーであることが判明しました>
カミヤ
「……ラクティス。やはり月の連中か……」
音声
<ラクティスは地球人類の月への移住を反対している組織です>
<過去に何度か月内でテロを起こしたこともある武装組織でもあります>
<今後も人工惑星2号基の建設中にテロ行為があることが想定されます。地球政府は早急にテロ対策を行うとのことです>
カミヤ
(ラクティスの奴らは月への移住を反対している割に人工惑星を襲撃するとは……)
(あまり理に適ってないな。月に住ませたくないというより、地球人類を滅亡へ追い込みたいようだ……。かなり悪質なテロ組織だな)
(今日の会議もこのテロ対策でほとんど時間を使うことになるだろう)
(しかし、これは逆にチャンスだ。我々のプロジェクトを正式に採用してもらうチャンス)
(後はデザイアから承諾を得られれば確実なんだか…)
(人間が神に追いついたとは言え、こればっかりは神頼みになるな)
(神という概念は消えると思っていたが、やはりまだまだ人間は神の手の中というわけか)
フィィィィィン!!
カミヤのいる部屋にユニとマスズが戻ってきた。
マスズ
「おまたせ~」
カミヤ
「準備できたか。時間が無い。早速行くぞ」
ユニ
「デュプリで世界会議に出席するのか?」
カミヤ
「そうだ。今日の会議はセキュリティ上、ここからは参加できない」
「一番近場なのはデュプリなんだ」
ユニ
「デュプリか……初めて行くな」
「すぐ着くのか?」
カミヤ
「列車で10分だ」
ユニ
「そうかい。わかったよ」
マスズ
「じゃあ、転送装置作動させるよー」
カミヤたちは転送装置を使って部屋を出る。
彼らが転送した先は駅のホームであった。
ホームには列車が停まっていた。
その列車の名前はトランヴェール。緑色の列車だった。
スズとユニとカミヤはトランヴェールに乗り込む。
スズたちは座席へ向かうと、緑色の列車は出発し始める。
この列車の行き先は人工惑星1号基のデュプリだ。
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
列車はホームから空へ上昇していく。
やがて宇宙に出て、地球から離れていく。
ユニは窓から宇宙を眺める。
そして赤く変わり果てた地球を見つめる。
地球のあちらこちらで黄色い火花がわずかにチカチカと光る。
マスズ
「……後何年持つんだろうね」
真っ赤に染め上がった地球を見て、マスズはポツリとつぶやく。




