ソフィア1
気づけば、私は魔女としてこの世に存在していた。
魔女は自分がこの世界に生まれた記憶を持っていない。
人間や動物のように子供時代などはない。幼い頃の記憶なんてものは存在しない。
気が付けば、この世界にいたのだ。まるで初めからここにいたように。
我々がいるこの場所は”魔女世界”と呼ばれてる。
そして、この魔女世界には多くの魔女が住んでいる。
魔女とは魔法を使う生命体である。
魔法はあらゆるものを創造することができる。家も衣服も食物もつくることができる。
自ら望んだもの、自ら創造したものをすぐにその場で創れる優れものなのだ。
しかし、唯一魔法でつくれないものがある。
それは新しい命。魔女はモノを創造することはできるが、新しい生命を生み出すことはできないでいた。
されど、不思議なことに一度死んだ命は蘇らせることができる。
つまり、魔女は"既存のモノ"なら何でも創造できるが、"既存にないモノ"は生み出すことができない。
そのため、魔女たちは悩んだ。魔法で新しいモノを生み出すことができないのかと……。
そして考えた。新しいモノを生み出せるように、魔女同士で力を合わせようと……。
そこで最古の魔女であるユニオンは、"魔女会"という小集団の文化を生み出した。
魔女会は魔女が新たな創造を行う目的で結成された集団のことだ。魔女は皆、どこかしらの魔女会に属することが義務付けられていた。
魔女ユニオンとは最古の魔女であり、この世界を作った賢者である。
彼女がこの魔女世界の規律を定めていた。
ユニオンの容姿は老婆であり、大ババとも呼ばれていた。魔女は容姿を変えることはできるものの、あえてユニオンは老婆の姿にしていた。
魔女会制度を設けてから、魔女たちは力を合わせて、沢山の新たなモノを生み出していった。
彼女たちが生み出したものは、新たな魔法、架空の生物(例えば龍など)が多い。
個人の想像を超えた、未知なるものを生み出す。それが魔女たちの生きる目的であり、そして魔女たちの評価基準でもあった。
魔力、そして魔法で生成した創造物によって魔女たちは比較される。その比較は年に一度行われる。
その尺度で魔女たちは上級、下級と大きく階級を分けられる。
上級の魔女は上級職として魔女世界を運用する権限を与えられる。
それに対して下級魔女は行動範囲が制限され、入れる魔女会も限られてしまう。上級魔女に比べて自由が少ないのだ。
下級と認定された魔女は周りからの扱いも悪く、生きていくことに最も苦しみを感じる。
下級魔女が上級へあがるには相当難しく、そのため、上級へ成りあがった魔女はほんの一部しかいない。
そのためか、下級魔女は劣勢な立場に耐えきることができず、自らの命を絶つものが多い。
私は幸いにも氷の壁の開発により、上級魔女として認定されていた。
氷の壁はあらゆるものを絶対的に凍らせる魔法だ。この魔法は、魔法実験を行う魔女たちに好評であり、多くの魔女たちに大きく貢献することができた。
その貢献から、私は魔女ユニオンの魔女会に属すことを許された。
ユニオンの魔女会は最高級のクラスだ。
どの魔女会よりも名誉が高く、絶対的な権力を持つ。
私はこの時、最高に幸せを感じていた。まさか私が最高級の魔女会に所属できるなんて夢にも思っていなかったからだ。
まるで本当に夢のようだった……。私はあまりの嬉しさに飛び跳ねていたことを覚えている。
ユニオンの魔女会には優秀な魔女しかいない。そんな崇高な魔女会に所属している自分が立派に思えた。
自分は他の魔女とは違う。優秀で高貴な魔女なのだと思っていた。
しかし……入ったのはいいものの、そこからは地獄だった。
ソフィアの魔女会入会日。
ソフィアは事前に指定された場所へ赴く。
そこには大きな門が一つ聳え立っていた。
ソフィアは門の前で約束の時間まで待つ。
門の中から魔女が一人現れた。
ファニージル
「あなたがソフィア?」
ソフィア
「……そうです」
その魔女の名はファニージル。ユニオンの魔女会に所属する魔女だ。
ファニージル
「ついてきなさい。ユニオンが待っているわ」
ソフィアは、ファニージルと共に門の中へと入る。
門の先には大きな屋敷があった。
その屋敷の中へ入ると、正面の道の端と端に多くの魔女が整列していた。
どうやらソフィアを迎えてくれているようだ。
そして正面の道の先には、高座があり、そこに最古の魔女ユニオンが椅子に座っていた。
ファニージルとソフィアはユニオンの目の前に立ち、その場で一礼をする。
ファニージル
「ユニオン。こちらがソフィアです」
ソフィア
「ソフィアです…。この度は最高峰の魔女会にお招きいただき、ありがとうございます」
ユニオン
「ようこそソフィア」
「今日から貴方は我々の仲間となる」
「この魔女会に新たな入会者を迎えるのは100年ぶりだ…。皆喜びに満ちている…」
貴方を含めてついにこの魔女会も50名を超えた…。
「ご存知の通り、この魔女会は一握りの魔女しか入会できない崇高な組織である」
「日々鍛錬を怠ることなく、この魔女会で更なる成果を出してほしい。そしてこの魔女世界をより豊かに変えることを願っておる」
ソフィア
「はい……」
ソフィアの入会式は終わり、ユニオンは屋敷の奥へ戻った。
この後、私は魔女会のメンバーへ自己紹介することになった。




