カローナの記憶3
私が魔女会帰りに海岸で歩いていると、そこに小さな小さな”歪”があったんだ。
その歪みはパッと見では見つけることができない。私が海を眺めて、じーっと見ている時にたまたま気が付くことができたんだ。
その歪みは”外側”に剥がれていた。
例えるなら掲示板に貼られている紙が外側にめくれているようなものだ。
私はその歪みに人差し指で触れてみた。微かに魔力を感じた。
その歪みの端を2本の指で掴み、ゆっくりと剥がしていく。
徐々に歪みは広がっていき、手を入れることができるほどの大きさまでめくることができた。
しかし、一度手を離すと、その歪みは閉じてしまった。
(これは一体…何だ?)
(誰かの魔法か?確かに微かに魔力を感じたが……それにしては魔法のようには感じない)
私は思い切って歪みを大きく剥がしてみた!
歪みは1名の魔女が通れるぐらいの大きさまで広がった。
(ゴクッ……)
私は興味津々でその歪みの中へ入ることにした。
そしていざその歪に入ってみると、私は別の場所へと誘われた。
そこは野原が広がる綺麗な場所だった。先ほどいた海の砂浜とは全く別の場所だ。
(どこだここは……?)
私はとりあえず、その野原を歩いていった。
暫く進んでいくと、遠くの方に村が見えた。
私はその村へ行くことにした。
その村に住んでいたのは……魔女でも家畜でもない、人間だったのだ。
その時はまだ、人間とは知らず、私はたくさんの魔女がその村に住んでいるのかと思っていたんだ。
すれ違う人間にここはどこなのか聞いた。
「ここはクックル村だよ。あんた旅人かい?」
はじめて会った人間は老婆だった。色々私にこの村のことを教えてくれた。このクックル村というところは、”ルナ国”という地域の一部であるという。
そして私はその老婆にここの村に住む魔女たちはどこの魔女会に属しているのか尋ねてみた。
しかし、その質問をした瞬間、老婆は頭を傾げた。
「はて?なんて?もう一度言ってもらえる?」
私は老婆にもう一度、所属している魔女会を尋ねた。
しかし、老婆は聞き取れているにもかかわらず、何度も何度も聞きなおしてくる。
この時私は、この老婆はふざけているのかと思った。
しかし、どちらでも無かった。この老婆は本当に魔女会のことを知らなかったのだ。
魔女会どころか、魔女の存在すら知らないという。
私は率直に尋ねた。あんたたちは魔女じゃなければ何者なんだっと……。
そしてその老婆は答えた。私たちは人間だと。
私はこの老婆が何を言っているのか、全く理解できなかった。
私はこの老婆以外の人間にも同じ質問で尋ねた。お前たちは魔女では無いのかと。
聞かれた人間共はこいつは何を言っているのだと言わんばかりに不思議そうな目でこちらを訴えてきた。
どうやらここに住んでいるのは本当に魔女ではなく、人間であることがやっとわかった。
確かに魔女と容姿は似ているが、魔女と異なる点を見つけたのだ。この村を歩いている者は皆、魔力を微塵たりとも感じないのだ。魔女は意図的に老婆になるもの、子供になるものがいるが、人間は魔力を感じられないことから、本当に年齢を重ねた老婆や生まれてまもない幼い子供がいることがわかった。
これが私が感じ取っていた「違和感」の正体であった。確かに誰一人魔力を感じないのだ。
私はやっと理解した。この世界には魔女と似て非なる存在がいることに。
そう……それこそが人間。容姿は似ているが、中身が全く違う別の生き物。
私はこの人間という生物の発見に驚きと共に好奇心が湧いてきた。暫く人間のふりをしてその村に住んでみることにした。
人間の村に住んで約2か月。だんだん人間という生命体をわかり始めた。人間にはどうやら獣と同様に性別があるようだ。
そして、どうやら異性の交配で新しい命を生み出しているようだ。私たちと容姿は似ているが、全く中身は違った。
そしてもう一つ、魔女と決定的に違う点があった。
それは人間が魔法を使えないことだ。
人間は魔法を使えない代わりに道具を使う。
ナイフやハンマー、そして剣に弓。あらゆる道具を使って生活をしていた。
村には道具屋、防具屋、それから居酒屋など様々な店があり、魔女には無い文化がそこにはあった。
村の生活に慣れた私は、夜の街へと出かける。店に入り、料理と酒を頼んでみる。
人間が主に食べているものは米と肉と野菜と魚だ。
食事に関しては私たち魔女とあまり変わりはないようだ。
料理も煮ているものや焼いているもの、生で食べるものと似ているものが多かった。
私が一人で食事をしているところに、人間の兵士が1人、私に近づいてきた。
その人間は酔っぱらっており、私にちょっかいを出してきたのだ。
兵士
「姉ちゃん一人かい?変わった格好しているなおい!」
私はその人間の酒臭さに我慢できず、どっかへ行ってくれと言った。
しかし、兵士は立ち去ることはせず、それどころかもっと汚い顔を私に近づけてきた。
兵士
「冷たいこというなよ姉ちゃん!俺にかまってくれよ」
その兵士は私の顔に向かってげっぷをした。
あまりの臭さにびっくりもしたが、周りにいた人間どもがその様を見て笑っていることにもっとびっくりした。
(醜いな……こんな下品な生き物なのか人間は)
兵士はさらに調子にのって、私の太ももや胸元を触りだした。
「その汚い手をどかせ」
兵士
「あん?」
私はもう一度その兵士に忠告した。その手をどかせと。
しかし、兵士はその言葉が気にくわなかったのか、さらに突っかかってきたのだ。
兵士
「おいおい姉ちゃん。俺はこう見えても国営騎士団の一人だぞ?」
「そんな口の聞き方していいんか?おう?」
アルヴェ
「お前らは国の”戦士”なのか?」
兵士
「お前みりゃあわかるだろうよ!!これ!この格好!!どー見ても騎士団の鎧に騎士の剣を持ってくるだろう!?」
「それに俺の顔を見ればわかるだろう?まさに騎士って顔だあ!」
周りの兵士たち
「ハハハハハ!!そんなわけねーだろ!!」
アルヴェ
「そんな面で戦士か。人間も大したことないんだな」
兵士
「はあ?おめえよ…さっきからなめてんじゃねーのかコラあああ!!!」
アルヴェ
「その手を除けろと言っているのがわからないのか?」
「聞き分けもできない奴が国の兵士とは笑える」
兵士
「てめえええええ!!」
その兵士は私に手を出そうとした。
人間がどのくらいの強さなのか知りたかったこともあり、私はわざとその人間の"攻撃"を受けてみた。




