カローナの記憶2
私たちはそれからも諦めずに挫けずに魔法の研究を続けた。
今まで不可能と思われた時空停止魔法、そして魔法体先導魔法。それぞれを生み出せるように失敗を繰り返してきた。
そして遂に、我々は思い描いていた”夢の魔法”をこの世に誕生させたのだ。
プシュウウウウウ……
ダリア
「すごい…本当に止まっている!?」
ソフィアの両手にはカエルが一匹静止していた。
息もせず、胸の鼓動も聞こえない。ただその一匹だけが静止しているのだ。
カローナ
「やった…成功だ」
ソフィア
「やったああああああ!!」
ソフィアは突然大声をあげ、カローナとダリアを抱きしめる!
ソフィア
「やった!やったわ!!ダリア!!カローナ!!」
そのソフィアの喜びようは普段の彼女からは想像できない。
いつも冷静沈着な彼女が少しの魔法の成功でこんなにはっちゃけるとは思いもしなかった。
私たちはその後も研究に研究を重ね、自分たちの魔法をさらに改良していった。
そしてそれから約10年が過ぎた。
カローナはいつものようにアッシュペインの本拠地へ足を運んだ。
そこにはダリア、ソフィアだけではなく、もう一人魔女がそこにいた。
カローナ
「……どちら様?」
アルヴェ
「何…この薄汚いの」
ソフィア
「こらアルヴェ。この子はカローナ。私の魔女会の一員であり、私の親友よ」
アルヴェ
「お前…全く魔女会に姿を現さないと思いきや、こんな奴とつるんでいたのか!?」
その魔女の名前はアルヴェ。カローナと同様に大ババ様の魔女会に属する最上級の魔女の一人だった。
ソフィアとは真逆で、私たち下級魔女を見下し、そしてこのアッシュペインの活動にも難癖をつけてきた。ダリアは世間一般でいう"上級魔女"そのものだった。上級魔女は下級魔女を魔女として扱わない。その常識通りの魔女だった。
カローナ
(なんでこんな奴ソフィアは連れてきたんだ?)
私とダリアは不快な気持ちでアルヴェとソフィアと会話をしていた。
こんな奴来なければいいのに。終始そう思っていた。
何故ソフィアがアルヴェをここに連れてきたのか。
それはアルヴェをアッシュペインに入会させるわけでも無く、私たちの実験にも協力させるわけでも無かった。
ソフィアがアルヴェを呼んだ理由それは……。
アルヴェ
「人間だよ」
ダリア
「人間……?」
ソフィア
「そう。人間。ほらこれを見て」
ソフィアは水晶を懐から取り出し、私とダリアに見せた。
ダリア
「何この魔女……変わった顔しているわね」
カローナ
「顎に毛がたくさん…なにこいつ!?」
ソフィア
「二人ともよく聞いて。これは魔女ではないわ」
ダリア
「え?」
アルヴェ
「さっきから言ってるだろ。人間だよ人間」
カローナ
「人間?魔女と何が違うんだ?この毛か?」
ダリア
「こいつは人間のオスよ」
カローナ
「オス……!?」
ソフィア
「そう。人間は我々魔女とは違って性別があるのよ。動物と一緒」
ダリア
「見た目は私たちにそっくりね……。二足歩行だし、体の構成もほぼ一緒」
「これは魔女じゃないってどうして言えるの?」
ソフィア
「人間と魔女の違いはさっき言ったように性別があるってことと、
それから私たちのように魔法が使えないっていう大きな違いがあるわ」
カローナ
「魔法が使えない!?へえ……変な奴らだね」
ダリア
「それでこの人間とやらは一体どこで見つけてきたの?」
ソフィア
「それはアルヴェが教えてくれるわ」
アルヴェ
「なぜ私がこんな下種どもに話しなくちゃいけないのさ」
ダリア
「ッ……」
ダリアはアルヴェの見下す態度にイラっと来たのか、顔が険しい。
ソフィア
「まあまあアルヴェ。貴女の武勇伝を聞かせて頂戴な♪」
アルヴェ
「なんでソフィアはこんな奴らと…」
ソフィア
「アルヴェ」
アルヴェ
「わかったよわかったって……怒るなよ」
「よかったなお前たち。ソフィアのお陰でお前たちは私の話を聞くことができるんだ。ソフィアに感謝しな」
カローナ
「……」
私はアルヴェが話し出すたびに唇を嚙み締める……。
カローナ
(いつか……いつか必ず越してやる)
アルヴェは椅子に腰を掛け、足を組み、両手を椅子の袖にあてて体を後ろに倒し、偉そうに語りだした。
アルヴェ
「私が人間を見つけたのはつい数年前の話だ」
「それは本当にたまたま見つけてしまった……どうしてあんなものがあったのか今でもわからない」
「それは我々魔女がいる世界と人間がいる世界を繋ぐ歪」
ダリア
「歪……?」
アルヴェ
「その歪に入ったら、私は人間がいる世界に行くことができたんだよ……」
アルヴェは人間世界の話を続ける。
その話はまるで嘘偽りで作られたような話であった。




