カローナの記憶1
いつからだろう……。
周りの魔女と同じように生きるのが嫌になって、私は社会のレールからはみ出した。
私は底辺の魔女だった。この世界では"下級魔女"は"下"に見られる。
世間では多様性を認め合っている風潮があって、さぞ差別や階級など無いように思えるが、
現に”下級”という名目が存在する。私はその下級という名目に当てはめられている。
私はその下級、つまり底辺という言葉が大っ嫌いだった。
いや…好きな奴なんていないだろう。誰しもが、他者より優れ、他者に尊敬されたいと思っているはずだ。そう考えるのが普通だろうと私は思っていた……。しかし、この魔女会はそうじゃなかった。
私が所属する魔女会のメンツは誰もが普通であることを求めていた。
下級という烙印を押されながらも、平等や無差別の教えを第一にしていたのだ。
他者より優れようとか、他者が憧れるような存在になろうとかそんなものを求めない。
皆等しく、そして多様性を認めて生きる。お互いに横並び、つまり馴れ合いをしたいとそう望んでいるのだ。それが表っ面の魔女の社会だった。
そして私が所属しているこの魔女会は、さぞかしその理想を体現したような、クソつまらない、何の面白味の無い集団であった。
その魔女会のメンツは平等な考えを常識として、宗教として、神としてとらえて生きていやがる。
「反吐が出る」
私は常にその現状を嫌った。
この社会も、この魔女会も、そしてそんな世界に入り浸っている私自身にも愛想をつかしていた。
何か成し遂げたかった…いや、このままいるのが耐えられなかった…。
そんなことを考えながら日々過ごしても、何かできるわけでもなく、何かするわけでもなく、
ただただ意味のない日々が過ぎていった。
そんなある日、私は出会う。とある"上級"の魔女に……。
その魔女は上級の中でも最上級の魔女会に属していた。そんな高い位であるにも関わらず、
彼女は魔女の社会から外れることを望んでいた。
彼女の名前はソフィア。大ババと呼ばれる世界最古の魔女の最上級の魔女会に属していた。
地位は私とは比べ物にならない。私なんかが話せる相手じゃない。
しかし、彼女は"格下"であるはずの私に対等に接してくれたのだ。
出会ったのは200年前…。
私が下級の魔女会を脱するために魔法を研究していた時のことだ。
たまたま私が研究していた静止魔法にソフィアの目がとまったのだ。
こんな下級の魔女が作った魔法など、皆見もしないのに、なぜかソフィアは私の魔法に興味を持ってくれた。
ソフィアはよくその魔法について色々訪ねてきた。
世間の常識では、上級の魔女は下級の魔女など相手しない。
むしろ見下す態度をとる奴が多い。見下すのはまだいい方だが、中には下級魔女を奴隷のように扱う奴もいる。
しかし彼女は違った。見下すところか、彼女は私と対等に接してくれたのだ。
そしてある日、彼女は私にこう言った。
「私と一緒に世界の常識を覆さないか」
その時の私はその言葉に未来を感じていた。
その言葉は荒んでいる私の心を明るく照らしてくれたのだ。希望をもたらしてくれたのだ。
もちろん私は二つ返事ですぐ回答した。いや…違う。最初は少し躊躇した。
最上級である魔女が、こんな私を仲間に入れてくれるのか?
何か裏があるんじゃないかってそう思っていた。
しかし、彼女は純粋に私を誘ってくれたのだ。
私のことを想ってくれて、そして私の心に希望を見出してくれた。
この世界には絶望しかないと嘆いていた私にとって、ソフィアは救世主だった。
それから数年後、私はソフィアと共に新しい魔女会を設立することにしたのだ。
その魔女会の名前はアッシュペイン。
アッシュペインは現在の魔女世界を覆すことを目的に密かに活動を始めることになった。
それから数か月後、私たちのアッシュペインにもう一人仲間が増えた。
彼女の名前はダリア。私と同じく下級魔女であり、彼女もまた現状に不満を持ってこの魔女会に参加した。私とソフィアとダリア3人でいくつか魔法を研究し、そして新たな魔法で既存の魔女会を出し抜こうと考えていた。
毎日毎日魔法の研究を行い、日々魔法の研究を行う。しかし、研究しても研究しても中々実績を見出すことができなかった。
ダリア
「くそ!?全然だめだ!!」
カローナ
「私たちの魔法粒子じゃ思い描いたものは作れそうにないね……」
ダリア
「やっぱり無理なのかな…私たちには」
カローナ
「そんな…あきらめないでよダリア」
ダリア
「やっぱり上級クラスの魔女じゃなきゃ、こんな高レベルな魔法を作れない」
ソフィア
「そんなことはないわ」
カローナ
「ソフィア……」
ソフィア
「あなたたちの魔力は確かに上級魔女と比べてわずかなものだけど」
「でも…魔法で大地を凍らせたり、龍を複製したりするアイディアは他の魔女にはできないことだわ」
ダリア
「でも…どんなに空想で思い描いても…それを実現できる力が無いのよ……」
ソフィア
「大丈夫よダリア。絶対に作れる」
ダリア
「……なんでそう言い切れるの?」
ソフィア
「ダリア。あなたが描いた魔法を実現できない理由は何かしら?」
ダリア
「……それは…私に才能が無いから」
ソフィア
「違うわ」
ダリア
「え?」
ソフィア
「才能なんてものは、”おまけ”みたいなものよ」
「大事なのは何故自分に魔力が足りないのか”原因”を知ることなの」
カローナ
「原因……」
ソフィア
「そう原因。それがわかれば、誰だってそれを正して成長することができる」
「あなたはその才能が無いという言葉で自分で自分を止めてしまっているだけ」
「その一言で簡単にあきらめてしまうから、あなたはいつまでもそのままなのよ」
ダリア
「!」
ソフィア
「才能が無いから。そう言ってしまえば簡単に済んでしまうの」
「その言葉を使って貴女は自分の成長を止めているんだわ」
カローナ
「なるほど…」
ダリア
「でも…原因なんてどうやってわかればいいのか……」
カローナ
「大丈夫。少しずつそれを明確にしましょう。ダリア一人じゃない。私やカローナもいるのだから、
お互い問題となるところは指摘して、しらみつぶしのように原因を明らかにしてそれを直していきましょう」
「そのために私たちは協力しているのだから。それこそがアッシュペイン。我々は一人じゃない。力を合わせて前へ進みましょう」
ダリア
「ソフィア……」




