世界の変革5
世界サミット。以前はムーンチャイルドで行われていた各国の首脳会議であったが、
龍の襲撃により、施設は破壊され、いくつかの国の首領が死亡したため、開催が延期されていた。
されど、龍の襲撃から約2か月、再びサミットをクラフト国で開催されることになった。
度重なる龍や魔氷の被害により、世界の人口は約4分の1減少し、いよいよ人類は後がなくなってきたのだ。各国の首領たちを集め、龍や魔氷の対策を第一に進めることになった。
そして、つい翌日、龍がクラフト国のラウル研究所に出現した。
龍1体ですら太刀打ちできないのに、3体も現れ、さらに龍だけではなく、魔女の軍隊も現れた。
そんな絶望的な状況であったが、奇跡的にラウル研究所は龍たちを退け、施設を守り抜いた。
この戦闘は人類にとって大きな前進となった。今までは魔女や龍を撃退することができなかったことに対して、ほぼ死傷者0人で、敵を撤退させることができたのだ。
今回のこの成果は世界各国へ通達され、人類に大きな希望を与えることになった。
そして今回を機に、再び世界サミットでラウル研究所の戦いを参考に龍と魔氷の対策を行うことになった。そのサミットにドラフやガタリアたちが出席し、より具体的な方針を立案することになったのだ……。
ドラフたちは自分たちで開発した魔法障壁装置を発表し、この機材のお陰で龍や魔女たちを退けることができたと説明した。
そしてこの魔法障壁装置は、魔女や龍の攻撃を防ぐだけではなく、魔氷を溶かすことにも成功しており、今後の人類に必要不可欠であることを説いた。
この日は魔法障壁装置の説明で終えたが、翌日ドラフたちは世界の首脳たちにこの魔法障壁装置を複製する計画を提案した。
初めは賛同する者が多かったが、イヴが懸念していた通り、中には計画について物申すものもいれば、反対する者もいた。計画案としてはまずまずの印象であったが、この計画を世界で推進していくにはまだまだ詰めなければならない部分が多くあった。
ドラフたちと首脳たちはこのあと何日もかけてこの計画について議論を重ねてきた。
この計画が受理されるまで時間がかかることはドラフも想定内であったが、思った以上に反発する意見が多く、賛成する国は多いものの、なかなか受け入れてもらうまでに時間がかかっていた。
世界サミットが開催されてから約10日目。ドラフたちは今日も首脳関係者たちとこの計画について話し合っていた。クラフト国の主導で魔法障壁装置を開発することに懸念する国や、そもそも魔法障壁装置に疑念を抱く国もあったが、賛同する国も徐々に増えてきた。
イヴの言う通り、すべての国の意見を統一することは難しく、ドラフはこの会議の裏で賛同する国と共に魔法障壁装置の開発を進めていた。本来計画は世界サミットで受理されなければ、各国で魔法障壁装置の開発は認められていなかったが、ドラフたちは受理を見越して、先に賛同国に魔法障壁装置の複製装置を手渡し、その国で魔法障壁装置を製造していくようにお願いをしていた。
世界サミットの受理を待っていたら、いつまでたっても計画が進まず、下手をすれば、また龍や魔女に襲撃され、せっかくのチャンスが潰れてしまうかもしれない。少しでも早く、世界規模で魔法障壁装置を開発し、魔氷や龍の対策を広めることが、最優先であるとドラフたちは考えていたのだ。
一方、ミスリルたちは毎日毎日魔法障壁装置の開発、および複製装置の製造を行っていた。
魔氷を溶かすことができる粒子はミスリルとミランダしかつくれない。
ミスリルは魔不死石を使用して、彼の脳内でイメージした物質を生成する。
ミランダは左手で魔氷を溶かす魔法を生成し、それをドラフが作成した容器にため込んでいく。
ひたすらこの作業を繰り返して、複製を行っていたが、全世界で広めていくためには量が足りず、彼ら二人での生成には限度があった。
そこでリリィやアマミたちは、ミスリルの複製装置を分析して、自分たちの力で生成する計画を立案。
ミスリルが作り出した複製機を解剖し、人工的に作成できないか研究を続ける。
リリィやミスリルたちが研究している傍ら、イヴはミランダの魔法を分析していた。
何故かミランダの魔法のみ魔氷を溶かすことができ、他のトランヴェルの魔女たちでは魔氷を溶かすことができないのだ。イヴはミランダの生成した魔法を細かく分解し、ミランダの魔法の正体を掴もうとする。ミランダの魔法が解明できれば、もしかしたらイヴやアイナでも魔氷を溶かす魔法を生成できるかもしれない。
イヴ
(ミランダの魔法は本当に謎だ。まず魔法を目視できない。透明っていうのがまた不思議な点だ)
(ミランダの魔法はどうやらこの世には存在しない魔力を秘めている…。やはり外の世界の力なのだろう)
(マザーコントロールとはいえ、外の世界の知識はほぼ皆無……もうこれ以上は分析が難しいな……」
(……やはりミランダとミスリルにつくってもらうしかないのか)
(ミランダの魔法を解明できれば、魔女戦においても有利になるに違いないのに…何か突破口は無いものか)
一方、アイナはクエリと共に魔法の訓練を行っていた。
お互いに魔法を生成しては放っていき、お互いの魔法を避けたり弾いたり相殺したりして己の魔力を磨き上げていった。
アイナはつい最近まで落ち込んでいたが、吹っ切れたのか、以前の落ち込んだ様子は見られなくなり、
むしろ前向きな姿勢で、気合の入った様子であった。
アイナ
(絶対に…絶対にミンカたちを助ける)
(そして…パパとママを取り戻すんだ)
アイナは以前に増して魔力が向上していき、徐々に強くなっていった。
クエリもアイナの魔法に対応しながら、魔女戦に向けて魔力を向上させていった。
クエリ
(あの龍の襲撃から2週間…。いつまたここに敵の襲撃があるのかわからない)
(次の戦闘時にはきっと、魔女たちも何か策を練って襲ってくるはず)
(ドラフさんたちがいない今、私にできることは力をつけること)
(待っててノーズ。そしてイト、サカ…貴方たちも必ず救って見せる)
ドラフは世界規模で魔法障壁装置の展開、ミスリルとミランダは魔女対抗粒子の生成、リリィやアマミたち研究員は魔法障壁装置の複製、イヴはミランダの魔法の解析、アイナとクエリは魔女訓練……それぞれやるべきことをやり、次回の戦闘に向けて準備を進めていた。




