十六夜前夜4
カリアがペルー村から町外れの病院に戻った。そこには父ガゼルが病院の前で立っていた。
ガゼル
「お帰り」
カリア
「どうしたの?お父さん…こんなところに立って」
ガゼル
「ララ…突然だが今日の夜に調査団との会合があってな…今から出掛けなければならないんだ」
「すまないが今日は一人で病室に泊まってくれ」
カリア
「…そうなんだ」
「うん……わかったよ」
ガゼル
「夕飯はいつもの通り食堂にあるからそれですましなさい……あと明日昼には戻ってくるからそれまではここにいるんだよ」
カリア
「はーい……」
ガゼル
「じゃあ行ってくるから……ゆっくり部屋で休んでなさい」
カリア
「うん……足下暗いから気をつけてね……」
ガゼルはペルー村へ向かっていった。
カリアは病室に戻り、ベッドに横たわる……。
(疲れた……)
カリアはそのまま眠りについた……。
午後21時ごろ、村は静まりかえっていた……。
騎士団長のコッホは控え室で剣を布で磨いていた。
「騎士団長……魔女狩隊が到着しました」
コッホ
「……きたか」
コッホは剣を腰につけ、御神体へ足を運んだ。
そこには魔女狩隊の一人ナハンジがドラフと話をしていた。
ドラフ
「遠いところからご苦労さん」
ナハンジ
「とんでもない……調査お疲れ様です」
ドラフ
「恐らく戦闘になることが予想される……早速申し訳ないが、準備のほどお願い」
ナハンジ
「はッ」
コッホ
「……」
コッホはナハンジたち一向を控え室に案内した。
コッホ
「こちらでお待ち下さい」
「22時に調査団がララに聞き取り調査を行います……その際は御神体の内部で待機願います」
「もし問い詰めた結界、ララが魔女として判明した場合、ドラフ研究長から討伐の指示が出されます」
ナハンジ
「承知した」
コッホ
「まあ……本当に彼女が魔女であるとは思えませんがね」
ナハンジ
「いや……魔女である可能性は非常に高い」
コッホ
「何故です?やはり彼女から検出した魔法粒子の濃度が高いからですか?」
ナハンジ
「当たり前だ…コッホ殿はそんなこともわからないのか?」
コッホ
「……」
(わかるはずがない……いくら数値が出ようとあんな瀕死な子供が魔女のはずがない…)
(机上の空想って奴だ)
ナハンジ
「貴方の発言は騎士団長とは思えぬ下劣な発言だな」
納得いかないコッホ…眉間にシワがよっている。
コッホ
「申し訳ございません……浅はかな発言、誠に申し訳ない」
ナハンジ
「まあいい…下がりたまえ」
コッホ
「……」
コッホは己の感情とは裏腹にナハンジに頭を下げ、控え室から出ることにした。
ナハンジ
「騎士団長」
コッホ
「はい?」
ナハンジ
「騎士団長は魔女に対する知識があまりないとお見受けするが……一つ覚えていただきたい」
「魔女の容姿は少女であることが多い」
コッホ
「……ふん…私はあの少女が死にかけていたことをこの目で確認している……彼女が魔女ならばあのような状況にはなるまい」
ナハンジ
「魔女は演技も堪能だ……過去の事例からすれば、魔女はか弱い人間にも化けたことがあるし、今回のように子供に成りすましたケースもある」
コッホ
「……あの少女は昔から村にいたと聞く…村の者は彼女が魔女で無いことを知っているはずだ」
ナハンジ
「報告書によれば……当日彼女は重症だったと聞く……それが何故無傷でいるのか?これはどう説明するつもりだ?」
コッホ
「……それは」
ナハンジ
「ドラフ研究長が推察するに彼女はすでに死んでいて魔女が彼女に化けているという」
コッホ
「……まさか」
ナハンジ
「そうでなければ辻褄が合わない……この説であれば魔法粒子の件も傷の件も合致する」
コッホ
「……なるほど」
コッホはナハンジの考察に納得したくないものの、納得せざるを終えなかった……。その考察が今までの中で一番しっくり来るからだ。
ナハンジ
「魔女との戦闘になる可能性は高い……貴方も覚悟をしておいた方がよい」
コッホはナハンジの言葉にたじろぐ。
ナハンジ
「我々魔女狩隊が魔女と交戦したのはわずか7回…」
「どれも勝利したことはない」
「心してかかれよ」
コッホ
「いざとなれば心してかかります……」
コッホはナハンジに一礼をし、その場を離れていった。
コッホ
「もし本当に彼女が魔女ならば……見物だな」
コッホはドラフやナハンジの言葉に半信半疑ながらも戦闘準備に取りかかる………。
ララは病院での手伝いが終わり、病室で体を休めていた…。
ほとんどの村人が重症であり、手当てするにも人数が足りない…。村の医者も重症のため、国から何名か医者と看護士が派遣されている。それでも手が回らない…。病人はみな重症であり、回復魔法も薬草も効果がない…。
ララ
「…地獄」
ララは村の惨状に加え、多忙な看病で疲れはてていた…。
ララ
(そうだ…今日お国の方と約束があるんだった…)
ララは疲れはてた体を起こし、調査団との面談に向けて支度を始めた…。
(…本当のことを話したほうがいいのかな……)
(お父さん……お母さん……私はどうしたらいいの……?)
(でも……もし私が魔女の力を得たことを話せば……私の魔力で皆を救えるのかもしれない……)
ララは圧倒的な魔力を所有しているが、自らコントロールができないでいる。昨日の魔法も今では意図して使用することができない。つまりは宝の持ち腐れなのだ……。
(……本当のことを話そう……)
(もしかしたら誰かが私の魔力を使って、皆を救ってくれるかもしれないから……)




