夜話1
トランヴェル
(そうだな……まずは、この世界はユニって奴がつくったって前言ってたよな?)
イヴ
「はい」
トランヴェル
(そのユニって奴は人間なのか?)
イヴ
「それはわかりません」
トランヴェル
(わからないのか……)
イヴ
「私の情報では“この世界の創生主はユニという者である”これだけなのです」
トランヴェル
(……そうなのか)
(イヴの情報ってのはもしかして辞書みたいな感じなのか?)
イヴ
「辞書……?たしかに言われてみればそのようなものかもしれませんね」
「私の脳内に含まれている情報はあらゆるキーワードにその説明文が載っているような感覚なので
トランヴェルの言う辞書という表現はあっているかもしれません」
トランヴェル
(……そうか)
トランヴェルは心の中でイヴはやっぱりプログラムされた存在なのではないかと推測していた。
そしてこの世界はゲームのような世界で、ユニという作者がプログラムを組んで作り上げた
仮想世界なのではないかと推定していたのだ。
イヴ
「しかしトランヴェル。なぜユニを人間だと思ったのですか?」
トランヴェル
(イヴが以前私のことを“観測者”といっただろ?)
イヴ
「はい……」
トランヴェル
(私が観測者で創生主のユニと同じ世界にいたというなら、私は人間だった記憶があるから
ユニも人間じゃないのかなって思ったんだ)
ミランダ
「ん!?トランヴェルって人間…だったの?」
トランヴェル
(恐らくな。そのような記憶が私に残っているんだ)
イヴ
「トランヴェルが人間だとすれば、確かにユニも人間の可能性があるでしょう」
「トランヴェル……私はあなたの言う人間の時の記憶をお伺いしたい。どのような記憶が残っているのですか?」
トランヴェル
(まあ記憶というか夢というか……うーんとな)
(私は日本という国にいてだな。その国で学生をやっていたんだ)
イヴ
「二ホン……?聞いたことないですね。私のデータベースには載っていません」
トランヴェル
(そうだろうな。この世界には存在しない。恐らく私とユニがいる世界だ)
(そしてな。私は毎日学校へ通うんだ。電車で)
(そしてつまらない授業を受けて家に帰ってご飯を食べて寝る生活を延々と繰り返しているんだ)
ミランダ
「学生ってことは魔法学校か何か学んでいたの?」
トランヴェル
(いや……恐らくその世界には魔法自体存在しない)
(単に本の知識を学んだり、計算をしたり、歴史を学んだりしていたんだ)
ミランダ
「魔法が存在しないんだ……まあ私たちのいるこの世界も機械文明時代には魔法なんて無かったけど」
トランヴェル
(機械文明!そうだそれに近い!私がいた世界は身近にたくさんの機械があったんだ!)
(あのフンボルト国が近いイメージがある。ビルがあって、列車があって。あんな街並みだった)
ミランダ
「へえ……私フンボルト行ったことないからわからないけど……」
「もしかしてトランヴェルって過去の世界から来たとか?」
トランヴェル
(それは私も考えたことがあった。でもやっぱこの世界と少し違うんだ)
(私がいた世界には小型の電話機があったり、車があったり若干使っていたものが違う)
ミランダ
「デンワキ……?クルマ?」
トランヴェル
(ああそうか。この世界にはどちらも無いからな)
(デンワキはこの世界でいう通話するための魔法陣に近い。
それからクルマは馬に近い。自動で移動してくれる機械のことを言うんだ)
ミランダ
「そうなんだ……全然想像つかないけど」
イヴ
「私の“辞書”にも載ってませんね……」
「機械を主に使用している世界であれば、我々の世界と通ずるところがあるのですね」
「トランヴェルたち観測者はアンセスターに近い存在なのかもしれません」
トランヴェル
(アンセスター?)
イヴ
「はい。高性能な機械を使いこなせる世代をこの世界の住民はアンセスターと呼んでいます」
「アンセスターは200年前の時代の人たちを指します。機械文明より前の時代ですね」
「アンセスターの世代は多くの機械を使いこなし、空飛ぶ機械や巨大な探索機などを発明しました」
「その高度な機械を作動させることは難しく、複雑であったため当時でも操作できる人間は限られていました」
「それから誰でも機械を使えるように操作が安易なものが作られるようになりました。
そして大衆でも機械を使えるようになり、機械文明時代が訪れたのです」
「それから魔法文明が広がり、今では機械を使用できる人間が極わずかとなっています」
「結局、アンセスターの時代では巨大で高性能であるものが多かったのですが、扱うことができる人が少なかったため廃れてしまったのです」
「トランヴェルの話を聞いているとデンワやクルマが複雑な機械を扱っているように思えます。
アンセスターの時代に似ている気がするのです」
トランヴェル
(なるほど……まさしく私がいた世界にはアンセスターがたくさんいたな。みんな機械や道具をたくさん造っていた。空飛ぶ機械や巨大な機材を使える人たちは一部いたのは確かだ)
(ただデンワやクルマは誰でも使えるものだったから機械文明に近いかもしれないがな…)
トランヴェルはここで思い出す。魔女協会でダマとの会話でアンセスターという言葉が出たことを。
トランヴェルは魔女協会の地下に巨大な機械があり、それを動かした。その話を聞いたダマが
トランヴェルのことをアンセスターなのかと問うたのだ。
トランヴェル
(そういやあの巨大な機械……アンセスターがつくったものだったのか)
イヴ
「どうしましたトランヴェル?」
トランヴェル
(いや……何でもない。話を続けよう)




