調査結果2
午後2時、ドラフは騎士団長に調査結果を報告していた。
この騎士団長の名はコッホという。
コッホが所属している国営騎士団は全部で13隊あり、
彼はそのうちの第12隊に所属している。
普段は騎士団のとりまとめを行っているが、今回はペルー村の大火事に緊急で対応するため、出動することになった。
ドラフは鞄から今回の調査結果の資料を取りだし、コッホに手渡した。
ドラフ
「現在の調査結果だ」
ドラフが手渡された資料には今回の村の事件について詳細が記されていた。
コッホは渡された資料に目を通す……。
資料の内容は下記の通り記されている。
[調査結果報告書]
事件内容
3月29日深夜1時(推定)
ペルー村の魔法障壁が故障により解除。
魔物によって村が襲撃される……
…………
死傷者 346人(3月30日現在)
生存者 23人
……
事故原因
魔法障壁装置の出力部品に欠陥あり。
3ヶ月前の定期点検見時には問題なし。
現在要調査中……
…………
村を襲った魔物120体の死体確認。
原因は不明。
…………
生存者の中に魔法粒子の濃度90%超の少女を確認。
その少女は当日、腹部に重症な傷を負っていたが、翌朝無傷であることを確認。
……魔物の死体から類似の魔法粒子を確認。
以上の要因から少女が魔女である可能性あり……
その少女の顔写真が載っている。
コッホはその少女の顔を見て、目を疑った。
コッホ
「この子が魔女……ですか?」
ドラフ
「そうだ。まだ証拠としては多少不十分だが可能性は高い…」
コッホ
「あの華奢な小娘が…魔女?」
コッホは昨日、わずか少ない生存者であったララを背負って、
病室まで運んでいた。彼からしたらあんなに幼い少女が魔女とは到底思えない。
コッホ
「何かの間違いでは…?」
ドラフ
「私もはじめは目を疑った……しかし残念ながら数値はでてしまっているんだ……」
コッホ
「その数値は本当に正しいのですか?」
ドラフ
「見ての通り機器にも異常はない……さらに他の機器でも計測したが結果は一緒だ」
「他の患者の数値と見比べれば異常であることがわかる」
「さらに5枚目の資料を見て欲しい」
コッホは資料をめくり、記載内容を確認した。
ドラフ
「そこに書かれている通りララだけが無傷なんだ」
コッホ
「無傷……?」
コッホは昨夜のことを思い返した。ララはお腹から大量に出血をしていた。早急回復魔法をかけたが、それでも傷が塞がらず、応急処置としてタオルと包帯を巻いたのだ。それは間違いない事実。その応急処置はコッホ自身が行ったのだから……。
コッホ
「昨日彼女は腹部から出血していた……そして私はその場で応急処置をしたんだ!無傷な訳がない!」
ドラフ
「そう……彼女は重症だったゆえに誰よりも早く病室に運ばれていた……」
「しかし…病室では傷が浅かったことを確認している…」
コッホ
「浅い…?」
コッホは不思議でならなかった…あの出血量から浅い傷な訳がない。回復魔法を唱えても治らない傷であり、決して浅い傷ではなかった。
ドラフ
「そして驚くことに今朝リリィが様態を確認したところお腹に傷はなかったそうだ」
コッホ
「…バカな」
「誰かが上級の回復魔法をかけたんじゃないか?」
ドラフ
「昨日魔法使いはいなかったんだ。誰がそんな回復魔法かけられると思う?」
「上級の回復魔法だとしてもあの服の血の量から察するに相当な回復魔力が必要だ…」
「ララの服の血の量は相当なものだ…普通の人間なら死に至っているだろう」
血は腹部からスカート全体に染み渡っていた。
彼女は相当な血を失ったと推測できる。
薬と同様に回復魔法も万能ではなく、死に至るほどの傷や病に対しては効果がほとんどない。
ドラフ
「まだ不明瞭な点が多々あるが…急がねばならない」
「私は上層部に今の結果を報告する…騎士団長…貴方も魔女討伐の準備を進めて欲しい」
コッホ
「魔女……討伐……?」
コッホは未だにその調査結果を受け入れられずにいた……。
コッホ
(昨日助けた少女が魔女……?そんなバカな……)
(昨日彼女は瀕死の状態だったんだぞ……魔女のはずがない……)
「ドラフ研究長……もう一度よく調べて欲しい……正直私は彼女が魔女だとは思えない…」
ドラフ
「君の気持ちはよくわかる」
「わかるが……結果は数値として現れてるんだ」
コッホ
「昨日……彼女は本当に死ぬか生きるかの瀬戸際だったんだ……
そんな彼女を助けて…魔女だなんて……もし魔女ではなく本物の人間だったらどうするのだ!?」
「助けた命を殺せというのか!?」
ドラフ
「殺せ」
コッホ
「……な…」
ドラフ
「魔女は何としてでも殺さなければならない。故に魔女の可能性があるのなら殺しておいて損はない」
コッホ
「何を言って……」
ドラフ
「魔女は我々の敵だ!」
コッホ
「あの少女が魔女だと本当に言えるのですか!?……あの傷だらけの少女が!?」
ドラフ
「魔女ならば傷を負う演技だってできる!」
コッホ
「……」
ドラフ
「いいかい?騎士団長……魔女は我々の常識を遥かに越えた存在だ……死体のふりなんぞ朝飯前だ」
「やつらは我々人間と容姿が似ている……似ているが故に人間の中に潜んでいても気づかない!」
「あいつらは生かしてはならない……絶対にだ!!
奴等は人間を虫けらだと思っている!生かしてはいけない存在なのだ!」
「討伐せねばならない……奴等を……この世から一匹残らず!」
ドラフの声がだんだん荒くなっていく……。
コッホ
「……それでも私は…彼女が魔女とは思えない…」
ドラフ
「この数値が言っているんだよ!奴が魔女だと!」
コッホ
「…」
ドラフ
「ならば君はこの数値をどう説明するかね…?」
コッホ
「そ…それは」
ドラフ
「どう説明するのかと聞いているんだ!!」
一瞬場が凍りついた……。
ドラフ
「失敬……ついついむきになってしまった……」
ドラフは近くの椅子に腰を下ろす。
「騎士団長……明日の夜だ」
コッホ
「え……」
ドラフ
「明日の夜に魔女討伐を行う……!」
「それなりの戦力が必要だ……」
コッホ
「……しかし」
ドラフ
「今回の結果を上層部に報告すれば必ず討伐指示が下るだろう」
「上層部も恐れているのだ……魔女を」
コッホ
(あの少女を……討伐?……そんなバカな)
ドラフ
「たとえ彼女が魔女ではなかったとしても……少しでも魔女の疑いがあるならば……消した方がよい」
コッホはドラフの言葉に動揺していた……。
コッホ
「もし本当に彼女が魔女であるならば貴方のいうように討伐せねばならないでしょう……私とて魔女は人間の天敵であり、倒さなければならないことぐらい理解しております」
「しかし…もし彼女が人間だったらどうするんですか?」
「その魔法粒子の数値も何かの間違いで実は無実だったとしたらどう責任をとるつもりなんですか……!?」
「もし彼女が無実だとしたら……とんでもないことになる……
国民からも王政からも他国からも多大な責任を問われる……」
ドラフ
「あのさ」
ドラフは威圧的な視線でコッホを睨み付ける……。
ドラフ
「彼女が人間ならばこんな数値はでないんだよ……何度もいうけどさ……」
「数値は嘘をつかない」
「君みたいに物事を主観的に感情的に判断するほうがリスキーだ」
「こんなあからさまな結果が出ているのに、魔女を見逃したらどうなる?」
コッホは蛇に睨まれた蛙のように反論できずにいた……。
ドラフ
「僕はこの数値を信じるよ」
ドラフは椅子から立ち上がる……。
そしてコッホの肩に手をポンっと叩く……。
ドラフ
「まあ…最終的に判断をするのは上層部だ…彼らが討伐を許可しなければ君の望み通りになるだう…」
コッホ
(望み通りとかではない……私はただ……もしも彼女が人間だとしたら……)
ドラフ
「君は君でちゃんと騎士総長に話をしとくんだよ」
「魔女との戦闘に備えるように……ね」
コッホ
「…し……承知」
コッホは承知したものの今回の討伐は実現しないだろうと踏んでいた…。
(……あの保守的な上層部が討伐に許可をくださはずがない……魔女かどうかもわからん小娘を始末するなんて…そんなことは無いだろう)
(それに……ここ数年世界的に魔女による被害が皆無に等しい……魔女討伐事態、重視していないのだからこんな小さい村の事件に口出しはしないだろう…)
しかし、彼の考えは甘かった………。




