世界の始まり
アイナは本を読んでいた。
彼女が読んでいるのはパンドラの箱というタイトルのものだ。
ソフィア
「アイナーご飯だよ!」
母親のソフィアの声が聞こえてくる………。
アイナは返事をして、本を閉じ、ベランダへ向かう。
そこには母ソフィアが作った料理がテーブルに並んでいた。
アイナは椅子に座り込み、テーブルにつく。
アイナ
「パパは?」
ソフィア
「そろそろ帰ってくるんじゃない?」
ガチャン………
玄関の方からドアの開く音が聞こえる………。
アイナ
「パパだ!!」
ソフィア
「あらいいタイミング」
アイナは椅子から降りて玄関の方へ走り出す!
玄関ではオードリーが靴を脱いでいた。
アイナ
「パパ!お帰り!!」
オードリー
「ただいまアイナ」
オードリーはアイナを抱き上げ、ベランダへと足を運ぶ。
家族3人で食事を済ませ、オードリーはソファーに腰をかける。
そしてアイナはオードリーの膝に座り、本を読み始める。
アイナ
「まだ世界にワザワイが無かった頃、パンドラという女性がいました」
「パンドラはコウキシンで開けてはならない箱を開けてしまいました」
「なんとパンドラが開けた箱からワザワイが飛び出してきたのです!」
「ワザワイは世界に広がり、あっという間に世界は絶望のフチにたたされました」
「パンドラは苦しみました」
「コウキシンにかられた自分のせいで世界がワザワイに脅かされてしまったからです」
「もうアトモドリはできません………ただただパンドラは苦しみ、悲しみ、後悔することしかできませんでした」
「そんな悲しみにくれたパンドラにどこからか声が聞こえてきます」
「大丈夫だよ」
「その声はパンドラが開けた箱の中から聞こえてきました」
「私はキボウ。大丈夫悲しまないで。私がいるから」
「パンドラが開けた箱の底にはキボウという心強い味方がいました」
「ワザワイに満ち溢れたこの世界に唯一このキボウだけが人々を照らしました」
アイナは黙々と本を読み上げる。それを聞いていたオードリーはアイナの頭を優しく撫でて、彼女の話をゆったりと聞いていた。
ガシャアアアアアアアン!!
突然、家の窓ガラスが割れる………!?
アイナ
「………!?」
アイナは驚き、窓の方へ目をやる。
すると次の瞬間、割れたガラスから大量の炎が部屋に入り込み、一瞬にして家の中に広がっていった!
そしてソフラが炎の中へと包まれてしまう!
アイナ
「ママ!?」
炎が燃え広がり、部屋の中が真っ赤に染まる!
アイナ
「パパ………ママが!?」
アイナはオードリーへ顔を向けるが、
彼の顔は血まみれになっていた………!
アイナ
「パパ!?」
ポタポタとオードリーの顔から血が流れ、アイナの顔に滴る………。
さらに炎は燃え上がり、オードリーの全身に火がまわる。
アイナはあまりの絶望的な光景に泣き叫ぶ。
炎に巻かれ、アイナの大切なものが全て焼けていく。
ゴオオオオオオオオ………
アイナは気がつけば、暗闇の中に一人ポツンといた。
アイナ
「ひっくひっく………うぐう………」
アイナは涙が止まらず、その場で泣き崩れていた………。
コオオオオオオオオオン………
暗闇の中に一点小さな光が見えた。
アイナは涙を流しながら、その光に目をやる。
その光は突然アイナに話しかけてきた………。
「大丈夫」
アイナは光を見つめる………。
「私が来たからには大丈夫」
アイナ
「………誰?」
光
「君を殺させはしない………」
「どんなに辛くたって」
「どんなに悲しくたって」
「どんなに絶望的であっても………」
「君が生きることを諦めない限り、私が君の味方になる………!」
カッ!!
突然アイナの脳裏に様々な映像が写し出される………!
一人の少女が魔物に襲われ、死にかける場面が写し出される。そして次のシーンにはその少女が圧倒的な力で魔物たちを退治していく。
次にその少女が人間たちに襲われるシーンが映し出される。少女は人間たちと戦い、殺される寸前まで追い込まれる。しかし、そこに別の少女が助けに入る。
二人の少女は力を合わせ、人間たちから逃れる。
さらに次々といろんな少女たちが苦難を乗り越えていく様が映し出される!
アイナ
「………これは………何………?」
光
「これは今まで君のように死にかけてはそこから這い上がって戦ってきた者たちの記憶だ」
アイナ
「………あなたは誰?」
光
「私はトランヴェル」
「君を助けに来た………!」
光の正体はトランヴェルだった。
トランヴェルは何度かアイナを呼び掛けるうちに、彼女の精神の中に入ってしまったようだ。
アイナ
「助けに………?もしかして………キボウ?」
トランヴェル
「キボウ?」
「そうだな………私はキボウ」
「君の命を救いに来た希望」
アイナ
「お願い………助けて」
「パパとママを助けて!!」
トランヴェル
「………」
トランヴェルは先程までアイナの夢の中を見ていた。
夢を見る限りではアイナの両親は炎に巻かれて死んだ。
しかし、ここは夢の中。実際はもしかしたら生きているかもしれない。
トランヴェルはアイナの言うキボウとして前向きに答えることにした。
トランヴェル
「すまないが、私の力では助けることができない」
「ただし、救う方法はある」
アイナ
「本当に!?」
トランヴェル
「本当だとも………」
「そこで一つ約束してほしいことがある」
アイナ
「約束………?」
トランヴェル
「そう約束」
トランヴェルはこのままではアイナが死んでしまうため、一か八か魔女になってくれるようにお願いをすることにした。
トランヴェル
「君も共に戦ってほしい」
アイナ
「戦う………?」
トランヴェル
「そう………この映像に映ってる皆のように」
「どんなに絶望的でも君は苦難と戦い続けてほしい」
「君が望む未来を掴むまで………パパとママを救うまで」
アイナ
「パパとママを救う………」
アイナの脳裏に両親の二人が映し出される。
トランヴェル
「戦う相手は魔女だ………私たちを絶望の淵まで追い込んだ災いのような存在」
アイナ
「………ワザワイ」
トランヴェル
「君のパパとママは災いに取り込まれた………助けるには君の力が必要なんだ」
アイナ
「私の力………?」
トランヴェル
「そう、君が自分の力でパパとママを救うんだ」
アイナ
「パパとママを救う!」
トランヴェル
「そうだ………君が救うんだ」
「私は君に力を与えることしかできない」
アイナ
「………!」
「戦えば望みは叶うの?」
トランヴェル
「ああ。戦い続ければたどり着く。その望みに」
「どんなに絶望しても希望が味方する」
アイナ
「………キボウ」
アイナの体が紅く紅く染まっていく………。
そして暗闇は徐々に紅く光っていき、深紅となる………!
オオオオオ………
外では竜がドラフたちと戦っていた。
ドラフの銃もクエリの魔法も竜に通用せず、彼らは苦戦を強いられる………!
竜の吐き出した炎が島全体の草木を吹き飛ばす!
クエリの防御魔法で彼らはかろうじて身を守りきったが、心身ともにボロボロだ………。
クエリ
「………ここで死ぬの………?」
ドラフ
「………」
彼らは死を覚悟していた。
もはや竜に勝てる術な無い。
ドオッ!!
突然後方から爆発音が鳴り響いた!
竜が後ろを振り向くと、そこには炎の柱が一本建っていた………!
驚くことに、炎の柱は周りの焼き焦げた森林を再生させていく!
ドオオオオオオオオ………
炎は広がり、この孤島全体へと広がる!
クエリとドラフも炎にまかれるが、燃えるのでは無く、むしろ逆に体が修復されていく………!
ドラフ
「………これは?」
火柱の中からアイナが姿を現す………!
彼女は体の周りに炎を纏い、そして片手には金色の杖を握っていた!
アイナは杖から金色の炎を生成し、竜へ放つ!




