ドラフとガゼル
ドラフはガゼルのいる部屋に入った。
この部屋にはドラフとその娘カリアの二人がいるはずだったが、部屋にはガゼル一人だけだった。
ドラフ
「どうです?体調は?」
ガゼル
「あぁ……大分よくなったよ」
ドラフ
「痩せましたかな?」
ガゼル
「そうか?」
ドラフはガゼルの痩せこけた顔を見てガ疲労しているように見えた。ドラフにとってガゼルは体力自慢のおっさんで、全く疲れを知らないスパルタのイメージを持っていた。
横暴で自信に満ち溢れた頑固親父であったが、疲労している顔から全くその面影がない。
ドラフがガゼルと出会ったのはちょうど10年前。
ドラフは地方から王宮の研究室に配属になり、その研究室でガゼルと出会ったのだ。
当時のガゼルは研究長であり、ドラフは新人研究員であった。
ガゼルの研究は魔法障壁がメインであり、彼はエリート中のエリートであった…。しかし今は外れ町に住み、昔のような覇気がなくなっていた。
(人はわずか数年でここまで変わってしまうものなのか…)
ドラフはガゼルの表情を見て驚いていた…。
ドラフ
「あれ…娘さんはどちらへ?」
ガゼル
「娘は今友人を探しに行ったよ……」
ドラフ
「今外出されてましたか」
ガゼル
「どうやらその友人は無事らしい…あまりにも落ち着きがなかったから部屋から出してしまったよ……不味かったかな?」
ドラフ
「いえ……特に問題ないですよ」
ドラフはガゼルの対面に腰を下ろした。
ガゼル
「王宮のほうはどうだ?」
ガゼルは落ち着いた様子でドラフに話しかける。
ドラフ
「まあ…ボチボチですかね……私も今じゃ研究から離れて調査団に移りましたが…」
ガゼル
「いつから研究室から離れた?」
ドラフ
「2年前からですね……」
「ガゼルさん今はペルー村へお住まいだったんですね」
ガゼル
「ああ……あの日以降ずっとこの村に住んでいたよ」
ドラフ
「ここで商いをされてたんですか?」
ガゼル
「うん……魔法防具を主に売買してたんだ」
ドラフ
「そうですか……」
ドラフはコーヒーポットとマグカップを出現させ、
ガゼルにコーヒーを注いだ。
ドラフ
「どうぞ」
ガゼル
「ああ……久しぶりにみたな……その芸」
ドラフ
「いまだにこのパフォーマンス使えるんですよ」
ガゼルはドラフが注いだコーヒーを飲み、うまいと一言添えた。
ドラフ
「さて……ガゼルさん……」
ガゼル
「ん?」
ドラフ
「昨日は魔物に追われて森へ逃げ出した途中だったんですよね」
ドラフは事件当日の話を切り出した。
ガゼル
「……そうだ」
ガゼルは先程と比べ、どことなくこわばっていた。
ドラフ
「いつ頃魔物は村に現れたんですか?」
ガゼル
「……魔物が現れたのは夜中だ……時間は正直わからない」
ドラフ
「……ふむ」
ドラフは口を指で撫でながら、思考を巡らす。
ドラフ
「ガゼルさん…実はね…お会いする前に村長にお話をお伺いしてたんですよ」
「村長の話によればガゼルさんは村の結界が解かれていることに気づかれて、魔法障壁装置を検査しに行ったと…」
ガゼル
「そうだ……あの日私は結界が薄れていることに気付き……すぐ村長へ報告して魔法障壁装置へ向かったのだ……」
ドラフ
「その時の状況をお聞かせください……まずガゼルさんが結界が弱まっていることにきづいたのはいつ頃です?」
ガゼル
「……あれは確か18時ごろかな」
ドラフ
「どうして結界が弱まっていることにきづいたのです?」
ガゼル
「私がちょうど御神体の近くによっていたんだ……
そこで結界が弱まっていることにきづいた……
結界が薄く貼られていたんだ……」
ドラフ
「なるほど……それで村長のもとへ駆け寄ったわけですな?」
ガゼル
「……そうだ」
ドラフはどことなくガゼルの話し方に緊張が漂っていることを感じた……。
ドラフ
「それから御神体へ向かって魔法障壁装置を動かしたのですね?」
ガゼル
「ああ……すぐ装置に異常がないか確認しに行ったよ……
結局、装置に不具合があってだんだん結界が薄れていったんだ」
ドラフ
「不具合の詳細をお伺いしたい」
ガゼル
「えー……まず装置がもう古くなっていたせいか、結界の出力部分が傷ついていたんだ……装置自体は問題なかっただろうがな」
ドラフ
「つまり出力する部品がダメになっていたため十分に結界が張れていなかったということですか?」
ガゼル
「……そうだ」
ドラフ
「ふむ……確かにガゼルさんへお伺いする前に装置を見ましたが装置自体は特に問題無さそうでしたけどね…まさか出力部分に問題があったとは…」
この時ガゼルは焦っていた……。
魔法障壁装置にはもちろん問題は無く、出力部分に関しては至って正常だ。まさか村に戻るとは想定していなかったため、誤魔化すしかなかった。ただ魔法障壁装置の結界を解除した時、結界を再度出現させないために出力部分を魔法で焦がしてはいた。
これでなんとか話がまかり通るか否か、ガゼルは賭けに出ていた。
ドラフ
「そしてガゼルさんが懸命に結界を貼ろうとしたものの願い叶わず、魔物が押し寄せてきたと言うわけですな」
ガゼル
「……非常に残念な結果になった……私が装置を直すことができればこんなことには……」
ドラフ
「いやガゼルさんはよくやってくれましたよ……貴方は誰よりも早く結界の異常に気付き対処しようとしたのですから……」
ガゼル
「……」
しばらく沈黙が続いた……。
ドラフはコーヒーを飲み干し……立ち上がった。
ドラフ
「お話しいただきありがとうございました…お陰様でだいたいの全貌は掴めました…」
ガゼル
「あんまり役に立てずに申し訳ないな…」
ドラフ
「いえ…とんでもござません……疲れているところ失礼しました」
ドラフはガゼルに一礼をしその場を部屋から出ていった……。
そしてドラフは魔方陣でリリィに発信を行った。
リリィ
「はい、リリィです」
ドラフ
「あー……ドラフですけど…至急魔法障壁装置を見せてもらえるかなぁ?」
リリィ
「承知しました」
ドラフが電話をしていると、目線の先にララとカリアが会話をしていた……。
ドラフ
(……ほう……友達ってのは彼女だったのか……)
彼女たちはお互いの安否に安堵し、励まし合っていた。
ドラフ
(ちょうどいい…)
ドラフは彼女らへ向かって歩きだした。




