第三十話
「その三。ウルティア王女の安否を早い段階で気づけたこと。プラス五十点」
「だろうと思った。まさかあんな形でバッタリ会うだなんて夢にも思わなかったが。なんで俺だけあんなことになったんだ?」
俺が本物のウルティアと出くわした、レンテ書籍館での一幕。
きっかけは、ギースが化けていた偽物のウルティアに追いつくために、ミノタウロスのスピネルさんに思いっきりブン投げてもらって、いよいよパトリフィアに差し掛かろうかという時に、突如として俺が幽体離脱したために起きた出来事だ。前提が長い!
「原因は、ギースが霊体状態のウルティア王女を隠しておくために、念入りに用意した特殊な結界にぶつかったからよ。対スプリガン用……というより、対私用に。どうやらギースを含めた闇夜の影の奴らは、大昔の私が作った動物由来の仮面を研究して、私の仮面転生術に影響を与える魔法なり呪術なりを生み出しているようなのよ。レンテ書籍館に仕掛けられたやつも、ギースが被っていた擬態蜥蜴の仮面によって、ウルティア王女が霊体状態だったからだと推測できるわ」
「それは重々理解してるつもりだぞ。だけどな。どうしてぶつかった時点では霊体じゃなかった俺がすり抜けられなかったのか、それだけが納得いかん」
あの瞬間に、体の主導権がフレシアと入れ替わったのだ。俺が動かしている時は、フレシアは霊体として存在することはできないが、逆は成立するというのも変な話だ。
「実は私も、少し変だと思ったのよね。だってあの時、一緒に私とクリスもいたでしょ? 対スプリガンなら私達も落ちてたし、対私向けならクリスはセーフでも私はアウトだった。なのに私も素通りできた。じゃあ男であるアルシオンだけがダメだというなら、ウルティア王女が出れない理由はなんでってなる」
「だから結局、霊体だけが通れない結界ってことになるんだが、なーんで俺がダメだったんだぁ?」
考えられるとしたら、俺とフレシアの二心同体が許されなかったことしかありえないんだが、その理屈も皆目見当もつかない。
「ここでこれ以上議論しても埒が明かないわ。話もだいぶ逸れたし、戻すとしましょう。経緯はどうあれ、あなたは早期にウルティア王女と遭遇した。これで十分よ」




