第二十話 太陽の涙、究極の選択、翡翠の慟哭 前編
少女は見ていた。
その戦いの一部始終を。
少女は願った。
約束した人の勝利を。
しかし少女は絶望した。
最後まで人々を震撼させる、圧倒的な脅威に。
戦慄き、躊躇い、怖気付く。
大好きな人をここまで追い詰める、底知れぬ恐怖に、絶望した。
だから少女は、心に決めた。
今度は私が、二人を助ける番だと。
大好きな二人に、恩返しをする番だと。
例えそれが、自分を犠牲にするやり方だとしても。
それが、苦渋の決断であったとしても────。
────そして、少女は戦場へと舞い降りた。
ウルティア・ラグーナ・パトリフィア。
半日に渡る戦いも、ようやく終局を迎えようとしていた。
◇ ◇ ◇
「何で…………何でそこにいるんだよ! ウルティア!」
(ヴォエホッエホッ! な、何!? ウルティアだと!?)
【ユリイカ】によって創られた、瑞樹とフレシアが共有する精神世界。
そこに映し出された外の景色の、中央に映るギースよりも後方を見て叫ぶ瑞樹に、落ち着きを取り戻したユリイカが驚愕の声を漏らす。
同じものを見たのか、息を呑むフレシアにつられて視線を向けると、確かにそこには青透明な姿のウルティアが存在しているのだ。
(見まごうはずもない。妾にも確認できた。だが何故じゃ! お主、レンテの館で別れた後の彼女を知らぬのか!? 最後に会話をしたのは他でもないお主じゃろう!?)
「俺が知るかよ! こっちに来る前に安全な所に隠れるようには言ったが、その後は知らねえ。本当にそれっきりなんだ」
瑞樹は言い訳すれすれの弁解を述べるが、フレシアもそれが嘘だとは思えない。
いくら攻撃を受けない霊体状態だとしても、特に戦闘の知識もない人間を、誰が好んで戦場へ連れてくるのだろうか。
「だから、あいつがここにいる意味が分からねえんだ! 因縁の相手がいると分かってて、辛い思いをすることも分かってて、それでもなおここに来る動機が────はっ!」
画面を凝視し続けていると、そこに映るウルティアの動きに変化が起きた。
しばらく辺りを見回すように首を動かした後、おもむろに手を伸ばし移動し始めたのだ。
その行く手にある────否、いる者は、ウルティア。
正しくは、ウルティアの身体。ギースの口元から飛び出し、今は奴自身に乗っ取られて躍動している、本来彼女にとっての在るべき場所。
この状況で、ウルティアが自分の肉体へと戻る理由など、考えられる限り一つしかない。
「まさか…………あいつ…………!」
「な……何してるのよあの子!」
ありえないことを排除していって、それでもどうしても考えたくなかった考えに奥歯を噛み締める瑞樹と、理解を超えた妹の突然の行動に意味を求めたフレシアは、多少の差異はあれどほぼ断定的に同じ結論を導き出していた。
◇ ◇ ◇
懐かしい。
僅か二週間ぶりの、母国を照らす太陽の煌めき。
パミラーナの山々から覗く御来光に、これほどの眩しさを覚えたのはいつ以来でしょうか。
あの夜、私の目下にてお姉ちゃんを誑かす狂人ギース・サクロムに攫われて以来、私の目には永久の暗闇が蔓延っていました。
数日に及ぶ昼夜を経ても、晴れることなき暗雲。
国境付近の洞窟へと軟禁され、あの男による愛玩という名の監視に加え、生気なく従順に尽くす二体のミノタウロスによる警戒網を敷くという周到さ。
武力なきパトリフィアの国力では、どうすることも出来ないと、毎日のように考えていました。
そんな時でした。あの男が苦い顔をして私に話しかけたのは。
「エルフの女が一人、君を追ってここに向かって来ている」
その特徴、行動を独り言のように吐露する男に隠れて、私は大いに喜びました。
あの御方が、フレシア様が私のために来てくれたのだと。
まるで雲間から覗く一筋の光の線が、暗く澱んでいた世界を変えてくれるかのような、希望の幕を開けるほどの出来事が、ギースの焦る顔と共に現れた。そう感じました。
しかし、それもつかの間の幸せだったのです。
ギースは、焦燥の色をすぐさま少年のような無邪気な企み顔に隠すと、胸元から取り出したハンケチーフを私の口許に嵌め、猿轡のように後頭部で縛りました。
それから、聞いたこともない詠唱を始めました。
「マギア・オービス・テンプス・ディメンズ!」
するとどうでしょう。私の身体の中で首から下が、力を入れても全く動かせなくなったのです。
そして用心のためか、私の両手首を持ち上げて鉄の鎖を巻き付けました。
その時です。
「うわあああああああああああああああああああああ!」
すぐ近くから響き渡ってくる、悲愴的な女性の絶叫。
声色ですぐに誰か分かりました。フレシア様です。
あまりに辛そうな叫びに駆け寄りたい気持ちになりますが、身体が動かないため無理なのです。
しかし、すぐそこにまで助けに来てくれたという事実に、少なからず安堵したことを覚えています。
ですが、目の前の壁に突き刺さった巨大な斧を見て黙考していたギースは、突然私の口元を隠すように手を添え、壁際に寄りかかっていた私を離すように移動させ、動かせないのをいいことにドレスを丁寧にしたためつつ足先を入口の方へ伸ばさせました。
この行動に何の意味があるのかと考えていると、
「その声はもしや、フレシア様ですか!?」
なんと、私の声色を真似て私の代わりにフレシア様と話し始めたのです。
互いに顔が見えないのに、何故そんなことをするのでしょうか。
ですが、会話の方向性がおかしな方へと移っていきました。
フレシア様が、ここまで来られたのに私を助けられないと仰るのです。
ギースによる誘導的な質問の返答でもありません。恐らく自らの意思での言葉だと思いました。
それほど思い詰める原因とは、一体どれほどの辛苦なのでしょう。言葉のひとつひとつが、心に深く染みてきました。
最後は「必ず戻ってくるから」と仰ってはおりましたが、終始私の振りをしていたギースに、ついには呼び捨てで呼ばれてしまうフレシア様。何とも嘆かわしいです。
口元から手が離れ、鎖を掴んで壁際に私を投げ戻すと、あの男は嬉々とした表情で、何も告げずに走り去っていきました。
二体のミノタウロスもいない今、私は一人です。しかし、謎の詠唱による金縛りで動かせないにも関わらず、私は全身に力を込めて何としてでも後を追いたいと思いました。
あの男がいなくなった直後、背中を逆撫でするような強烈な悪寒を感じたからです。普段から怖がっている怪奇現象などとは違う怖さに、冷たい汗が垂れるのを感じました。
奇しくもそんな予感は外れることを知りません。
戻ってくるなり、楽しそうな笑顔の男が最初に告げたのは、ウルティマお姉ちゃんを知っていること。
いないと言い張る奴に反抗しますが、高圧的な態度による恐喝で言いくるめられてしまいました。
次に告げたのは、フレシア様に手を掛けたこと。
どんどん表情筋が緩み出すギースの顔は、目も当てられません。私はただただ憎くて憎くて仕方がなく、半狂乱気味に怒りをぶつけますが、例の金縛りが未だに解けず骨折り損です。
そして、一度は晴れたと思っていた暗雲が、再び私の心に広がっていきました。
ギースは片腕で私の身体を持ち上げると、口を大きく開きました。人一人が難なく入るほど大きく開いた口に、私は呑み込まれてしまったのです。
◇ ◇ ◇
「なあ早く行かせてくれよ! 何で止めるんだよ!」
「そうよ! 早くしないと、あの子が……! だからお願い、止めないで!」
(…………)
怒りが飽和して溢れかけている瑞樹。
悲劇を予感し焦燥に駆られるフレシア。
二人は、考えさせてくれぬかと、そう言い残して黙り込んでしまったユリイカに、それぞれ訴えかけていた。
もしかしたら、ウルティアはギースに殺されてしまうかもしれない。
もしかしたら、ウルティアはギースを道連れに自決してしまうかもれない。
最悪の事態を避けるために早く飛び出したいのに、何故引き止めるのか。
いよいよもって我慢の限界が訪れようかというその時、ゆっくりと顔を上げたユリイカが、神妙な面持ちで話し出した。
(二人に問おう。ここに映る狂人、ギースと言ったか。この男の目的は何なのじゃ?)
「それは……その…………ウルティアを、殺すためじゃないの? あまり考えたくはないんだけど……」
(ならば何故、奴は未だにウルティアを生かし続ける? ただ殺したいだけなら、攫ったその日に隠れてするか、むしろ堂々と城の中で殺してしまえばよかろうに)
「あっ……!」
冷静に考えてみればその通りだわ、とフレシアは天啓を得た。
そのやり取りを受けて怒気が削がれた瑞樹も、突如浮上した新しい問題について一考する。
──確かに、助け出すことに夢中で、肝心のことを忘れていたな。どうして奴はウルティアをまだ人質として生かし続けているんだ……? 殺すことが目的じゃないなら、一体何故……? いや、今まで気づかなかっただけで、どこかにヒントはあったのか? どこだ? 頭フル回転させて思い出せ! ウルティアの誘拐……フレシアの瀕死……俺とヴェネットの邂逅……パトリフィアの人達……クリスとの出会い……ミノタウロス戦……戴冠式での決戦…………何だ? 何か引っかかっている気がするんだが……俺は何を見落とした?
瑞樹の思考が底知れぬ深淵に入りかけていた時、フレシアはユリイカに更なる疑問を投げかけていた。
「ウルティアを殺すのが目的じゃないとすると、一体奴は何がしたいのかしら? 私……ってわけでもなさそうね。あの夜に私をガリフ川に落としたのは、目的の邪魔になったから……ってことなのかしら? 腑に落ちないけどねぇ……」
(ふむ……ならばフレシア。お主やウルティアの母君で現パトリフィア女王のシュプリムが刺されたのは、それと同義か?)
「うーん、同じ様にも感じたけど、あの様子だと多分、私怨というか、逆恨みというか……ともかく、昔何か嫌な経験でもしない限り、あそこまでにはならないかも……」
思い出しながら、フレシアは苦笑を零す。
その会話を聞き流しつつ、瑞樹は更に思考を巡らせる。
──奴の……ギースの本当の目的は殺人じゃあないだろう。フレシアに女王陛下、あのメイドさんにウルティアも、生殺与奪は勝手なのに、ウルティアだけは無傷に等しい状態なのも謎だ…………いや、謎じゃない! 確か奴は、俺がここに来る直前に────
『そうかそうか、そんなに妹が恋しいか! そこまで言うなら見せてやる! とくと見やがれ! オレの大切な最高級の王女様をなぁ!』
────そうだ! 奴はウルティアを『コレクション』と呼んだ。つまり奴はウルティア本人か、彼女の持つ何かを指してそう呼んだんじゃないのか? 何かとは何だ? ドレス? 靴? それとも────。
◇ ◇ ◇
気がついた時、私はレンテ書籍館の宙を漂っていました。
もう私は死んでしまったのでしょうか。
なのに、まだパトリフィアにいるということは、何か未練でもあるのでしょうか。
何がどうなったのか全く分かりません。
ふと気になって自分の身体を見下ろすと、やはりというか幽霊らしく、足先まで透けていて床の模様も鮮明に分かります。
…………もしかして今の私、生まれたままの姿なの!?
…………どうしましょう。そう思うと急に恥ずかしくなって参りました。
こんな姿、国民の誰にも見せるわけにはいけません。
特に、殿方嫌いを公言している手前、何としてでも異性には────!
「そこにいるのは誰!?」
まさしく青天の霹靂でしょうか。誰もいないはずのこの書籍館から、人気を感じてしまったのです。
「は、早く姿を現しなさい! 私がこの国の王女、ウルティア・ラ・パトリフィアと知っての無礼かしら!?」
もう私だと把握してもらって構わないので、謎の人物に姿を現してほしい。密かに願いつつも、気持ちの上では現れてほしくない思いが葛藤して、人気を感じた方を避けるようにして本棚の合間を縫って移動して、私は愛読する本が置かれている場所へ急行しました。
この姿での移動は、普通に歩くよりも大変難しく感じました。
何せ物に触ることが出来ませんもの。また、重力に縛られないためか常に浮いています。すぐに慣れるはずもありません。
四苦八苦して辿り着くと、愛読書のパトリフィア国史が表紙を見せて陳列していました。
早速手に取ろうとしますが、私の手が空を切りました。当たり前です、幽霊ですから。
しかし、今はどうしてか、この本に触っていないと落ち着きそうにないのです。どうしたらいいのでしょう。
と、その時思ったのが、お母様から教わったあのおまじないを唱えることです。
『全てを知り、記憶し、理解する』。何のことかはよく分かりませんが、もしかしたらこの場を解決してくれるかもしれません。
私は念の為、誰かに聞かれないようになるべく小さな声で、囁くように唱えました。
「【ユリイカ】」
するとどうでしょう。国史の背表紙を掴めるではありませんか。
私はそれを手に取って抱えるようにして持つと、恐る恐る目を覚ました辺りまで戻りました。
ですが、他にも誰かいるだろうに、その者は一向に姿を現さないのです。
「い、いい加減に姿を現しなさい! そ、そこにいるのは、わ、分かってるのよ……!」
再び呼んでみますが、いるかどうかも分からないため、何だか急に怖くなってしまい、声の張りも些か低迷している気がします。
どなたか本当におられるのでしょうか。すごく不安です。
……はぁ、何だか疲れてきました。少し気負いすぎたのかもしれません。
他にも本を手に取ってみましょうか。
そう思い立って、手近な本棚に手を伸ばした時です。
本棚から、私と同じ幽霊の男性が現れたのは。
「い、いやあああああああああああああっっっ!」
それが、恐らく今もどこかで戦っていらっしゃる、アルシオン様との出会いでした。
◇ ◇ ◇
ユリイカは、フレシアに何の気なしに話題を振った。
(ところで、昨晩から気にはなっとったんじゃが……もう広場にいるということは、戴冠式はとうに終わっておるのか?)
「え、まだですよ! これから戴冠式をやろうという時に、ギースの奴が現れてめちゃくちゃにされたんです! 今更何を言ってるんですか!」
(お主こそ何を言うか、フレシア。広場にて行う王家の儀式は即位式であろう? 戴冠式は予め城内で、身内の者のみで厳粛に執り行うのが習わしじゃろうて。他でもない妾が始めたことじゃぞ。王家の者が知らぬはずがなかろうて)
「嘘よ! 私そんな話聞いたこともないわ! まさか戴冠式が既に行われていたなんて……!」
フレシアは、思いもよらない衝撃の事実に唖然としてしまう。
自分が今まで信じていたものが、ぼろぼろと瓦解していく感覚が彼女の中に蠢いていた。
「じゃあ何? 今の今まで私が戴冠式だと信じていたものが、実は即位式? え? でも何がどう違うの?」
「────王冠だ」
フレシアの疑問に答えたのは、怒りは既に消え、むしろ嬉しそうに薄ら笑いを浮かべる瑞樹だった。
「ようやく何か引っかかっていた靄が晴れたよ。俺のいた世界では、戴冠式は王や女王に即位した人物が、要は即位式を終えた人物が前代の王から戴冠されるのが慣例なんだが、パトリフィアじゃあその順番が逆なんだよ。つまり、王になった奴が戴冠するんじゃなくて、戴冠した奴が王になるんだ。前提条件が逆だったんだよ。しかも、だ。よくよく考えてみたら、俺にはこれがあったわ」
瑞樹がおもむろに指を鳴らすと、三人の前に突然一冊の本が現れた。
そのタイトルは──【パトリフィア国史】。
「この中にはしっかり書いてあったぜ。現シュプリム女王はもちろん、歴代のパトリフィアの王達が戴冠式の後に即位式を行っている事実がなぁ。さて、ここで問題。俺やヴェネットを散々間違った情報で煽った挙句、自分も結局勘違いしていたおバカさんはだーれだ?」
「むううう…………アル君のバーカ……」
弧を描くように身体を湾曲させながら煽る瑞樹に、フレシアは膨れっ面で反抗した。
「バカで結構。それでこの事実から導かれることはただ一つ。ウルティアが付けているあのティアラこそ、パトリフィアの王冠そのものなのさ」
得意気に瑞樹が指さした先の画面に映る、乗っ取られているとはいえ紛れもない本物のウルティアの頭にて煌めく、小さなティアラにフレシアは視線を移した。
「そしてギース。あの男の本当の目的は、ウルティアの命じゃなくて、パトリフィアの王冠を強奪することだと考えると、辻褄がピンと合うのさ。ウルティアを生かしていたのは、多分アレが本物だという確証がなかったんだろうな。だから即位式のあるこの日まで待ちわびて、女王陛下──お前たちの母親の王冠が偽物であることを知ったから、口封じも兼ねて刺したんじゃないか?」
身振り手振りを駆使して説明する瑞樹に、ユリイカも満更でもない顔で頷く。
そんな彼女に対し、瑞樹は核心をついて質問した。
「ここまでして手に入れたいほどの王冠だ。ただの飾りで済むはずがないだろうぜ。────ユリイカ。ウルティアが付けているこの王冠について、知ってることを話してくれないか?」
(……ふん、言われずとも分かっておるわ。これは、妾の代からパトリフィア王家に受け継がれし、特殊な魔力を宿した王冠でな。名を【夢魔の簪】という。妾の頃は微弱な魔力しか携えてなかったが、幾重にも及ぶ年月を経て膨大な量を留めておけるようになったのじゃ。悪夢に魘される家臣から、己が身を護るために髪に留めたのが名の由来じゃ。当時は、悪夢を見たものは魔に魂を喰われると盲信されていたんでな。奴自身が魔の権化と言っても差し支えないが、このようなものを欲するなど狂気の沙汰に値するぞ)
含みを持った笑みを浮かべつつ、ユリイカはギースの破天荒を吐き捨てた。
彼女に同調するように、フレシアも思わず頬が緩む。
(妾が知るのはこの程度じゃ。魔力を収容できる以上、これには魔道具としての価値が多少はあるが、それだけならばなんでもよかろうて。これに固執するほどの理由に思い当たる節はない)
「ふむ…………ユリイカが知らないんじゃ、本人に聞くしかねぇな。それにまだ、ウルティアを助けられる機会がなくなったわけじゃねぇ。むしろ────」
言いながら、瑞樹が見たのはギースの様子。
身体を広げて大仰な煽りをしていた先程までとは打って変わって、突如として頭を抱え悶え始めたのだ。
そして、浮いていたはずのウルティアの霊が完全に姿を隠していた。
「────今が絶好の機会なんだ! これを逃す手はねえぞ!」
(何だ? こやつは急にどうしてしまったのだ?)
いまいち察しが悪いユリイカに呆れ、瑞樹は思わず転びそうになった。
「ええ、そうね。もうこの男の顔も見飽きたところよ────アル君」
相槌を打ちながら、フレシアは転びかけた瑞樹の肩を支えた。
そしてゆっくりと起こしてあげると、優しく微笑みつつ、
「終わらせよう、この戦いを。私達姉妹の絆と、君の剣で」
と告げた。
「ああ。なんてったって俺は────救世主、だからな!」
ユリイカは、瑞樹とフレシアが光の粒子となって霧散した後の何も無い世界で、達観した笑みを浮かべていた。
(ふん、まあよい。妾はここでしかと見届けようではないか。この国の行く末を────この世界の未来を)
パトリフィア王女誘拐事件。
そのフィナーレは、神か或いは運命の悪戯故か、独りでに奏で始めていた。
ご一読くださり誠にありがとうございます。
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