悲劇の幕開け
後方から聞こえた音は、パァンという発砲音。と、同時に壊れるスピーカー、なりやむ陽気な音楽。踊り回っていた人々は突然の出来事に驚く間もなく視線を一点に集める。視線の先には拳銃や、ライフルを所持した5人ほどの男たちがいた。帽子を深くかぶり、布で顔を覆っている。
「Hello~、はぁわ~ゆぅ?結婚おめでとうデラぁ ふふふは」その中の一人が顔の布を取りながら笑いをふまえた、皮肉めいた声で再会の挨拶をした。
デラの顔はサーッと血の気が引き、死人のように真っ青になっていく。
「あんたは…」デラの声をかき消すように男が大声で笑う。
「さぁ~さぁ!皆の衆!!今日は裏切り者のジョン・アルビストンくんを~殺しにきましたぁ。」
「やっと見つけたと思えばこんな森の奥でこそこそと暮らしていたとわなぁ~」
男は歯をみせてざまぁみろというように嘲笑う。するどい犬歯がこれでもかというほどにむき出す。男の二つの宝石のような目玉がギラリと光り、低く殺意のこもった声がシンとした会場に響き渡る。
「まったくもって…」男は目をつむり息を深くすい、目を開く。
「滑 稽 、 滑 稽。」
その声と同時に銃撃が開始された。無数にとばされる鉄の玉に次々と倒れていく
人 人 人。きらびやかな飾りはバラバラに砕け、わずかな閃光をはなちながら地面に落ちる。泣き叫ぶ人、その場でうずくまる人、玉にあたり血を吐きながら苦しもがく人、狂ったように逃げ回る人。ダニエルは何がなんなのかこの男はなぜ父親の名を知っているのか今の状況でさえも、自慢の回転の早い頭が停止し何も理解する事が出来なかった。ただ目の前にみえたのは真っ赤な血と、倒れている血で染まった親しい友人親族。そして、その血の道をこちらに向かって走ってくる姉。強く手を引かれ、目の前の丸テーブルの下へと潜り込む。ようやく銃撃が鳴り止んだかと思うと、うめき声にまじり一発二発と発砲音が聞こえた。おそらく死んでない者にとどめをさしているのだろう。
「さっさと要件を済ませてくださいよ。」火薬と血の匂いにまじり若い男の声が聞こえた。そういうと、ほかの奴らは会場の外にでたらしく、のこっているのはあの男のみとなった。
「ジョォォ~~~ン~??」男の陽気な、だが殺意のこもった、聞くモノの精神を削るような声で父の名を呼ぶ。
「会いにきてやったぜ~?」
「歓迎してくれよぉ~俺の大好きだったジョン。」
真っ白だったテーブルクロスは飛び散った血飛沫で赤く染まり綺麗だった緑の芝生の所々にどす黒い血だまりができ、沢山の死体がころがっていた。
「ん~?」男は耳に手をかざし、耳をすました。
女のすすり泣く声。その声のほうに一歩、また一歩近づく。
物陰に隠れていた、女の髪をつかみ上げ、髪がぬけるほど強い力で引っぱり上げた。
「おぉ~~っとぉ!」男が口角を上げる。
「ジョォ~~ン~ダメじゃあないかぁこんな所に愛しい、愛しい大事な嫁さんをほおりだしたら。」
ダニエルとアナシスタはそれを聞いて、テーブルの下で息をのんだ。
「母さ…」ダニエルがおもわず声を出す。アナシスタはとっさにダニエルの口をおさえた。手は汗ばんでいて、震えていて、強く力がこもり息が出来なくなりそうだ。アナシスタのひたいから流れる汗は頬をつたい、ダニエルの頬に落ちる。バッと男が振り返る。テーブルクロスの下からでもわかる、男の殺気のこもった視線に体が凍りつく。
男は視線を戻すと、女を羽交い締めにしこめかみに銃を突きつけた。女の白い肌はかえり血でそまり美しいブロンドの髪にも血がべっとりとついている。女は震える声で言った。
「たすけて…貴方……ジョン!!!たすけて!…」
甲高い声が緊張した空気の中を響き渡る。男は大きく口角を上げ言った。
「ジョン~早く出てこねぇとおまえのたった一人のたぁーいせつな嫁さんが~…死んじまうぜ?」すると、ジョンが物陰からゆっくりと出てきた。
「ジョォォォン会いたかったぜえええええ?」
ジョンの額からは汗が流れ、唇を歯で堅く結んでいる。目には奴と同じ殺気の色が宿っていた。両手を上げ、震える口を開き言葉を放った。
「彼女を…離してくれ」
「いいねぇその殺気…だがぁ、そおぉぉぉいつはできねぇ頼み事ってもんだぜ?ジョン、」
「裏切り者には死よりも辛く厳しい制裁を、血の掟を忘れたのかぁ?」男は首を傾げる
「俺はもうそっち側の人間じゃあない!」ジョンは力強い声で断言した。
「だまれっっ!!!」唐突に男が怒鳴る。男は目をつむりゆっくりと怒りを押さえようと深呼吸する。目を開きジョンを睨みつけた。
「少し、昔話でもしようか」
「俺は親友だったお前に憧れていた、お前の狂った考え方は好きだったしお前にならどんなことがあってもついて行く覚悟だった。」
「昔のお前は冷酷で残酷非道でそりゃあかっこよかったよ、俺の全てだった!!」男の声が徐々に大きくなっていく。
「なのに、今のお前はなんだ!?結婚して綺麗な嫁さんと子供に囲まれて順風満帆に幸せそうに暮らしているだとっ!??」
「ふざけるなっ!吐き気がする!お前はそんな奴じゃあない!そんな世界はお前に必要ない!お前のいていい場所ではない!!」
男はきらした声を落ち着かせ唾を飲み込み一言付け加えた。
「だから俺はお前を闇に戻す、もとのお前に戻してやるんだ」
そういって男は引き金におかれた指に力をこめた。
「母さんっ!!」
誰よりも先に声を上げたのはアナシスタだった。
ダニエルはテーブルクロスの空間から外へと出ようとする姉を引き止めようとしたが、無力な手は震えるばかりで動かなかった。駆け寄ってくるアナシスタを男は容赦なく撃った。怒りで手が震えていたためアナシスタの足にあたり、アナシスタはその場に倒れた。
「やめて!!子どもたちには手を出さないで!!!」母親の悲痛な声がこだます。
アナシスタは痛みでゆがむ顔でテーブルクロスの間からわずかにみえるダニエルの震える瞳に笑ってみせた。右手の人差し指を唇にあてている。静かにというように。
ダニエルは口元を手でおさえて、震える体を少しでも落ち着かせようとうずくまった。




